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第31話:嵐の疾走と、獣上の男

「ハァ……ハァ……っ! くそっ、エリス……っ! 耐えてくれ、頼む……っ!!」


霧雨が煙る街道を、バッシュは全速力で駆け抜けていた。

背中には、呼吸も絶え絶えになり、身体を激しい悪寒に震わせるエリスの小さく冷たい体温。

そのすぐ隣を、ゼットが険しい表情で伴走している。


エリスの背中に浮かぶ紫色の『呪いの紋様』は、刻一刻とその侵食を広げていた。通常の解毒術や回復魔法をどれほど注ぎ込んでも、ザルのように生命力が削り落とされていく。


「バッシュ、焦る気持ちは分かるが、足元に気をつけろ! ガルードの街を出てから不眠不休だ、お前まで倒れたらエリスを救う奴がいなくなっちまうぞ!」


「分かってる……っ! 分かってるけど……時間がないんだ! 急がなきゃいけないんだよ!!」


バッシュの瞳には、エドを自らの手で切り伏せてしまった罪悪感と、大好きな幼馴染を失うかもしれない恐怖で、血走った涙が滲んでいた。


その時だった。


ガサガサガサッ……!!!


街道の脇に広がる鬱蒼とした森林から、突如として地鳴りのような重低音が響き渡り、木々が大きく揺れた。


「なっ……魔獣か!? くそっ、こんな時に——!」


ゼットが即座に大剣の柄に手を伸ばし、身構える。

樹海からしなやかに躍り出てきたのは、一般的な馬のふた回り以上も巨大な巨躯を持ち、美しく輝く白銀の毛並みと逞しい六本の脚を持つ俊足の魔獣『疾風霊馬(スレイプニル)』だった。


バッシュも息を呑み、背中のエリスを守るように態勢を低くした——その時。


「おっと! 止まれ止まれ、落ち着きな!」


豪快な男声と共に、なんとその白銀の霊馬の背から、一人の男が軽々と飛び降りてきた。


「なんだお前は……!?」


警戒して武器を構えるゼット。降り立った男は、ニッと不敵な笑みを浮かべながら片手を上げた。


「へへ、驚かせちまってすまねぇな! 俺はレオンっていうんだ。まあ、魔獣を慣らすビーストテイマーの冒険者さ。……お前ら、なんだか妙に急いでいるようだったから声をかけてみたんだが、どうしたんだ?」


初対面のレオンからの問いかけに、バッシュは一刻を争う焦燥感から必死の声を張り上げた。


「俺は……俺はこの子を助けるために、次の街『ヴェノリア』へ急がなきゃいけないんだ! エリスが……エリスが怪しい毒と呪いに侵されて、もう時間が……時間がないんだよ!!」


バッシュの悲痛な叫びに、レオンは一瞬で表情を引き締め、背中のエリスの顔色へ視線を送った。


「ヴェノリア……? あんな怪しい噂のある街へ行くってのか。……ふん、なるほどな。その様子じゃ、一刻を争うってのは本当らしい」


レオンはポンと愛馬の首元を優しく撫でると、バッシュたちに向かって力強く顎をしゃくった。


「そういうことなら、こいつに乗りな! このスレイプニルの足なら、どんな名馬よりも早く次の街へ連れて行ってやるぜ。急ぐなら早い方がいいだろ?」


「レオン……助かるっ!!」


「おう! 恩に着るぜ!」


バッシュとゼットは躊躇うことなく白銀の霊馬の背へと飛び乗った。

レオンが手綱を強く引くと、スレイプニルは嘶きをあげ、風を切り裂くような凄まじい速度でヴェノリアへ向けて街道を駆け抜けて行ったのだった——。

できる限り毎日投稿を続けていきたいと思っています!


お目通しいただけたのも何かのご縁ですので、これから毎日読みに来ていただけたらとても嬉しいです。


次回の更新もぜひ楽しみに待っていてくださいね!


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