第2話:交易都市への道のりと、新たな出会い
セレスティアの村を出てから四日目。
バッシュとエリスの旅は、決して優雅なものではなかった。
道中で出没する小型の魔獣をバッシュが必死に払い、怪我をしたバッシュの手当てをエリスが一生懸命に行う。夜は野宿で肩を寄せ合い、ささやかな未来を語り合いながら過酷な道中を乗り越えていった。
そして、ついに二人の視界に、巨大な石造りの防壁に囲まれた賑やかな街並みが飛び込んできた。
「すごい……! バッシュ、見て! あんなに大きな建物がいっぱいあるよ!」
「あれが交易都市ロザリアか……! セレスティアの何十倍もあるぞ……!」
圧倒されながら街の門を潜ると、そこは活気と喧騒に満ちあふれていた。
二人は人の波をかき分けながら、街の中心部にある重厚な建物——『冒険者ギルド・ロザリア支部』を目指した。
ギルドの重い木製扉を押して中に入ると、そこには多くの冒険者たちが集まり、依頼の相談や情報交換を行っている熱気ある光景が広がっていた。
「バッシュ、手、離さないでね……迷子になっちゃいそう……」
「ああ、しっかり掴んでろよ」
バッシュは胸を張り、受付カウンターへと向かった。
カウンターの奥にいた親切そうな受付嬢が、まだ洗練されていない素朴な服を着た二人に気づき、温かい笑みを浮かべた。
「いらっしゃい、可愛いお客さんたち。冒険者登録かしら? それとも何か依頼を探しているの?」
「あ、はい! 登録をお願いしたいのと……あの、俺たち、一緒に旅をしてくれる仲間を探しているんです!」
バッシュが真剣な眼差しで答えると、受付嬢は優しく頷いた。
「仲間探しね。いいわよ、あそこの掲示板に『パーティーメンバー募集』の紙を貼ることができるわ。どんな仲間に来てほしいかしら?」
「えっと……できれば剣が使える方や、魔法が使える方、それと知識が豊富な方です! 俺たち、世界を脅かす魔王軍から人々を守るために旅に出たんです!」
バッシュがまっすぐに自分の夢と目的を口にすると、周囲にいた冒険者たちも「いい志だね」「頑張れよ、駆け出しさん!」と温かい視線や声援を投げてくれた。だが、実績のない二人の募集にすぐ名乗りを上げてくれる者はおらず、バッシュとエリスは顔を見合わせて少し困り顔になった。
「う〜ん、やっぱりいきなり『魔王軍と戦う』なんて大きい目的だと、みんないくら親切でも慎重になっちゃうのかな……」
「そうだな……まずは実績を作らないと——」
バッシュが言いかけた、その時だった。
「——君たちも、一緒に旅をする仲間を探しているのか?」
静かで、どこか澄んだ少年の声が響いた。
振り返ると、そこには黒髪の小柄な少年が立っていた。
年の頃は10歳ほどに見える。質素で仕立てのいい旅装を纏い、腰には小振りな小剣を一本だけ差している。
その佇まいはどこか落ち着いていて、年齢のわりに静かな雰囲気を纏っていた。
「あ……はい! 俺はバッシュ、こっちはエリスです!」
「私、エリスです。あの……君も、仲間を探しているの?」
エリスが尋ねると、黒髪の少年は穏やかに目を細め、小さく頷いた。
「ああ。俺は……そうだな、ただの旅の者だ。あちこちを巡りながら、自分の目的のために一緒に行ける仲間を探していたんだ」
ギルド内にいる熟練の冒険者たちも、その少年の顔に見覚えはない様子で、「あの子、新しい登録者かな?」「さあ、見かけない顔だな」と小さく囁き合っている。このロザリアのギルドにおいて、彼を知る者はいないようだった。
少年は、まっすぐに自分を見つめるバッシュとエリスに向かって、そっと手を差し伸べた。
「もし良ければ、俺を最初の仲間に加えてくれないか?」
「えっ……!?」
「大した力はないかもしれないけれど、街や街道の知識はあるし、野宿の準備や料理の手伝いくらいなら役に立てると思う」
「本当ですか!? ぜひ、よろしくお願いします!」
バッシュはパッと顔を輝かせると、差し出されたその小さな手を握り返した。エリスもホッとしたように胸をなでおろし、可愛らしい笑顔を咲かせる。
「嬉しいな! よろしくね……あ、そういえば、君の名前を聞いてなかったよ」
バッシュに尋ねられ、少年は一瞬だけ間を置くと、静かにその名を口にした。
「……クロードだ。よろしくな、バッシュ、エリス」
「うん! よろしくね、クロードくん!」
こうして、聖樹の村を出たバッシュとエリスは、交易都市ロザリアにて最初の仲間——10歳ほどのミステリアスな少年、クロードと出会った。
小さな仲間を一人一行に加え、勇者パーティーの旅がここから静かに動き始めるのだった。
お目通しいただけたのも何かのご縁ですので、これから毎日読みに来ていただけたらとても嬉しいです。
次回の更新もぜひ楽しみに待っていてくださいね!




