第3話:三人での初依頼と、少年の知恵
交易都市ロザリアの朝は早い。
東の空がほの暗い紫から温かな橙色へと染まり始める頃、街の大通りには早くも露店が立ち並び、威勢の良い掛け声が響き渡っていた。
「よし……! 今日はいよいよ、俺たちのパーティーとして初めての依頼だな!」
宿屋の前の広場で、バッシュは腰の剣の確かめながら意気揚々と声を上げた。
その隣には、まだ眠たそうに目をこすりながらも可愛らしく微笑むエリス、そして、質素な旅装を纏い、腰に小振りな小剣を差した黒髪の少年——クロードが静かに立っている。
見た目は10歳ほどの、華奢で物静かな少年。
だが、その佇まいにはどこか年不相応な落ち着きがあり、昨日出会ったばかりとは思えない不思議な安心感を漂わせていた。
「バッシュ、あんまり張り切りすぎて空回りしないでね? 私たち、まだ駆け出しなんだから」
「分かってるよエリス。……クロード、準備は大丈夫か? 荷物、重かったら俺が持つぞ?」
バッシュが気遣うように声をかけると、クロードは小さく首を横に振った。
「大丈夫だ、バッシュ。自分の荷物くらいは自分で持てる。……それより、今回受ける依頼の確認をしておこう」
クロードが羊皮紙の依頼書を広げる。
彼がギルドの掲示板から手際よく選んできたのは、『ロザリア近郊の森における薬草の採取と、街道を脅かす野ブタ魔獣の討伐』という初級冒険者向けの依頼だった。
「ワイルドボアは視力が弱いが、鼻が効く。突進の威力は高いけれど、直線的な動きしかできないから、慌てずに横に開けば回避は容易だ。……あと、指定の薬草『月見草』は日陰の湿地帯に生えている。俺が採取するから、バッシュは周囲の警戒を頼めるか?」
「……すごいな、クロード。魔物の習性も薬草の生えてる場所も、完璧に頭に入ってるんだな!」
バッシュが心底感心したように目を輝かせると、クロードは穏やかに微笑むだけだった。
「旅をしていれば、自然と覚えるさ。……行こう」
こうして、三人となったパーティーの初めての実戦が始まった。
ロザリアの街を出て一時間ほど歩いた街道沿いの森。
陽光が木の葉に遮られ、仄暗い影が広がるその場所で、クロードの提示した作戦は完璧に機能した。
「ブモォォォォッ!!」
突如として藪をかき分けて飛び出してきた、丸太のような太さの牙を持つ巨大なワイルドボア。
バッシュは一瞬怯みそうになったが、クロードの事前の助言を思い出し、冷静に横へと跳躍した。
空を切ったワイルドボアが隙を見せた瞬間、バッシュは渾身の力で鉄の剣を振り下ろす。
「ハァッ!!」
確かな手応えとともに魔獣が倒れ伏し、激しい地響きが収まった。
「やった……! 倒せたぞ、エリス、クロード!」
「バッシュ、すごいよ! 全然怪我してない!」
エリスが駆け寄り、バッシュの無事を喜ぶ。
クロードは静かな手つきで腰のナイフを抜き、倒れたワイルドボアのもとへ歩み寄ると、手際よく討伐の証明となる『牙』を切り落とし、血抜きの手順まであっという間に終わらせてしまった。
「……はい、これで討伐証明は完了だ。それと、月見草も予定通り集まった」
クロードが麻袋に入った薬草を見せる。その無駄のない洗練された手際に、バッシュとエリスは開いた口が塞がらなかった。
「クロードくん……君、本当になんでもできるんだね。10歳くらいにしか見えないのに、ベテランの冒険者さんみたい……」
エリスが感嘆の声を漏らすと、クロードはほんの少しだけ困ったように苦笑した。
「生き残るために必死だっただけさ。……さあ、依頼品も揃ったし、ギルドへ戻ろう」
「ああ! これで俺たちの初依頼は成功だな!」
バッシュは達成感に胸を躍らせながら、三人でロザリアの街への帰路についた。
だが、彼らが意気揚々と冒険者ギルドの扉をくぐった時、ギルド内は初朝の穏やかな空気とは一変し、異様な緊迫感とザワつきに包まれていたのだった。
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