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「出たよ、『鈍感力』」
「かなりのものだね、まったく」
突然のチャンス到来に水を差され、思わず怪訝な表情を二人に向ける。
白けた様子の二人はそんな視線を気にする様子もなかった。
「それじゃあ、後始末しようか」
「物騒なことは止めてください、何考えてるんですか」
僕を一瞥した後、先生は面倒くさそうな足取りで七海と葵の頭側に回り込む。
そしてゆっくりしゃがむと二人に囁いた。
「『七海』さん、『葵』さん、『《《帰りなさい》》』」
忽ち女の子たちの姿が薄くなっていき、そのまま消えていく。
「なんですか、これ! なんなんですか?!」
「語彙力なし男か、オメエ」
「そりゃ、彼女たちに《《身体はない》》からね」
よっこいしょ、と大袈裟な掛け声と共に先生が立ち上がった。
「幽霊ってこった」
イシノモリさんが信じられない一言を付け足す。
「いやまさかそんな、『幽霊』とか、そんな。呪いよりもっとあり得ない!」
「そうだ、さっき触れましたし!」
「幽霊は触れないって、あれ嘘だよ。視えるのなら触れる。視えないのなら触れない。単純な話さ」
「そもそもだ。こんな異様な雰囲気の店に惹かれる奴は、ソイツ自身にもなんかあんだよ。健康な奴は、病院に来ねえってな」
「じゃあ先生は初めから……」
「稀によくあるって言ったろう?」
「今は7月、衣替えは《《とうに終わってる》》よ」
「大体、幽霊自体はそんなに珍しいものじゃない、普通に生活してるしね。死んだと気付いてない人も多いんじゃないかな。ただ普通の人と違うのは、次の日を《《跨げない》》ってことくらいかな。《《その日》》をそうとは気付かず延々繰り返すんだ」
「彼女たち見ない顔だったからね、ちょっと調べてみたのさ。春先に近所で女子高生が巻き込まれる事故があった、恐らくはその被害者だ」
言い終わると先生は少し物憂げに窓の外に目をやった。
「そんな……でも、今ので成仏しましたよね」
「あくまで帰しただけだからねえ。けど」
「キミの力と出会ったことで変化があったかもしれない。だといいね」
窓からこちらに視線を戻し、先生が微笑む。
「……はい」
「JKは晴れて成仏、俺はいいモン手に入れた。めでたしめでたしだな」
イシノモリさんがもう用はないとばかりに話を締めに入った。
「さ、帰るとするわ」
僕のTシャツに包まれた人形をイシノモリさんが抱えている。
そのまま持って帰るんだろうか、持って帰るんだろうな。あのTシャツ気に入ってたのに。
「その人形どうするんですか?」
「空の器は勝手がいいんだよ、《《なんでも》》憑めれるからな」
「ね? 悪い人だろ」
「だからオメエに言われたかねえよ、んじゃな」
「またね、振込よろしく」
「おっと」
イシノモリさんが出て行こうとしたタイミングで先に扉が開き、危うくぶつかりそうになった。
入ろうとしていたブレザー姿の女子高生二人組が慌てて謝る。
「あ、すいませ――」
が、イシノモリさんを見て固まる二人。を見て僕も固まる。
七海と葵だった。
「ぎゃ」
「ぎゃっておい」
「ごごごごめんなさーい!!」
悲鳴に近い声をあげて逃げるように、いや一目散に逃げて行った。
「待って――」
追いかけるように外へ飛び出す。しかし彼女たちはすでに遥か遠くまで行ってしまっていて、小さくなっていく姿を呆然と眺めるしかなかった。
先生も遅れて入口までやってきて、彼女たちが見えなくなるまで三人で見送る形になった。
「先生……」
「ね?」
「成仏してないじゃないですかあああああ!!」
「いやあ、いい感じで締めたのに台無しだなあ」
「まあ、お疲れ」
姿が完全に見えなくなった後、イシノモリさんは停めてあった車に乗り込み反対方向に走り去った。
「さてさて、じゃあ今日はこれで仕舞いにしようか。キミもお疲れさま」
「あ、え、はい、お疲れさまでした」
追い出すように店の扉が閉まり鍵がかかる音がした後、目隠しのカーテンが引かれた。
一人取り残された僕は、OPENのままだった扉の看板をCLOSEに裏返す。
疲れた……まだお昼前だというのに、すごく疲れた。
真上近くの太陽が肌を容赦なく焼き、とめどなく汗が流れる。
特に剥き出しになった背中が、熱い。
「って」
「僕、半裸で帰るんですか」
ビスクドール【完】




