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「よかったあ……」
事が収まったのを感じ、気が抜けてへたり込む。
「まさか上手くいくとはねえ」
先生がTシャツに包まれた人形をカウンターに置いた後、安堵のため息を漏らす。
「おい、じゃあ当てずっぽうかよ」
イシノモリさんが詰め寄った。
「いやあ耳が痛い」
「俺は頭が痛えわ」
「なんですかこれ、なんなんですか……」
絞り出すように聞くのが精一杯だった。怒涛の展開に必死で喰らいついてきたが、無理はもうとっくに通り越していた。
正気度がガリガリ削られてゆく。
でもこれ慣れちゃいけないやつだ。慣れたら人として駄目なやつだ。
「『呪い』だよ?」
「『呪い』だな」
「そんなの分かってますよお!」
「んんー、『呪いの人形』にも二通りあってね。人形自身が意思を宿すものと《《容れ物》》として他者の魂を宿すものがあるんだよ」
包んだTシャツ越しに先生が人形の頭を撫でる。
「この子は後者だね。悪意は篭ってないから、吸い寄せちゃったんだろうねえ」
「呪いなのに悪意がない??」
「『《《願い》》』は『《《呪い》》』になるって事さ」
先生の人形を見る目つきが変わる。
憐んでいるような、蔑んでいるような、そしてどこか突き放したような冷めた目。
視線は人形ではなく何か違うものを見ているようだった。
しかしそれもほんの一瞬の事で、すぐにいつもの締まりの無い表情に戻った。
「この子の経緯は分からないけどね、そんなとこじゃないかなあ。まあ害もなにもない、呪いとしては面白みのないものだ」
「人形の電池が入れ替わる、くらいのつまんねえ芸当だわ。《《このまま》》じゃな」
イシノモリさんが含みをもたせた言い方をした。
口の端が上がってなんかちょっと、いや、すっごく悪い顔になってる。
「害ありまくりじゃないですか……」
「なあ、ところでよ。どうすんだ、これ」
これ、とイシノモリさんが指差したのは気を失ったままの七海と葵だった。
「ああ、思わず出しちゃったねえ」
やれやれ、と言った感じで先生はわざとらしく頭に手を置いた。
「なに言ってるんですか、神隠しから救ったんですよ! しかも二回も!」
「怪しそうなんじゃなくてホントに怪しかったんですね、先生!!」
「キミ、どさくさに紛れて本音吐露しすぎじゃないかい?」
先生にジト目で睨まれてしまった。しまった、つい正直になりすぎた。
「え、あれ? と、とにかく見直しました先生!!」
咄嗟にフォローするも誤魔化せている気がしない。
「あ、でもこの状況ってマズくないですか、こんなの誰も信じてくれませんよ。誘拐だ、これじゃあ誘拐そのものだ」
そうだ、こんなの誰も信じない、理解できる訳がない。
行方不明だった女の子たちは呪いの人形に閉じ込められてました。けど助けたから大丈夫でーす、とか言ったところで「はいはい、詳しくは署で聴こうか」って連れて行かれるに決まってる。
理不尽だ、報われない。世の中は不条理に囲まれている。
先生やイシノモリさんなんて、もう出てこれないんじゃないだろうか。
そしたら店は潰れて僕は無職。
ん?
ん??
もしかして解放されるチャンス?




