第44話「偵察班⓵(御堂 聖、原田浩二他)」
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正直自分がここまで神経過敏だとは思わなかった。何がって──全然寝れないのだ。
いびき、衣擦れ、寝言……あとはなぜか夜になると活動的になる人達。集団生活はどうも気疲れしてしまう。ただ、どうあれ今夜はしっかり眠らないといけない。というのも、明日は仕事って言ったら変だけれど、僕の異能を使って仕事の様な事をこなさないといけない。
僕は一応避難所側には霊媒体質で浮遊霊と話せて、それである程度周囲の状況を調べる事ができる──という事になっている。それでこの物騒な東京を探索し、池袋から高田馬場の避難所まで来る事が出来たのだと。
それはまあ正しいと言えば正しい。実際僕は色んな浮遊霊の人達の力を借りているわけだし。でもそれが全てでもないというのも事実で、僕としてはその話していない事実をなるべく隠しておきたいわけなんだよね。
信じてもらえないかもしれないからとか、気味悪がられるかもしれないとかじゃなくて、お姉さんが嫌がっているのが分かるからだ。直接言われたわけじゃないけれど、お姉さんはなるべく僕以外の人には姿を見せないようにしている気がする。
──なんてつらつらと考えていたら、やっと少しは眠くなってきたかも……
ああ、なんだか声が聴こえる。
もう僕は眠っちゃったのだろうか。
確かに、頭は重いけど──
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かよわきものよ
なんじ、ほうじょうのみことともにわれのもとへきたるべし
ふるきかみがみより、このちをまもるつわものとなるべし
てんをつく、にほんのとうにてなんじをまつ
いそぐがよい
なんじらにのこされたときはみじかい
わがまもりがうしなわれるまえに
とくきたれ
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「わっ……!?」
翌朝、僕は首筋でうねうねと動くクロのひんやりとした感覚で目が覚めた。辺りを見回すと、避難民の人たちも起き始めている様だ。他の人たちにクロを見られる前に上着のポケットにしまい込んで、変な起こし方しないでね、という意味も込めて軽く握ったりしつつ立ち上がる。
それにしても何か変な夢を見たような……前にも見た事がある、気がする。
って──。
「いたた……」
なんだか体のあちこちが軋んでる! 急におじいちゃんになったような気分だ。ベッドで眠りたいなあ……それはともかく、今日はいよいよ「仕事」の日だ。
ちなみに僕は偵察班に入ることになっている。
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昨日の昼過ぎのことだった。
給水所でポリタンクから水を汲んでいたところ、後ろから声をかけられた。振り向くと小野田さんがいた。
「ちょっといいかな、御堂くん」
「はい」
「ウチにはさ、偵察班ってのがあるんだよ」
「偵察班?」
「そうそう。まあそう大層なものでもないンだけどね。危ない怪異とかが近くにいないか、良くない連中が近づいてきてないか……そういう事を調べたりするわけ。それだけじゃなくて、近くの、ほら、スーパーやらコンビニ跡から食料を持ち帰ったりもするんだ。危ない仕事だから、その分配給の割り当ても増えたりする。でね……」
小野田さんは何だか申し訳なさそうな表情を浮かべてつづけた。
「君の異能、使えないかと思ってさ」
ちゃんと話を聞くと、外を探索して食料や物資を集めてくる四人一組のチームだっていう事がわかった。避難所も備蓄だけではいずれやっていけなくなるから、誰かが外に出て何かを持ち帰らなければならないっていう理屈だ。
「浮遊霊と話せるんだろう? 周りの様子を先に調べてもらえると、安全に動けると思うんだよね」
そういう事をするのは今回に限った話ではないし、断る理由もないだろう。
「……やります」
僕はそう答えた。やっぱり出来る事はしていきたいと思ってるし。それに、配給の割り当てが増えるっていうのは嬉しい。避難所の配給は乾パン中心なんだけど、これがまた何というか……味気ないんだよなぁ。最低限の栄養はとれるそうだけど、何せ食べた気がしなくて──。
僕が引き受けると小野田さんは嬉しそうに「ありがとうね。じゃあ明日の夕方、三階の奥で顔合わせするから。皆結構やる事があってさ、夕方じゃないと空かないんだよね。まあ明日は声かけるからその時向かってくれると助かるよ」と言った。
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そんなこんなしている間に、あっという間に当日に。
朝の配給を受け取って食事を済ませ、昼はクロを揉みながらやり過ごし、夕方を待っていると──。
「御堂君これから大丈夫かな?」
そんな声がかかった。
「はい。時間ですか?」
「うん、まあ君が加わるチームが戻ってきたからね。どこかの雑居ビルで災害備蓄品を回収してきたみたいでさ、いやあ助かるよ……」
