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第45話:愛おしき刻印と、魂の契約

ちょっと直接的なセクシーシーンが描かれていますので、苦手な方はスキップしてください。


夜の重い静寂に包まれたヴェノリア。深い霧が街の輪郭を覆い隠し、世界から取り残されたかのような静けさが漂っていた。


明日にはこの街を離れ、バッシュと共に次なる危険な旅路へと踏み出していく——その最後の前夜、エリスは静かに宿屋を抜け出し、見慣れた古城の重厚な大扉の前に立っていた。


コン、コン、と打ち鳴らした鉄のノッカーの音が、静けさを切り裂くように響く。

ほんの数秒の後、ぎぃ、と鍵が外れる重厚な音が響き、扉が開いた。


蝋燭の揺らめく火光の中に佇むのは、いつもと変わらぬ静謐な雰囲気を纏った聖魔術師バレットだった。


「来ましたね、エリス君。……明日、この街を発つそうですね」


「……はい。バレット様、今夜が……最後の施術になります」


「そうでしたか。……さあ、中へお入りなさい」


通された施術室の中央、いつもの白い革が張られた診察台の前に歩み寄ると、エリスは自ら羽織っていた薄手の衣服のボタンをひとつずつ解き、滑り落とした。


魔法灯の柔らかい光に照らし出される、透き通るように白く華奢な素肌。

そこには、これまで数夜にわたって重ねられてきた幾重もの『魔力文字』が、薄っすらと瑠璃色の微光を放ちながら、生き物のようにトクン、トクンと脈打っていた。


バレットは銀の筆を手に取り、瑠璃色の光を帯びた魔導インクを筆先に浸した。


「……準備はできています。バレット様……私の体に、最後の仕上げを刻んでください」


「分かりました。最後まで、あなたの回路を完璧に完成させましょう」


バレットの静かな指示に従い、エリスは診察台へとうつ伏せになった。

ひやりとした革の感触が素肌に触れた直後、バレットの長い指先が、エリスの背中の中心——もっとも敏感な皮膚へとそっと触れた。


「あ……ん……っ……!」


指先が触れただけで、エリスの背筋にビリッと激しい甘い痺れが奔った。

バレットの手つきは、過去のどの夜よりも繊細で、そして熱を帯びていた。


ジジジ……と音を立てて、古代の複雑な魔力文字が背骨に沿って刻み直されていく。

筆先が走るたび、大気中の莫大な魔力が背中に開いた『孔』を通じて体内へと流し込まれ、エリスの体内の脈管を内側からカッと熱く満たしていく。


「我慢なさらず、息を吐き出しなさい。背中の集魔回路と、お腹の放出回路を……今、完全に繋ぎ合わせます」


バレットの手のひらが、背中から細い腰へ、そして繊細な脇腹を伝ってお腹へと滑り落ちていく。

皮膚の上を這う指先の体温と感触に、エリスの全身はつま先までキュッと丸まり、甘い吐息が洩れた。


「仰向けになりなさい、エリス君」


言われるがままに身を返すと、バレットの温かな手のひらが、エリスの平坦なお腹の上、丹田のあたりへとそっと重ねられた。


「ひぁ……っ……!」


おへその周りに刻まれた丸文字が、バレットの手のひらから注ぎ込まれる濃密な魔力に応えるように、カッと熱く脈打った。

バレットの指先が、エリスの柔らかいお腹の素肌の上を静かに、けれど深く撫で上げていく。


お腹の回路へ最後の一筆が走り、背中とお腹の二つの回路がひとつの巨大な環となって重なり合ったその瞬間——エリスの体内で何かが弾けた。


「——んあぁぁっ……!!」


爆発的な魔術の波がエリスの全身を駆け巡り、背中とお腹の文字が一斉に眩い瑠璃色の光を放った。

刻印が皮膚の深層へと静かに沈み込み、施術が完了したその瞬間、エリスの胸の奥から押し寄せてきたのは、言葉にならないほどの愛おしさと、明日からの別れに対する猛烈な寂しさだった。


