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第43話:瑠璃光の覚醒と、黒衣の疾風

バレットによる『魔力文字』の定期調整がすべて完了し、エリスの体内に刻まれた秘術の回路は完璧に定着していた。


「——よし、これで街の外でのリハビリ兼、魔力の経過観察と行きましょう」


バッシュの提案により、一行はヴェノリアの街の外壁近くに広がる深い森林地帯へと足を運んでいた。

エリスがどれほど体力を取り戻したのか、そして彼女の言う「魔力回路の変化」がどこまで実戦で機能するのかを確かめるためだ。


だが、森林の奥深くへ足を踏み入れた途端、周囲の空気が一変した。

不気味な咆哮と共に、樹々の隙間から姿を現したのは、通常の魔獣とは明らかに一線を画す異形の群れ——硬質な外皮に覆われた「装甲魔熊(アーマード・ベア)」の群れだった。


「チッ……! なんだこの数は……!? 街のすぐ近くだぞ!」


ゼットが大剣を構え、レオンも即座にテイマーの笛を吹き鳴らして疾風霊馬(スレイプニル)を牽制に走らせる。

しかし、魔熊たちの装甲は凄まじく、ゼットの一撃すら弾き返して迫ってくる。数も多く、力押しだけでは押されかねない窮地だった。


「バッシュ君、後ろへ下がらないで……! 私に任せて!」


エリスは凛とした声で叫ぶと、服の下の背中とお腹に刻まれた『回路』へと意識を向けた。


その瞬間——。

背中に開かれた孔から大気の魔力が怒涛の勢いで吸い込まれ、お腹の丸文字で凝縮された魔力が全身を駆け巡る。


(あ……すごい……! 身体の中から、力が溢れてくる……っ!)


エリスが両手を掲げると、そこから溢れ出したのは、これまでの薄い白光とは比べものにならない、圧倒的な密度を誇る瑠璃色の輝きだった。


「『ハイ・プレッシング・ヒール』……!!」


波動となって広がった瑠璃色の光がバッシュたちを包み込む。

疲労が一瞬で吹き飛び、それどころか筋肉がカッと熱くなり、身体能力が何倍にも跳ね上がるような強烈な強化が全員に行き渡った。


「な……なんだこの活力は……!? 力が溢れてくるぞ……!?」


ゼットが驚愕の声を上げる。エリスの魔術は、ただ怪我を治すだけでなく、味方全員を限界突破させる『絶対の支援』へと進化していたのだ。


バッシュたちが強化された力で一気に押し返そうとした、その時。


頭上の大樹の枝から、一筋の黒い疾風が舞い降りた。


ツン、と鋭い金属音が響いた瞬間、魔熊の一頭が血を噴き出すこともなく膝から崩れ落ちた。首筋の微小な隙間を、一瞬で、的確に断ち切られていたのだ。


「なに……!?」


煙の中から現れたのは、顔の下半身を布で覆い、黒い漆黒の装束に身を包んだ華奢な人影だった。

低い声、抑え込まれた気配、男の暗殺者として振る舞うその佇まい。だが、布の隙間から覗く鋭い瞳には、尋常ならざる冷徹な光が宿っていた。


(……チッ、静かに薬草でも探そうと思ってたのに、邪魔なクマどもめ……)


無口な仮面の下で、彼女の内面は荒れ狂っていた。

感情を押し殺して冷酷な技術を振るう佇まいとは裏腹に、胸の奥では荒ぶる感情が渦巻いている。


彼女は無言のまま短剣を逆手に持ち直し、疾風のごとき足さばきで残りの魔熊たちの懐へ潜り込んでいく。


「おい、お前……助けてくれたのか!?」


バッシュが叫ぶと、黒衣の暗殺者は顔も向けずに、低く抑えた声で素っ気なく言い放った。


「……勘違いするな。依頼を受けていない標的を殺すつもりはない。……ただ、邪魔だっただけだ」


男言葉を装うその声には、冷徹な響きがあった。

だが、その言葉とは裏腹に、手さばきは苛烈そのものだった。


「ふふ……口ではそう言っても、手助けしてくれるのね!」


エリスは弾けるような笑顔を見せると、黒衣の暗殺者に向けても瑠璃色の強化光を放った。


「っ……!?」


光を浴びた瞬間、彼女の瞳が驚愕に見開かれた。

身体の芯から湧き上がる圧倒的な軽やかさとスピード。極限まで研ぎ澄まされた身体能力が、エリスの光によってさらに上の次元へと引き上げられたのだ。


(なんなの……この光……!? 身体が……ありえないくらい軽すぎる……っ!)


内心の動揺を殺し、彼女は影となって跳躍した。

バッシュの豪快な剣撃、ゼットの重撃、レオンとスレイプニルの連携、そして彼女の神速の暗殺術。

何より、それを後ろから無限の魔力で支え続けるエリスの瑠璃色の光によって、強敵だった魔熊の群れはあっという間に全滅したのだった。


短剣の血を払い、静かに鞘へと収める暗殺者。


「す、すごい腕前だな……! 助かったよ。あんたほどの強者なら、どこかのギルドや貴族からデカい依頼でも受けてるのか?」


バッシュが感心したように尋ねると、彼女はフッと視線を逸らし、くぐもった声で呟いた。


「……受けていない。腕が立ちすぎるせいか怪しまれ、まともな依頼も来ない。……今は金も依頼もない」


(……なによ、自分でも情けないわよ! 強いからって警戒されて、今夜のメシ代すらないなんて口が裂けても言えないわよ……っ!)


内に秘めた盛大な愚痴と荒ぶる感情を必死に押し殺し、彼女は男っぽく腕を組んだ。


「そうなのか……? こんなに強いのに……。俺はバッシュだ! あんたの名前は?」


バッシュが爽やかに尋ねると、彼女は一瞬の沈黙の後、素っ気なく短く応じた。


「……ブルだ」


「ブル、か。助けてくれて本当にありがとう!」


バッシュが手を差し出すと、ブルは一瞬その手を見つめた後、フンと鼻を鳴らして背を向けた。


「……名乗られる筋合いはない。借りを作るのは嫌いだ……それだけだ」


(……なんなのこの男の人たち、眩しすぎて直視できないわ……! それにあの女の子の回復魔術、異常すぎるでしょ……っ!)


内心でパニックを起こしながらも、ブルは冷静を装って身を翻し、木々の影へと消え去ろうとした。

しかし、去り際に立ち止まり、チラリと振り返った。


「……この森の先には、魔族の強力な部隊が潜んでいる。……死にたくなければ、近寄らないことだ」


それだけ告げると、ブルは影が溶けるように大樹の葉陰へと消えていった。


「……不思議な奴だったな。ブル、か」


バッシュは彼女の消えた木々を見上げ、感心したように呟いた。

そして、その隣でエリスは、自分のお腹と背中に触れながら、力強い実感に胸を打たれていた。


(見せたかったな……バレット様。私、ちゃんと……バッシュ君たちの役に立てました!)


圧倒的な力を手に入れたエリスと、突如現れた謎多き暗殺者「ブル」。

新たな波乱と出逢いの予感を孕みながら、一行の旅は次なる展開へと進んでいくのだった——。

できる限り毎日投稿を続けていきたいと思っています!


これから毎日読みに来ていただけたらとても嬉しいです。


次回の更新もぜひ楽しみに待っていてくださいね!



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