日本は言うまでもなく災害大国だし、確かにそういうのを用意してあるビルとかは結構多いのかもしれない。ただ、そういう場所はやっぱり何というか、怪異が餌場にしていたり、阿弥陀羅みたいな人達が罠を張って待っていたりするそうだ。まあこれは例の掲示板の受け売りだけど。
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僕が顔を出すと、三人の姿があった。知った顔もある。
「御堂くん!」
真っ先に駆け寄ってきたのは原田さんだった。
「いやあ嬉しいなあ、君が来てくれて本当に嬉しいよ! ああ、紹介するね。っていうか俺も昨日初めて知り合ったんだけどね。参ったよ、三鷹さんったら急に俺に働けって言うんだもん。あの男の人が早川さん。念動持ちなんだ。瓦礫とかをどかしたりしてくれる」
原田さんが親指で示した先には、二十代半ばくらいの男の人が立っていた。すらっと背が高くて短髪で、目つきはちょっとおっかない。某国民的バスケ漫画の主人公みたいなかんじだ。
「よう。小野田のおっさんにねじ込まれたってンなら何かしら出来るって事だもんな。よろしくな」
早川さんは片手を上げた。念動というのは異能の中では一番ポピュラーな部類だ。何かを浮かせたり動かしたりする力で、出力には個人差がある。大抵はペットボトル程度を動かせるくらいらしいけど、早川さんは瓦礫を動かしたりできるらしい。
「で、こっちの女の人が木下さん」
早川さんの隣に立っていたのは若い女の人だった。年は早川さんと同じくらいかな。黒髪のポニーテールの人だった。もし眼鏡をかけてたらこれまた某人気呪術系漫画の登場人物に似ている気がする。
「よろしくね」
木下さんは小さく微笑んだ。
「こいつさ、治癒の異能持ちなんだよ」
早川さんが補足してくれる」
これもまた結構珍しい異能だ。僕は一時期、自分に異能がないかどうか血眼になって探していた事がある。色々な適正検査を受けたこともある。その過程で分かった事なんだけど、異能にもなんというかその、ソシャゲみたいなレアリティがあるらしい。もちろん公称ではないけれど、発現しやすいタイプとそうでないタイプがある様なのだ。
念動みたいなものは結構スタンダードな異能だ。あとは発火能力とか……。ああ、発火といえば祐。今頃どこで何をしているのだろう。裕が死んだとは思わない。発火能力は確かにスタンダードな能力だけど、裕はそんじょそこらの発火能力者じゃない。ボールを投げる事は誰にでも出来ても、野球選手みたいに凄い速さの球を誰でも投げられるわけじゃないのと一緒だ。
──裕の事も探さないとなあ。
僕がそんなことを思っていると──。
原田さんが僕の袖を引いた。
「ちょっとちょっと、御堂くん。いや、ほんと助かったよ。この二人、付き合ってるらしくてさぁ……。おじさん一人でいたたまれなくてさあ……」
原田さんは眼鏡を押し上げながら情けない顔をした。
「それは……大変でしたね」
「でしょう? だから君が来てくれて本当に嬉しいんだよ。同じ独り身同士、仲良くやろうね」
うーん、複雑な気分だ。でも僕が原田さんだったら確かに参っちゃうかも。
「いやいや、おっさんに気を遣っていちゃつかないようにしてるんだぜ?」
早川さんが口をはさんできた。
「そういえばええと、御堂だっけ? 霊と話せるンだって?」
早川さんの質問に僕は頷く。
「はい。話して──簡単なお願いをしたりとか。この辺を見回って危なそうな怪異がいたら教えてください、みたいな感じで。もちろんお願いを聞いてくれるかどうかは相手次第ですけど」
これは本当の事だ。何も隠すような事でもない。
「ふうん、そういうのってさ、見返り求められたりしないのか?」
正直その辺は僕も良く分からない。ただ、彼らに力を借りるとはっきりと明確に疲れる。ここに来る途中で浮遊霊のNEROさん、絵里さんに周囲を調べてもらっていたけれど、何十メートルも走った後の様な疲れを感じた。(「高田馬場①(御堂 聖 他)」参照)。だから無制限に、なんでも力を借りられるわけじゃないんだと思う。この辺の事も隠すような事じゃないから伝えたほうがいいな。
「──って感じです」
僕が説明すると、早川さんはどこか納得したような表情を浮かべていた。
「なるほどねぇ、考えてみりゃそうだよな。ギブ&テイクだよな世の中。まあ無理はさせるつもりはないからさ、出来る範囲で頼むわ! それにしても原田のおっさんと違って役に立ってくれそうだよな」
言葉はちょっとチクッとするけど、声色には棘がない。
「そんな事ないでしょ~……。俺がいなかったら何か汚染されてるモノを食べる羽目になるかもよ?」
なんかちょっと気になるワードが出てきたな……。汚染? 後で聞いてみよう。
それにしても、早川さんは結構親しみやすそうな感じだな。
それに原田さんは先日、ここに来てから誰にも話しかけられた事がないって言ってたけど……この感じだと結構うまくやっている感じなのかな。昨日初めて知り合ったって言う事は、原田さんも小野田さんにスカウトされたんだろうか。
にほん=二本