バレットが筆を引き、手を放そうとした瞬間——。


「……待って……離れないでっ……!」


エリスは衝動的に診察台から起き上がると、バレットの身体に強く抱きついた。

突然のことに、バレットはかすかに目を見開き、息を呑んだ。


「……エリス君? どうされたのですか……?」


バレットは驚きながらも、倒れ込むようにすがりついてきたエリスの身体を優しく支えようとした。

けれど、エリスはバレットの胸元を固く握りしめたまま、その勢いのままバレットを診察台の上へと押し倒したのだった。


バレットの体の上に覆いかぶさる格好になったエリス。

その涙で濡れた瞳は、情熱と切なさでうっとりと潤んでいた。


「バレット様……っ! 私……私、バレット様と過ごしたこの時間が……二人だけで秘密を共有して、私に向き合ってくださったこの夜が……大切でたまらないんです……!」


エリスはポロポロと大きな涙をこぼしながら、バレットの胸に顔をうずめ、必死に言葉を絞り出した。


「あなたが私に刻んでくださった文字のひとつひとつが……あまりにも愛おしくて、素敵で……っ。明日この街を出たら、もうあなたに会えなくなってしまう……それが、胸が引き裂かれそうなくらい辛いんです……!」


「エリス君……」


「バレット様……お願いです……。私の体に……私とあなただけの『証』を刻んでください……っ! 魔力だけじゃなくて……あなたのすべてで、私を満たしてください……!」


バレットは一瞬、言葉を失った。

自分に向かって全身全霊で愛おしさを訴え、身体を求めてくる少女の直面。

バレットは静かに紫紺の瞳を細めると、己の胸に覆いかぶさるエリスの可憐な身体を、そっと愛おしそうに抱き返した。


「……いいでしょう、エリス君。君の覚悟と想い……すべて私が受け止めましょう」


バレットの手がエリスの腰に回され、二人の肉体が隙間なく密着した。


重ね合わされる唇、触れ合う素肌の熱。

診察台の上で、二人の呼吸と体温が、ひとつに溶け合っていく。


バレットの指先がエリスの柔らかい肌を撫で上げるたび、全身の感度が極限まで高まっていたエリスの口から、甘く切ない吐息が洩れた。

背中とお腹に刻まれた瑠璃色の回路が、二人の肉体が重なり合う振動に応えるように、カッと熱く脈打つ。


言葉や魔術を超えた、濃密で神秘的な契り。

肉体と肉体が深く交わり、互いの存在を確かめ合うように貪り合う中で、エリスの体内の深部には、バレットの熱い体温と存在そのものが深く、深く刻み込まれていった。


「あぁっ……バレット様……っ! バレット様……っ!」


溢れ出る涙とともに、エリスはバレットの背中にしがみつき、自ら深く彼の存在を受け入れた。

バッシュへの一途な恋心を胸に抱きながらも、今この瞬間は、自分を抱きしめてくれるバレットの愛に全身で溺れ、酔いしれていく。


瑠璃色の魔光と、蝋燭の揺らめく光が交錯する部屋の中で、二人は夜が明ける直前まで静かに、そして激しく魂と肉体を重ね合わせ続けたのだった。


やがて激しい交わりの余韻が引き、静寂が室内に戻ってきた。


診察台の上で、エリスはバレットの胸に頬を寄せ、荒い息を整えながら、彼の手の温もりを慈しむように触れていた。

素肌に残る感触と、体内の深部で力強く脈打つバレットの魔力。


「……バレット様」


「なんですか、エリス君」


エリスは少しだけ身体を起こすと、涙の痕が残る頬を染めながら、すがるような目元でバレットを見つめた。


「……お願いがあります。私の心と体に、あなたの記憶がこんなに残っているのに……街を出てしまったら、いつかこの感触が薄れてしまうんじゃないかって、怖くてたまらないんです。だから……私に、もうひとつだけでいい……目に見える『身体の繋がり』を残してくださりませんか……?」


