第15話:果てなき宿命の向こうへ
古都アルカディアの激闘から一週間。
バッシュたちは、アルカディアを囲む山脈の山頂に立っていた。
眼下に広がるのは、雲海を抜けた先に広がる果てしない世界。
北の空には、魔王軍の瘴気が渦巻く暗雲が重く垂れ込めている。
「行くぞ、みんな」
バッシュが前に踏み出す。
その腰には、己の鉄の剣とともに、亡き(と信じている)親友・クロードの小さな鞘が誇らしく輝いていた。
「俺は誓う。もう絶対に二度と、仲間を死なせない。どんな困難が立ち塞がろうと、俺たちの手でこの世界に平和を取り戻してみせる……!」
「おう! 魔王軍の武闘派だろうが何だろうが、全員俺の大剣で叩き潰してやるぜ!」
「私も……二人を、みんなを絶対に死なせたりしない。もっと強力な回復魔法を身につけてみせる!」
「へいへい、頼もしいリーダーと仲間たちだねえ。俺もしっかりサポートさせてもらうよ」
バッシュ、ゼット、エリス、エド。
四人となった勇者パーティーは、悲しみを乗り越え、真の勇者一行としての覚悟と絆を固めながら、次なる目的地へと力強く歩み出した。
彼らの旅は、まだ始まったばかりなのだ。
◇
一方——。
アルカディアから遠く離れた、魔王軍・武闘派の極秘前線基地。
薄暗い石造りの大広間は、絶望的な破壊痕と重苦しい静寂に包まれていた。
数十体もの高位魔族たちが、骨を砕かれ、武器を粉砕され、ピクピクと身体を痙攣させながら床に転がっている。殺してはいない。だが、二度と戦場に立てないほど完全に叩きのめされていた。
その惨状の中心に佇んでいたのは、ひとりの青年だった。
10歳の少年の偽装を解き、本来の姿を取り戻した漆黒のコートの男——クロード。
「ひ……ヒィィィッ……! お前は……お前は一体なんなんだ……!? なぜ我が武闘派の拠点へ……っ!!」
最後に残った武闘派の隊長格の魔族が、あまりの恐怖に血を吐きながら後ずさる。
全身の骨を撃ち砕かれ、自慢の巨大な斧も一瞬で粉砕された。目の前の男は、魔法すらまともに使わず、ただ圧倒的な『力』と『圧力』だけで自分たちを一瞬で鎮圧したのだ。
クロードは一切の感情を交えない、冷徹な声音で静かに言い放つ。
「……言ったはずだ。人間に過剰な侵略を行い、対話を拒む『武闘派』は……俺がすべて裏から処理する、と」
「がっ……あ……ッ!!」
クロードが静かに踏み出した一歩。
ただそれだけの衝撃波で、魔族の隊長は壁へと叩きつけられ、意識を失って崩れ落ちた。
全滅。命を奪うことすらなく、一兵卒に至るまで完膚なきまでに叩きのめし、組織として再起不能へと追い込んだのだ。
クロードは静かに息を吐くと、崩れた屋根の隙間から見せる遠く南の空を見上げた。
(バッシュ……。お前たちが表の光として世界を照らすなら、俺は陰の闇として、お前たちの行く手を阻む理不尽な害悪をすべて叩き潰す)
セレスティアの村で交わした約束。
穏健派の魔族を守り、世界に真の平和をもたらすための……誰にも言えない秘密の戦い。
(……強くなれ、バッシュ。お前が真の勇者となった時、また会おう)
漆黒の青年・クロードは、夜の闇の中へと静かに姿を消した。
◇
そして、もう一人。
荒涼とした荒野を、月光を浴びながら一人黙々と歩く少女の姿があった。
凄腕の魔術師・クルル。
彼女の胸元では、クロードから贈られた蒼瑠璃色の『星詠みの護符』が、夜風に揺れて美しく輝いている。
彼女の瞳に映っているのは、世界でも、勇者の平和でもない。
ただひたすらに、北へと伸びる『クロードの残留魔力』の痕跡だけだった。
「……待っていてね、クロードくん」
少女の唇から漏れたのは、甘く、冷たく、狂おしいほどの愛執。
「どこへ逃げても……絶対に、あなたを見つけ出してみせるから……」
死を偽装し、裏から世界を救うために暗躍する『真の影の英雄』クロード。
悲しみを乗り越え、光の勇者として前へ進むバッシュたち。
そして、愛する者の影を追い、修羅の道を歩み始めた狂愛の少女クルル。
それぞれの選択と想いが複雑に交錯するなか、運命の歯車はより激しく、より苛烈に廻り始めるのだった——。
【第1章:旅立ちと偽装の死 完】
ここまでで1章簡潔になります。読んでいただきとてもうれしいです!
評価もいただけるとなお喜びます( *´艸`)
できる限り毎日投稿を続けていきたいと思っています!
お目通しいただけたのも何かのご縁ですので、これから毎日読みに来ていただけたらとても嬉しいです。
次回の更新もぜひ楽しみに待っていてくださいね!




