第5話:暗がりの中の指先と、五人目の影
ゼットがパーティーに加わってから数日。
四人となったバッシュ一行は、ロザリアの街からさらに北へと進んだ交易路の宿場町に滞在していた。
「よし、今日の依頼は『旧鉱山洞窟の盗賊潜伏調査と怪異討伐』だな!」
宿屋の食堂で、バッシュが元気よく依頼書を広げる。
その横では、相変わらず無骨な顔をしたゼットが大剣の手入れをし、エリスが三人分の水筒の補充を行っていた。
そして、黒髪の少年——クロードは、静かに地図を指でなぞる。
「あの鉱山は内部が複雑に入り組んでいる上に、仕掛けられた罠の報告も上がっている。正面突破だけでは手厳しいな」
「おう、罠か……脳みそまで筋肉でできてそうな俺には一番向いてねえ場所だな」
ゼットが鼻を鳴らす。
その時だった。
「——お困りかい、威勢の良い冒険者さんたち?」
ひょい、と隣のテーブルからひょうきんな声が掛かった。
そこに座っていたのは、軽薄そうな笑みを浮かべた青年——エドだった。
手に持ったコインを指先で器用に遊ばせながら、猫のようにしなやかな動作で立ち上がり、バッシュたちのテーブルへと歩み寄ってくる。
「あんたら、あの旧鉱山に行くんだろ? あそこは数年前に廃坑になってから、タチの悪いならず者どもや魔物の巣窟になってる。いくら腕の立つ剣士がいても、鍵開けや罠解除のスペシャリストがいないと、入り口で爆死するのが落ちだぜ?」
「鍵開けと、罠の解除……?」
バッシュが問いかけると、エドはニヤリと笑い、指先を軽く一振らせた。
すると次の瞬間、彼の指の間には、いつの間にかゼットの腰袋から抜き取られていた小さな巾着袋が挟まれていた。
「なっ……!? てめえ、いつの間に……!?」
ゼットが跳ね起きるように大剣の柄に手をかける。
「おっと、怒らないでくれよ! 腕前を見せただけさ」
エドはひらひらと手を振りながら巾着袋をゼットに返し、肩をすくめた。
「俺の名はエド。見ての通りのしがないスカウト(偵察手)兼鍵開け師さ。ちょっと訳ありで、安全に北の街まで行けるパーティーを探しててね。あんたらが俺の腕を必要としてくれるなら、その鉱山の案内と罠解除、喜んで引き受けるぜ?」
「エドさん……すごい手先なんですね」
エリスが驚きと感心の手声を上げる。
バッシュはゼットを見やり、それから少年姿のクロードに目を向けた。
クロードは静かな瞳でエドを一瞥すると、小さく頷いた。
「洞窟攻略に解錠の手腕があるのは紛れもないアドバンテージだ。頼む価値はある」
「よし! 決まりだ! エド、俺たちのパーティーへようこそ!」
バッシュがまっすぐに手を差し出すと、エドは一瞬だけ意外そうに目を見開いたが、すぐにいつものニヤニヤとした笑みに戻り、その手を握り返した。
「へいへい、よろしく頼むよ、頼もしい『勇者様』」
こうして、器用で掴みどころのない青年エドが5人目の仲間として加わったのだった。
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