第25話:絶壁の迷宮と、忍び寄る不協和音
『黒の絶壁』の内部は、外の光が一切届かない湿った薄暗い洞窟構造になっていた。
岩肌からは冷たい水滴が垂れ落ち、不気味な風切り音が洞窟内に不協和音のように響き渡っている。
「みんな、足元に気をつけてくれよ。ここは足場が悪いし、罠が複雑に入り組んでるかもしれないからな」
いつものように先頭を行くエドが、手際よく仕掛けを察知しながら慎重に進んでいく。
その頼もしい背中を見つめながら、エリスはふと胸の奥に小さな「引っかかり」を覚えていた。
(……変ね。エドさん、どうしてこんなに迷いなく進めるんだろう……?)
エドの索敵能力と罠解除の手際の良さは、これまで何度もパーティーを救ってきた。しかし、この『黒の絶壁』は前人未到と言われる複雑な自然洞窟だ。初見のはずの分岐路を、エドはまるで知っているかのように一切の迷いなく選択している。
さらに、ヒーラーとして周囲の『気配(波長)』に敏感なエリスの感性は、エドの背中からほんのわずかな「違和感」を捉えていた。
(気にしすぎ……よね? エドさんはいつだって私たちのために尽くしてくれてるんだから……)
エリスは首を振り、胸に芽生えた微かな疑問を打ち消そうとした。
だけど、バッシュのすぐ隣を歩きながら、エリスはそっと手元の聖印を握りしめる。
(万が一……何かがあっても、私がバッシュを守らなきゃ)
バッシュの背中を見つめるエリスの瞳には、初恋の甘い情愛と、「何があってもこの人を絶対に守る」という健気な決意が宿っていた。
「よし、この奥が大空洞になっているみたいだ。盗賊の拠点があるならそこだろう。みんな、準備はいいか?」
エドが振り返り、優しく力強い笑みを浮かべる。
「おう! 一気に片付けてやろうぜ!」
「行こう、みんな!」
エリスの胸に残る小さな胸騒ぎを乗せたまま、勇者一行は大空洞の奥深くへと足を踏み入れたのだった——。
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