日向のいない夜
ヘリコプターがヒナタ君と天馬、冥を乗せて飛び立った。
「あーあ、行っちゃったよ。小春ちゃんにはなんて言おう……。
一先ず、タカトを起こそうかな」
美冬はそう言うと走って神社に戻っていった。
神社に戻ると、石畳の側の地面には埋められた人の為に掘り起こされており、どろどろになっていた。美冬は側によってしゃがんで現状を確認していた。
「まさかこんなに疲れる肝試しになるとはね、はあ、タカトたちには後で整地させないとね」
「まあ、その前にワシらにきちんと説明せんとしけんよね」
「古河くんたちは一体どこだよ? まじで」
朱里とテルは真剣な顔で本殿から出て美冬を待ち受けていた。
「えーと、あー、それがね、今日はいないはずだった冥さんだったけどさ、急いで戻って来たんだ。でも冥さんの代わりの護衛はすでにここら辺りにいたんだ、それをタカトが……」
「いや、そこら辺は日向と一緒にタカトから聞いとる」
「そっか、……それで冥さんの勘違いで怪我をさせられたヒナタ君を天馬君と冥さんが埋められていた部下も一緒にヘリで病院に連れて行ったんだよ」
「はあー、そうだったのか、まじで」
「じゃあ、しかたないか。ワシらも帰るか」
「そうだね、美冬ちゃんお疲れさま、ウチらはお先に帰る」
「タカトらはまだ中で待っとるけえ、なんかあるならあいつらに言ってくれ」
そう言うと二人は帰って言った。
「はあ、とにかくタカトたちに力を借りるか……」
ガダガタ重い戸を引いて本殿に入った。
「あ、美冬さん、あの、ヒナタは?」
「うん、それについてはこれから話すよ、その前にタカトを起こさないとね」
「じゃあ、僕が」
ケンイチはそう言うとタカトを揺する。
「うー、なんだ、終わったのか……、あれ他の皆は?」
「うん、実はね……」
美冬はこれまでの事を三人に説明した。
「それでさ、これから小春ちゃんが来るじゃん、ヒナタ君いないからどうしようか、相談したかったんだ。あっ、それと埋めるので地面を荒らしたから整地もしなきゃいけないよ」
「えー、ヒナタ君あの若作りババアに気絶させられ病院に運ばれたのか……」
「はあ、じゃあ僕はとりあえず外の土地を整地してきますね、後の事はよく知らないので三人で決めてください」
「ありがとな」
そして、美冬たちはこれからの相談を始めた。
「なあ、それとこれから俺の好きな人も来るんだぜ、だから俺はその人と肝試ししているから美冬ちゃんか葵くんが小春さんに説明しておけばいいじゃん、よし、俺も整地の手伝いしてこよう」
タカトはそう言うと術で地面を平らにしているケンイチの所へ向かった。
「あの、とりあえずヒナタは急病で来れなくなったってことにして美冬さんがもう一度肝試しをすればいいのでは? 僕は余り彼女とは親しくないので、それに楽しみにしていたヒナタが行けず、手伝いの僕が参加するなんてヒナタに申し訳ないし、可哀想ですから。
「そうだね、……いや、いっそのこと……、よし! 決めた。
悪いけど、もう一度驚かす役をしてくれるかい?」
「了解です、驚かす内容に変更は?」
「特に無いよ、あるのはタカトの方さ」
「ねえ、タカト、お願いがあるんだけど」
美冬は葵と一緒に整地をしている、タカトとケンイチの元に行き、話を始めた。
「お願いってなんだよ? 作戦会議はおわったのか?」
「うん、それでタカトには驚かす役をしてもらいたいんだ」
「えー、嫌だぜ。俺はすごい頼みこんだんだぜ」
「今回の冥さんの一件のことを直ぐに斑鳩家の人間が来て事情の確認をするために来るだろうから。タカトはその確認に参加して終わるまでは肝試しは待機しててね」
「えっ、嘘だろ! 俺が斑鳩の大人の人の対応しなきゃいけないのかよ」
「タカトは風間家の次期跡取りだし、タカトの言葉だったら言葉に重みが出てくるから、タカトが残っておいてほしいんだ」
「そんな~、嫌だー……」
タカトは四つん這いになり項垂れる。
