第6話:紅蓮の爆炎と、影ある魔術師
エドが加わった旧鉱山洞窟の攻略は、まさに彼の言葉通りスムーズに進んだ。
入り口に仕掛けられていた落とし穴や毒針の罠をエドが軽やかに解除し、立ち塞がる魔物をバッシュとゼットが薙ぎ払い、クロードが冷静に後方を警戒、エリスが迅速に傷を癒やす。
五人の連携は思いのほか噛み合い、一行は洞窟の最奥部にある巨大な採掘場へとたどり着いた。
だが——。
「グオォォォォォォン……ッ!!」
突如として地響きが轟き、天井の岩盤が崩れ落ちた。
そこに現れたのは、洞窟の主である巨獣『岩石竜』。並の剣技では刃すら通らない硬度を誇る、ランクB級の巨大魔獣だった。
「くそっ、なんだこの硬さは……! 俺の大剣でも削りきれねえ!」
ゼットが斬撃を弾かれ、舌打ちをする。
「バッシュ、引くぞ! こいつは物理攻撃が効きにくい!」
エドが叫ぶ。バッシュも剣を構え直すが、岩石竜が口から吐き出そうとしている高熱のブレスの予兆に息を呑んだ。
「まずい……みんな、俺の後ろに——!」
バッシュが前に出ようとした、その瞬間。
——ヒュン。
静寂を切り裂くような短い風切り音とともに、頭上の崩落した岩棚の上に、ひとりの少女がふわりと舞い降りた。
豪華で気品あふれる魔導衣に身を包んだ、可憐な少女。
彼女は一切の言葉を発しない。ただ、大きな戦闘音を聞きつけてやってきたかのように、不思議そうな冷たい瞳で眼下の巨獣を見下ろすと、手に携えた小さな杖を静かに一振りした。
次の瞬間——ドカンッ!!
天空を突き破るような鮮烈な紅蓮の爆炎が、岩石竜の巨大な巨躯を丸ごと包み込んだ。
詠唱すら省かれた過剰なまでの超高火力魔法。凄まじい衝撃波と熱気が洞窟内を吹き荒れ、岩石竜は絶叫を上げる暇すらなく、一瞬で灰燼と化して消滅したのだった。
「な……なんだ、いまの魔法は……!?」
バッシュもゼットも、あまりの威力の桁違いさに言葉を失って呆然と立ち尽くす。
爆炎と土煙がゆっくりと晴れていくなか、少女は無言のままふわ下へと降り立った。
感情の読めない人形のように美しい顔立ち。
だがよく見ると、彼女はどこか人付き合いが苦手そうな、陰のある雰囲気を纏っていた。
「あ、あの……助けてくれてありがとうございます! 私たちは冒険者の——」
バッシュが礼を言おうと一歩踏み出すと、少女はびくっと肩を揺らし、無言のまま後ずさりしてフードを深く被り直した。
「……あ」
気気まずい空気が流れるなか、一歩前に出たのは10歳ほどの黒髪の少年——クロードだった。
クロードは少女を威圧しないよう、静かで優しい声をかける。
「急に声をかけてすまない。俺たちはロザリアから来た冒険者だ。……君はこんな洞窟の奥で、何をしていたんだ?」
少女は口を微かに開け、躊躇うように視線を泳がせたが、クロードの穏やかな瞳を見て、ポツリポツリと小さな声で呟いた。
「……奥で、一人で……魔法の練習を、してたら……大きな音が、聞こえたから……見に、きただけ……」
「そうだったのか。一人で練習を……すごい魔法だったよ」
「……あ、ありがとう……」
口下手で人見知りな少女の言葉を、クロードは急かすことなく、ひとつひとつ優しく汲み取っていく。
「俺たちの名はバッシュ、ゼット、エド、エリス……そして俺はクロードだ。……もし良かったら、俺たちと一緒に街へ戻らないか? 一人より、大勢の方が道中も賑やかで楽しい」
少女は静かにクロードの顔を見つめ、それから小さく一度だけ頷いた。
「……クルル」
「え?」
「……私の、名前。……クルル、です」
「クルルか。いい名前だな。よろしく、クルル」
クロードが柔らかく微笑むと、クルルは胸の奥がキュッと締め付けられるような、見たことのない温かい感情に襲われ、慌てて俯いた。
こうして、凄まじい魔法の才能を持ちながらも人付き合いの苦手な陰キャ少女・クルルが一行に加わった。
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