26話 決着
26話
俺は箱尾さんがいなくなった道場に戻ってゆったりタカトと先輩に今回の作戦内容を説明していた。
残り時間は後一分もう大丈夫だろう。俺は床に胡座をかいて休憩し始めた。
「へぇ、すげえな、マスオさんを出し抜くなんて。
まあでもあの人は武闘派だから、こういうのは専門じゃないから出し抜かれても仕方ないのか」
「でも、こんなところで話している時間があったら早くもっと遠くに逃げた方がいいんじゃない?
取り敢えず見つかったら戦闘になるよ」
美冬先輩は心配そうな顔で俺を見ている、でも上手くいってるし、もう時間だ。
「そうですね、ギリギリ後十五秒ですね。 ここからさらに逃げられていたら私じゃあ見つけられませんでした」
道場の扉に箱尾さんが立っていた。
俺が箱尾さんを見た瞬間、俺の方に突進してきた。
「くっそ、忍法・砂ケムリの術」
俺は道場内で目の前が見えない程度の煙をだした。
併しこれは一瞬しか使えないので消える前に俺は箱尾さんを通り抜ける!
俺が目を閉じて突き進むと首元を掴まれ持ち上げられた。
煙が晴れた。 そこには目を閉じたまま俺を掴んでいん箱尾さんがいた。
「ふう、何とか時間内に捕まえることができました」
目を開け道場の時計を確認した箱尾さんはそう言うと、俺をゆっくりと両手を使って下ろした。
「何で目を閉じたままピンポイントで捕まえれたんですか?」
「目でなく、体全体で感じて君を見つけたんですよ。
遠くならともかくこの距離なら簡単です」
「ほら、言ったでしょ、逃げた方が良いって。
近距離で箱尾さんに勝てる人は忍者でもほんの一握りしかいないんだよ」
「まあ、その分遠距離は甘いから付け入る隙があるんだけどな」
呆れたように言う先輩と悔しそうに箱尾さんを見ているタカトだった。
「お疲れ様でした。日向様、いえ日向、君はその年としては十分なほどに技術とそれを扱う賢さを持っています。美冬様で指導できちんと学んでいるようですね。
しかし君は力と速さと鍛え上げが足りていません。
私が掴もうとした時に弾き返すパワー、もしくは避けるスピードがあればあのままなら逃げきれました。
だから私はこれから君を徹底的に鍛え上げ隠れるという選択肢以外の闘いを教えます」
有無を言わせぬ迫力がこの時の箱尾さんにはあった。
「はい!、これからよろしくお願いします!」
俺は箱尾さんに勢いよく頭を下げ、俺のやる気を伝えた。
「ではこれからも美冬様か道場の授業を受け続けてください。
私は基礎はよりもより実践的な武術と体の操作法を教えます」
「はい!」
「では今日はここまででにして、明日から修業に入りましょう」
「いえ、俺はまだ全然疲れてません、それにまだまだ追い込まれてもいません。
出来れば今日からお願いします! 箱尾さん!」
俺は男になるためにここに来たのにこの程度で止めてたら話にならないぜ、俺はどんな困難でも怯まず突き進む格好いい男になるんだ。
こんな簡単に休んでいられない!
すると嬉しそうに頷く師匠、それを嬉しそうに見つめているタカトと苦笑いしながら微笑ましいそうに俺を見ている先輩。
「はい、それでは今日から身体強化の修業に入りましょう」
「よっしゃ、かっこいいなヒナタ君、良し俺たちも手伝うぜ。
俺も何だかテンション上がってきたぜー!」
「まあ、僕も分からないことがあればいつでも訊いてくれ。力になるよ」
二人も優しく俺の応援をしてくれた、これからはただ前へと突き進むだけだな。
「それでは、まずは私と百本組手をして下さい」
ここから激しい修業となった、しかしその修業はすぐに終わった。
俺が直ぐに倒されるからだ。師匠はすごい速さで攻撃、反撃してきて一瞬で倒される。
美冬先輩の時とは違い氣の光が見えていても体がついていかずされるがままだった。まるでただの受け身の練習をしているようだ。
「やはりこの程度だと目で見えても体が反応出来ないようですね。
君の目は私の動きについきている、かなりの優れものですね。
しかし、今の君はその目に頼りきりで体が全然駄目だ。
今からは目隠しして視覚以外で私たちを捉えてください」
視覚以外の五感で? それってさっきの鬼ごっこで俺を捕まえたときの師匠がそう言って俺を捕まえてた、でもやり方がまったく分からない。
「あ、あのどうやってすればいいんですか?」
俺は先輩から渡された布で目を覆いながら師匠に質問する。
「それは自分で感じてください、申し訳ありませんが私は元々目を閉じれば人の気配がわかるのでいまいち理屈がわかってません。
ただこのやり方でタカト様は気配を読むことを習得なさいました」
「タカト、どうすれば良いの?」
「わかんない、俺も目を閉じたら何となく出来た」
まじで? 結構そんな感じで習得できるのか?