「そうですか、それならタカトさんが後方で待機しておくのはしょうがないですね」
「まあ、ヒナタも今回参加出来ないんだし、またやろうよ肝試し、その時は参加出来るって」
ケンイチは美冬の考えに賛同の意思を示し、葵は次に希望を持たせ、今回の参加を諦めさせようとしていた。
「……分かったよ、斑鳩の人との後処理が終わったら幽霊役で参加するよ」
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そして、約束の時間が来た。
奏は暗い道、じめじめとした森を通りすぎ神社の境内まで来ていた。
奏のポケットが震える、奏はポケットから携帯電話を取りだし覗きこむ。
「えーと、風間からだ、何々、『祖父が危篤の為今回の肝試しをまことに勝手ながら辞退させていただきたく存じます』って、えっ、嘘でしょ。
あいつがしつこく誘うから来たのに、その誘った本人が来ないなんて、でも『いただきたく存じます』なんてあいつ普段使わないから本当かも……。
それで続きは『また、今回はヒナタ君も参加することが出来なくなったのでヒナタ君が誘った小春さんと一緒に肝試ししてください』」
「うっそ、ヒナタまでいないの!? じゃあ来ているのは葵君とかかな、誰が来ているんだろ?」
ガタッガタガタ、神社の本殿の戸が重そうに開いたら、そこから美冬が現れた。
「やあ、こんばんわ、君がタカトたちの友達の奏ちゃんだね、僕はタカトの従姉妹の結城美冬です、よろしくね」
「はい、ヒナタと同じ生徒会の人ですよね?」
「うん、そうだよ。今日はごめんね、タカトが……」
「あっ、お祖父様が危篤なら先輩は行かなくて良かったんですか?」
「えっ、……そうだ、タカトの母方の祖父だよ、僕のお母さんとタカトのお父さんが姉弟なんだ」
「そうなんですか、他の人は?」
奏は美冬の態度をふしんに思ったが気にすることはなく話を続けた。
「……後一人いるよ、千条小春ちゃん、僕と同い年の二年生だよ、知ってる?」
申し訳なさそうな顔をして、言いにくそうに美冬は言った。
「あ、はい、千条さんのことは知ってます、ヒナタから地上に舞い降りた女神だの、大自然の生み出した奇跡だのって聞いています」
美冬は昔のヒナタを思いだし苦笑い気味で質問に答えた。
「じゃあ汚いけど入ってここに小春ちゃんがいるから」
奏は美冬に言われるがままに本殿に入っていった。
「ここって、すごくボロいんですね……」
「ここはもう使われていない神社だからね、ボロボロだけど居心地は良いよ」
おそるおそる、薄暗い中を見渡す奏。
「こんばんわ」
奥から綺麗な声が聞こえた。奏が進んで行くとそこには小春さんがいた。
「こんばんわ」
「会ったことはあるけど、話すのは初めてですよね? 千条小春です」
「はい、葉山奏です。ヒナタからよく話を聞いています」
「ふふ、ヒナタ君はとっても優しい人ですよね、彼は本当に仲良しのお友達です。
私も貴方や他のお友達のことはよく聞いていますよ」
「お互いに見たことは有っても話すのは初めて何ですね、昔から知っているような気がするのに不思議ですね」
「そうね。……そうだ! 貴方の事はタカト君からも聞いていますよ。彼にとても好かれているんですよね。
勇ましく、凛々しい覇気を身に纏い、どんな困難な道でも人に頼ることをせず自分の力のみで進んで行こうとする姿勢が素敵なんですって。
良いですね、こんなに想ってくれる人がいて」
「は、初めて聞きました、今まで気になっていたんですけど。……風間がそんなことを。……女らしくないじゃん、それって」
奏は驚き、そして小さく呟く。
「いやー、本人の前じゃあ恥ずかしがっちゃう年頃だからね。
僕もタカトの気持ちが分かるから、タカトの応援はしてあげたいけど、これ奏ちゃんの気持ち次第だからね。
さっ、行こう」
「そうですね、いきましょうか」
「はい、今日はよろしくお願いします」
そして、女三人(と男三人)の肝試しが始まった。




