30話 よろしく
30話
俺たちは同じ新入生が進む流れについていき、グラウンドを目指していた。
「おい、タカト。赤い髪は印象が悪いから止めとけ」
「えー、折角染めてきたのに」
「そうだね、やっぱりタカトの第一印象が良くない方になっちゃうよ」
「そっか、分かった」
そう言うとタカトはおもむろに頭に手を伸ばした。
「あーあ、折角昨日染めたのにまた染め直しか」
そう言いながら頭の髪の毛を外し、しっかり肩まで伸びた黒髪が出てきた。
「あれさっきの赤毛、カツラなの!」
「流石に家でも赤髪だったらすぐにじいちゃんにばれてお仕置きだろ、俺だって考えてんだよ。
変装用の地味なカツラを赤く染めて格好いいヘアーにセットしたんだぜ」
「そっか、……頑張ったんだね」
葵も驚いてそれ以上何も言えない様子だった。
「あー、学校ごとに集まって並んでおくっぽいから並んでおこうぜ」
俺は俺たちや周りで固まっている人の空気を変えるために話を変えた。
クラスの発表はプリントを配られすぐに終わった。
俺と葵は一組になりタカトは一番端の五組になった。
「じゃあなタカト、また放課後に会おうな」
タカトはとぼとぼ自分のクラスに向かっていった。
俺が教室に入るとその教室の緊張している雰囲気を感じた。
皆も初めての教室で初めての人に囲まれているんだろう。
出席番号順に俺は左から二番目の列の前から三番目に葵は左から三番目の一番後ろになってしまった。
葵の方は近くに同じ小学校の奴がいてあそこだけ楽しそうだ。
しかし俺の方にも知り合いがいた。以前も見た
「あれ、ミコさん? 同じ中学校で同じクラスになったね。
これからよろしく」
何と俺が悩んでいた時に相談に乗ってくれた見越絵里さんが隣の席にいた。
また会って友達になりたいと思っていたので再会出来たことは嬉しかった。
「あっ古河君、うんよろしくね」
「良かった、近くに知っている人がいてしかもとっても親切なミコさんだったなんて」
「そ、そうかな? そんなに親切なつもりじゃないけど」
「ねえ、前に言ってたミコさんの好きな人もこの学校にいるの?
いるのなら是非とも俺にその恋の手伝いをさせてくれ」
ミコさんは驚いた様子で目を大きく見張った後、困ったような顔をした。
「えっ、う、うん、いるわ。でも……」
「ちょっと何女の子に言い寄ってんの! 可愛い子だからって一途な奴だと思ってたのに見損なったわ」
「痛っ、何急に叩いてくんだよ、カナちゃん!」
同じ小学校だった人の席の近くにいた幼馴染みの葉山奏が後ろから俺の頭を叩いてきた。
「私が席に戻ってきたらヒナタが絵里ちゃんに言い寄ってんの見つけたからよ」
なんだと俺はただ同じ片思いの恩人の手助けがしたくて話しかけてたのに。
「それは誤解だ。俺はただ恩返しがしたくて話しかけてただけだ」
「そうよ、奏さんが思っているようなことはないわ、ただいきなり好きな人のことを訊かれて驚いて答えられなかっただけだから」
「ほらやっぱり好きな人のことを訊いてくるなんて、怪しいわ。
ヒナタは案外下心で動いている男だからね。
絵里ちゃんは今日初めて会ったけど優しい子なのが私にはわかるわ、変なことしたら怒るわよ」
俺を指差し奏は胡散臭そうに俺を見ている。
でもそれも仕方ないか、カナちゃんには俺が小春さんに格好いい所を見せたいが為に頑張っているという下心バリバリなのがばれてしまっているからな。
「違うって俺は恩のある同じ片思い中のミコさんの力になりたくて訊いてたんだよ!、別に他意はないぞ」
「そ、そういうことなの、……後古河君事実でもあんまり大きな声で言わないで」
ミコさんは顔を赤くしながら俺に呟くような声で文句を言ってきた。
しまったついつい興奮して大きな声で叫んでしまった。
周りの人も俺たちの方を注目している。
何だろうさっきからカナちゃん以外も俺の事を睨んでいる気がする。
「そ、そういうことねだったの。こんな騒ぎにしてしまってごめんね絵里ちゃん」
カナちゃんも小声になり謝っている。
「いいの、気にしないで」
「俺もごめん、俺が大きな声で言ってしまったから。
俺は自分なりのやり方でミコさんのキューピッドに成れるように頑張るよ」
「ヒナタは何もしなくて良いわ、頼りないから私が力になるから。
こんなのに頼らないで」
「う、うん、よろしくね」
その後カナちゃんによって俺は二人から仲間外れにされ、二人は小声で何かを話し合っていた。
時折、俺を睨み付けてくるカナちゃんと目線を会わせないように俺は葵がいるところに逃げ込んでいた。
「おい、日向なんだよ、ナンパしてたのか?」
「違うって誤解だ、俺はただ彼女に恩返しがしたくって……」
「でも、珍しいよね、ヒナタから女子に話しかけてるのって」
「おいおい、勘弁してくれって」
俺は葵の側にいた友達と葵にからかわれて先生が来て席に戻るまでいじられ続けた。
「はあ、疲れた。まさか初日からこんなのにからかわれて疲れるとは思わなかったぜ」
「おーし、お前らこれから始業式だから廊下に出て出席番号順に静かに並べよ」
中学の先生は小学校の赤城先生みたいに熱血漢じゃなさそうだな、嬉しいような悲しいような、少し寂しくなってしまった。
俺は式では真面目に過ごしていた。やっぱりいつもの習慣である優等生生活は中学の長い始業式でも変わることはなかった。
そして俺たちは始業式を終えるとすぐに帰るのではなく、係を決めてから帰ることになっていた。
先生が黒板に係りの名前と人数を書いている。別に全員何かをやらなければいけないわけじゃないんだな。
「ねぇ、絵里ちゃんは何係になるの? ヒナタはまた学級委員?」
先生が黒板に書き始めるとカナちゃんがこちらを振り向いて
「うーん、私は学級委員かな、小学校の時もいつも学級委員だったし」
「俺はするつもりはないぞ、俺はやる人がいないからしているのであってやりたい人がいたら立候補しないぞ」
そうだ、俺は余った係りをいつもしていた、それが生き物係りより不人気な学級委員だっただけである。
「そっか、残念だなー、ヒナタはいっつもクラスの為に頑張ってたからヒナタがまた委員になって欲しかったのに」
「……そんなに、残念なのか?」
「そうだよ、ヒナタほどザ学級委員って人はいないよ」
「そ、そうかな」
まあ、別にやるのが嫌な訳じゃないけど、そんなに誉められたらやりたくなっちゃうだろ。
「おし、みんなこれから自分がやりたい係りの所に来たら手を挙げてくれ。
まずは学級委員だな、男女一人ずつやりたい奴はいるか?」
「はい」
ミコさんが挙手している、女子の立候補は彼女だけのようだ。
「「「はいっ、俺がやります!」」」
なんだと、男子はいつもならやりたい奴なんて一人ぐらいなのに何故だ……。
どうしよう俺。
「おい、ヒナタ行け行け」
前にいるカナちゃんの呟きが聞こえてくる。
「は、はい、俺もやりたいです」




