第7話:言葉にできない想いと、気配りの手
旧鉱山洞窟での依頼を終えたバッシュ一行は、報酬を受け取り、交易都市ロザリアへと戻ってきた。
メンバーは勇者バッシュ、ヒーラーのエリス、武骨な剣士ゼット、手先の器用な工作員エド、そして10歳ほどのミステリアスな少年クロード。そこに新しく加わったのが、人見知りで無口な凄腕魔術師の少女——クルルだった。
「よし! 今日の夜はみんなでご馳走を食べよう! クルルが仲間になってくれたお祝いも兼ねてな!」
バッシュが賑やかなギルドの酒場で声を張り上げると、ゼットが豪快にビールジョッキを叩きつけ、エドがニヤニヤと笑いながら肉料理を注文する。
「おいおいバッシュ、お祝いなら奮発してくれよ? 俺は最高級の羊肉のローストが食べたいね」
「エドさんったら、調子に乗らないでください! お金は計画的に使わないと……!」
エリスが苦笑いを浮かべながら、賑やかに会話が弾む。
だが、その輪から少しだけ離れたテーブルの隅で、クルルは深々とフードを被ったまま、おどおどと身を小さくしていた。
元々一人で魔法の練習ばかりしていた彼女にとって、このように大人数で囲む賑やかな食卓は経験がなく、どう振る舞えばいいのか分からなかったのだ。
何を話せばいいのか分からない。
輪に入りたいけれど、声をかける勇気が出ない。
自分の差し出した手や発した言葉が、周囲を冷めさせてしまったらどうしよう——そんな不安と居心地の悪さに、クルルはぎゅっと魔導衣の裾を握りしめて俯いていた。
(私……やっぱり、邪魔なのかな……。魔法が使えるから連れてこられただけで……)
寂しさと自己嫌悪で胸がキュッと苦しくなった、その時だった。
「クルル。これ、食べるか?」
静かで、温かな声が頭上から降ってきた。
ハッとして顔を上げると、そこに立っていたのは10歳ほどの黒髪の少年——クロードだった。
クロードの手には、柔らかく蒸し上げられたパンと、クセの少ない甘いスープの皿が乗せられていた。
「酒場の料理は少し味が濃いからな。クルルの口に合うように、店主に言ってスープの塩気を控えめにしてもらったんだ。温かいうちに食べるといい」
「あ……え……」
クルルは思わず声を詰まらせた。
バッシュたち大人が盛り上がっている中、自分の一挙一動を、そして声に出せなかった孤独や困惑を、この小さな少年だけがしっかりと見抜いてくれていたのだ。
クロードはクルルの隣の席に静かに腰を下ろすと、彼女に圧迫感を与えないよう、穏やかな手つきでスプーンを添えて皿を差し出した。
「バッシュたちは賑やかすぎるだろ? 無理に輪に入ろうとしなくていい。ここにいるだけで、お前はもう俺たちの立派な仲間なんだから」
「クロード……くん……」
クロードはまるでクルルが胸の中で抱えていた「言いたくても言えない葛藤」をすべて代弁するように、優しく笑いかけてくれた。
「ほら、一口食べてみろ。美味しいぞ」
言われるがまま、クルルは震える手でスプーンを取り、スープを口に運んだ。
じんわりと温かい甘みが口いっぱいに広がり、冷え切っていた心が解けていくような感覚がした。
「……おいしい……」
「そうか。良かった」
クロードが目を細めて満足そうに頷く。
その飾らない素朴な笑顔と、どこまでも優しい眼差しを至近距離で受け止めた瞬間——クルルの胸の奥で、カランと小さな鐘が鳴ったような気がした。
ドクン、と心臓が大きく跳ね上がる。
(なに、これ……。胸が、すごく……あつい……)
これまで誰かに優しくされたことなどなかった。自分の魔法の強さばかりを求められ、人との関わりを避けて生きてきた自分に、こんなにも自然体で寄り添ってくれた人間は、クロードが初めてだった。
クルルは熱くなった顔を隠すように、夢中でスープを口に運び続けた。
そんな彼女の姿を、クロードはただ温かく見守っていたのだった。
できる限り毎日投稿を続けていきたいと思っています!
お目通しいただけたのも何かのご縁ですので、これから毎日読みに来ていただけたらとても嬉しいです。
次回の更新もぜひ楽しみに待っていてくださいね!




