第10話:霧深き廃墟都市と、迫る絶望
ロザリアを出発してから数日後。
バッシュ一行の視界に現れたのは、重い灰色の霧に包まれた巨大な遺構群——『古都アルカディア』だった。
かつて高度な文明が栄えたとされるその都市は、今や崩れ去った巨大な石柱や苔むした建造物がどこまでも広がる、不気味な廃墟と化している。陽の光を遮る濃霧のなか、風が建物の隙間を吹き抜けるたびに「ヒュゥ……」とすするような不吉な音が響いていた。
「ここが……古都アルカディア……」
バッシュが腰の剣の柄に手を置き、息を呑む。
一行は慎重に街の内部へと歩を進めていた。先頭をバッシュとゼットが固め、中衛にエリスとクルル、索敵にエド、そして最後尾を10歳ほどの少年姿をしたクロードが歩いている。
「みんな、気をつけろよ。ギルドの情報じゃ、ここはBランク級の凶悪な魔獣が何頭も潜んでいるはずだ」
バッシュが注意を促すが、索敵をしていたエドがふと足を止め、瓦礫の跡を覗き込んだ。
「……おかしいな」
「どうした、エド?」
「いや……ただの野生の魔獣の巣窟なら、もっと無秩序に荒らされてるはずだ。だが、この周囲の石畳の砕け方や痕跡……まるで知能を持った『軍隊』が、規則正しく巡回しているみたいだぜ?」
その言葉に、ゼットが大剣を引き抜き、殺気を高めた。
「知能のある軍隊だと……? まさか、魔族か?」
「ああ。それも、ただの雑兵じゃねえ。かなり手慣れた連中の気配がする……!」
一行が緊張感を爆発させた、まさにその瞬間だった。
ズドドォォォォンッ!!
突如として周囲の半壊した巨大な神殿群が爆発音とともに崩壊し、一行が立ち足を踏み入れていた広場は、逃げ場のないすり鉢状の瓦礫の檻へと変貌した。
「なっ……!? 伏兵か!!」
「全員、私から離れないで……!」
クルルが咄嗟に強力な魔力障壁を展開し、降り注ぐ巨石の雨を弾き飛ばす。
だが、土煙が薄れたその頭上——崩落した建造物の屋上に現れたのは、ただの魔獣などではなかった。漆黒の毒々しい鎧を纏い、人間を嘲笑うような冷酷な殺気を滾らせた『魔王軍・武闘派の精鋭部隊』だった。
「ククク……かかったな、人間の小童ども。勇者の芽を摘むため、わざわざここで待ち伏せしてやった甲斐があったというもの」
先頭に立つ巨漢の魔族が、巨大な戦斧を軽々と振り回しながら凄絶な笑みを浮かべる。その背後には、数十体もの高位魔獣と魔族の精鋭が手ぐすねを引いて待っていた。
「魔王軍の……精鋭部隊……!? なぜこんな場所に……!」
バッシュが歯を食いしばる。
これまで戦ってきた野生の魔獣とは次元が違う。放たれる圧迫感だけで、肌がちりちりと焼け焦げるような錯覚を覚えるほどの絶望的な戦力差だった。
「チッ……上等だ!! どっちみち叩き潰すしかねえんだろ!?」
ゼットが咆哮を上げ、二本の大剣を構えて突撃する。
「させるか!!」
バッシュもまた剣を握り直し、果敢に魔族の群れへと飛び込んでいった。
エドが影から牽制のナイフを放ち、クルルが爆炎魔法で後方を援護、エリスが必死の思いで傷を癒やす支援魔法を飛ばす。
だが——敵の力はあまりにも圧倒的だった。
「ハハハ! 効かん! 効かんぞ小童ども!!」
巨漢の魔族が一振りの戦斧でゼットの斬撃を軽々と弾き飛ばし、その強烈な衝撃波でゼットを瓦礫の壁へと叩きつける。
「ガハッ……!?」
「ゼット!!」
バッシュが助けに入ろうとするが、別の高位魔族の放った漆黒の雷撃が直撃し、全身を焼かれて地面へと崩れ落ちた。
「バッシュ! クロードくん……みんな!!」
エリスの悲鳴が響き渡り、クルルが激昂して最大級の爆炎魔法を放つが、魔族たちの集団魔法障壁によって相殺されてしまう。逆に強烈な反動と魔族のカウンター魔法を受け、クルルも吹き飛ばされて石畳の上に打ち付けられた。
「く……そっ……こんなところで……俺たちは……」
バッシュは血を吐きながら、必死に剣を握り直そうとした。
しかし、全身を駆け巡る激痛と体力の限界により、視界が急速に暗転していく。
ゼットも、エドも、クルルも、エリスも——。
全員が絶望的な力の大差の前に傷つき、一人、また一人と意識を失い、冷たい石畳の上へと倒れていった。
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