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第8話:星詠みの護符と、秘めたる温もり

翌日。ロザリアの街は爽やかな秋晴れに恵まれていた。


「今日は午後からアルカディア方面への移動準備だ! 各自、必要な備品や装備を整えておこう!」


バッシュの提案により、午前中は自由行動となった。

ゼットは武器屋へ大剣の研ぎ出しに行き、バッシュとエリスは食料の買い出し、エドは街の情報収集へと繰り出す。


そして、クルルは手持ち無沙汰のまま宿屋の前に佇んでいた。

人混みが苦手な彼女は部屋に残ろうとしていたのだが、そこへ通りかかったクロードが声をかけたのだ。


「クルル、買い出しか? 良かったら一緒に街を散歩しないか? 俺も欲しいものがあるんだ」


「えっ……あ、うん……! 一緒に行く……!」


クロードからの誘いに、クルルは胸を躍らせながら、ぶんぶんと勢いよく首を振った。


ふたりで歩くロザリアの市場は、色鮮やかな露店が立ち並び、賑やかな活気に満ちあふれていた。

人混みに酔いそうになるクルルだったが、クロードがさりげなく彼女の少し前を歩き、押し寄せる歩行者から守るように空間を作ってくれていることに気づき、胸の奥が甘く疼いた。


ふと、街道の脇にある小さな宝飾系の露店がクルルの目に留まった。

そこには、怪しげな露店商が並べた魔導鉱石のアクセサリーや、お守りの類がキラキラと光を反射させていた。


クルルがふと足を止め、露店の一角を見つめる。

彼女の視線の先があったのは、細い銀のチェーンの先に、一粒の美しい蒼瑠璃(サファイア)色の鉱石が嵌め込まれた——華やかで小さなネックレスだった。


(綺麗な……ネックレス……。でも、私なんかに似合うわけないよね……)


クルルはすぐにキュッと口を結んで視線を逸らそうとした。

しかし、そのほんのわずかな視線の揺らぎを、クロードは見逃していなかった。


「店主、このネックレスを見せてくれ」


「はいよ! お坊ちゃん、目が高いね! これは『星詠みの護符ネックレス』といってね、持ち主の精神を安定させ、僅かだが魔力の消費を抑える加護が宿っている品さ!」


「……クロードくん?」


驚くクルルをよそに、クロードは小銭入れから金貨を取り出すと、迷いなく露店商に手渡した。

そして、綺麗に磨かれたネックレスを受け取ると、ゆっくりとクルルの前へと向き直った。


「クルル。これ、お前にあげるよ」


「え……っ!? で、でも、こんな高価なもの……私、もらえない……!」


慌てて手を振るクルルだったが、クロードは優しく首を横に振った。


「良いんだ。……クルル、お前、朝早くから人目を忍んで、宿屋の裏で魔法の練習をしていただろ?」


「——っ!?」


クルルは驚いて目を丸くした。

仲間になってまだ数日。誰にも邪魔されないよう、早朝の誰もいない時間に密かに練習していたはずなのに——クロードは、ちゃんと気づいてくれていたのだ。


「誰にも言わずに努力している姿、すごく格好いいと思ったよ。それに……この透明感のある青い石、静かで綺麗なクルルの雰囲気に、すごく似合うと思うんだ」


『似合うと思う』。


その言葉と、自分を見ていてくれたという事実に、クルルは息を呑んだ。


「ほら、後ろを向いて。つけてあげるよ」


クロードが手際よくネックレスの鎖を広げる。

断る言葉なんて、もうクルルの中には残っていなかった。熱くなった顔を隠すように背を向けると、クロードの小さな手が彼女の首元に触れた。


ひやっとする鎖の冷たさと、それに反するようなクロードの指先の確かな温もり。

首筋に触れた彼の吐息を感じた瞬間、クルルの背中に電撃のような痺れが走り、胸がギュッと締め付けられた。


「……よし、できたぞ。うん、やっぱりすごくよく似合ってる」


正面に回り込んだクロードが、心底嬉しそうに微笑む。

クルルの胸元には、蒼瑠璃色の宝石が、彼女の可憐な魅力を引き立てるように美しく輝いていた。


クルルは震える指先で、胸元に収まったネックレスをそっと撫でた。


(クロードくん……私を見てくれてたんだ……)


胸の中で溢れ出す、名前のつかない温かい感情。

それが何なのか、まだこの時のクルルははっきりと自覚できてはいなかった。けれど、この世界で誰よりも愛おしく、守りたいと思える存在ができたことだけは確かだった。


「あ……ありがとう……クロードくん……! 私、大切にする……!」


消え入るような声しか出せなかった陰キャの少女が、初めてクロードの目をまっすぐに見つめて頷いた。


クロードは柔らかく笑う。


「ああ。大切にしてくれたら嬉しいよ」


その日以来、クルルの胸元からそのネックレスが外されることはなかった。

自分の心を満たしてくれた大切な少年——クロードへの想いを、胸の奥深くにそっと秘めながら。


(※この特別な想いが「恋」だったと彼女が気づき、絶望と確信の中で仲間のもとを静かに去るのは、もう少しだけ先のことである——)

できる限り毎日投稿を続けていきたいと思っています!


お目通しいただけたのも何かのご縁ですので、これから毎日読みに来ていただけたらとても嬉しいです。


次回の更新もぜひ楽しみに待っていてくださいね!



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