そっか俺も今何となくタカトや師匠のいる場所が分かるぞ。
「わかりました。いける気がします。もう一度お願いします」
「ではいきますよ」
だんっ 踏み込む音が聞こえる、風がこっちに来た!
「ぐぅあ、げっほごほ」
風を感じた瞬間には既に俺の体は吹き飛んでいた。
咳き込みながらも俺は立ち上がる。
「二本目、……始め!」
先輩の声だ、また風が来るはず、……来た! 俺は其処に蹴りを出した。
しかし手応えを感じることなく吹き飛ばされた。
「くっそ、まだまだ」
俺は痛みに耐えながら立ち上がる。
師匠は一切喋らない、師匠の音が何も聞こえない、聞こえるのは攻撃の瞬間の風の音だけだ。
「……三本目、……始め!」
また殴られた、何も匂わない、匂うのは風の匂いだけ
「四本目、始め!」
意識が飛びそうだ、足が震える。
「十本目、…………始め!」
何を感じればいいんだ。 分からない、俺は今暗闇の中だ、一体どこにいるんだ。
「三十本目、まだ続けますか?」
何か風が見えたような気がする。
「お願い、します!」
「………六十五本目、始め」
不思議だ、氣のお陰だろうか、体はすごく痛いのにまだ動く。
俺の体はまだ立ってくれる、これで立てなくなったら俺の心が折れたってことだな。
「八十二本目、続けますか?」
「ゲホッゲホ、つ、づけま、す」
何だろう力を感じる、目の前に光が立っているのを目を閉じたままでも感じる気がする。
「……始め!」
来た、俺に向かってきた。 俺はぶつかる瞬間に右に避ける!
「うおっと、体が上手く動かない」
俺は避けたがバランスを崩しこけた。
一歩分動いたつもりが体が一歩分以上動いた気がする、急に体の調子が上がって来て、体が上手く動かせなかった。
「うそ、避けたの! しかも最初より動きが速くなってる」
「すげえ、すげえ」
声もよく聞こえる、どこから聞こえるのかが今ならはっきりわかる。
体が今不思議とよく動く絶好調だ。よし、反撃だ。
しかし師匠は避けた俺にすぐに追撃する。俺は立ち上がる間もなくすぐに飛び退け何とか避ける。
何とか立ち上がった俺は相打ち覚悟で攻撃することに決めた。
「はー、くっ!」
俺は触れることが出来ず吹き飛ばされた。
俺が避け出してから師匠の動きも速くなり、動くことすら出来なかった。
その後も一度も触れることなく二度目の百本組手を終えた。
目隠しを外しても目を開けるのが辛い、組手が終わってから急に力が抜けて意識が飛びそうだ。
「お疲れさまでした、途中から視覚以外で感じることが出来たようですね」
「はい、はあはあ、たぶん掴めたとおもいます」
「やったな、ヒナタ君ならできるとおもってたぜ」
「いや一歩間違えれば本当に危なかったよ、もっと時間を掛けて安全にやるのがふつ……」
ああ、もう意識が朦朧とする……。
俺のその日の記憶はそこまでだった。
次の日別荘の一室で目が覚めた俺は治療を受け腫れは引いているが筋肉痛で痛む体を引きずりながら勉強をし、そして師匠の修業を受けた。
母さんにはタカトから電話していたらしく泊まったことは何も言われなかったらしい。
その日から厳しい修業生活が始まった。