自分の身勝手で切ない我儘であることは分かっていた。

けれど、バレットの存在を、彼と繋がった証を、何らかの形として肌に残しておきたかったのだ。


バレットはエリスの瞳をまっすぐに見つめると、ふっと静かに思案するように目を細めた。


「目に見える『身体の繋がり』……そうですね。……では、このようなものはどうでしょう」


バレットはゆっくりと起き上がると、エリスの華奢な右手をそっと取り上げた。


「私の故郷……魔族の古い口伝には、生涯の絆を誓い合う者同士が交わす【誓約の印】という伝統があります」


「魔族の……誓約の印……?」


「ええ。魔族にとって『右手の薬指』は、魂の根源と直接繋がる特別な部位とされているのです。私の右手の薬指と、君の右手の薬指に……同じ【魔族の絆の紋様】を刻み込むことで、二人の繋がりを永遠のものとすることができます」


バレットは優しくエリスの右手の薬指をなぞった。


「この紋様は、魔術的な回路とは異なり、生涯消えることなく皮膚の表面に小さな黒と紫の繊細な輪となって残ります。私と君が、どれほど離れた場所にいようとも……この指先を通じて、お互いの存在と繋がりを感じることができるようになります。……このような証でよろしければ、刻みましょう」


バレットの説明を聞いた瞬間、エリスの胸の中に、躍り上がるような感動と猛烈な歓喜が押し寄せてきた。


「はい……! はい……っ! それがいいです……! お願いします、バレット様……っ!」


エリスは溢れ出る涙もそのままに、何度も激しく頷いた。

生涯消えない、自分とバレットだけの右手の薬指の紋様。バッシュには決して言えない二人だけの秘密の『指輪』。それが手に入ると思うと、嬉しくて、愛おしくて、たまらなかった。


「では……刻みましょう」


バレットは左手でエリスの右手を優しく握り締めると、自らの右手の薬指をエリスの右手の薬指へと重ね合わせた。

そして、小さな魔術の言葉を呟く。


ジュッ……と、かすかな熱が二人の指先を包み込んだ。


「んっ……」


熱気が肌に染み込み、ふっと光が収まると、二人の右手の薬指の根元には、まるで精巧な蔦(つた)のように美しく繊細な、黒と紫の【魔族の紋様】がくっきりと浮かび上がっていた。


バレットの右手の薬指にも、まったく同じ美しさを誇る紋様が刻まれている。


エリスはその自分の指先と、バレットの指先を交互に見つめ、愛おしそうに撫でさすった。


「すごい……本当に……バレット様とおそろいの紋様が……っ」


「これで、私と君の繋がりは永遠のものとなりました。どれほど遠くへ行こうとも、君は私の愛おしい共有者です」


「バレット様……! ありがとうございます……っ!」


エリスはたまらずバレットの首に抱きつき、その唇に何度も優しく吻を重ねた。


指先に刻まれた永遠の証。体内に刻まれた無限の魔力回路。そして、診察台の上で交わした熱い契りの記憶。

そのすべてが、エリスの身体と心にしっかりと満たされていた。


——部屋の小窓から、白みがかった朝靄の光が静かに差し込み始めていた。


エリスは慎重に服を着直し、乱れた髪を整えると、鏡の前で自分の右手をじっと見つめた。

薬指に輝く小さな紋様。それを左手でそっと包み込み、胸に当てて深く息を吐き出す。


扉の前で振り返ると、バレットが穏やかで静謐な笑みをたたえて立っていた。


「さようなら、バレット様。……この体と、指先の証と一緒に……私、行ってきます」


「ええ。健やかでありなさい、エリス君。私の刻印と愛は、いつでも君と共にあります」


重厚な大扉が、ぎぃ、とくぐもった音を立てて静かに閉まった。


朝靄が立ち込めるヴェノリアの街へと、エリスはしっかりと踏み出した。


胸の中には大好きなバッシュへの愛を。

そして、その身体の深層と右手の薬指には、聖魔術師バレットとの背徳的で永遠の『絆』を抱きしめながら——。


可憐な回復術師エリスは、二つの情愛を宿した強く美しい存在として、バッシュたちの待つ宿屋へと戻っていくのだった。

できる限り毎日投稿を続けていきたいと思っています!


これから毎日読みに来ていただけたらとても嬉しいです。


次回の更新もぜひ楽しみに待っていてくださいね!


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