表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『少し』『不思議な』骨董品屋――嘘です!『非常に』『危険な』呪物マニアの先生が、呪いの効かない僕を手放してくれません!  作者: 東中
ビスクドール

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/9

 突如人形が小刻みに震えだし、見えない力で引っ張られるかのように二人の頭が姿を見せる。

 そして徐々に、ゆっくりと、吐き出されるように全身が現れた。


「こういう事。分かったかい? だから簡単に名前を教えちゃいけないよ。名前を呼ばれてドキッとする事あるだろ?  あれも『掴まれてる』からなんだよね」

 出てきた女の子たちには目もくれず、マイペースな先生の話は止まらない。

「普通の人だとその程度でね、まあ問題はないんだけど。このおじさんは悪い人だから気を付けた方がいいよ。ね?」

「ね? じゃねえよ」

 ヤクザ者が先生の視線を振り払うように、鬱陶しげに腕を振る。


「えええええ?!」

 度肝を抜かれる、という言葉を初めて体験した。

 正直半信半疑だった。

 先生が僕をからかっているのでは、という気持ちもどこかにあった。

 それでももし本当なら、大変な事だと思って。

 しかし、本当に人形から女の子たちが現れた。

 しかもなんと、話のついで、に難なく女の子たちを救い出したのだ。


「ちっ、《《釘刺しとこう》》と思ったのによ」

 魂胆を潰されたヤクザ者は悪びれもせず吐き捨てた。

「ほらほら、悪い人だ」

「うっせえ、オメエに言われたかねえわ」

「あーなんだ、あれだ」

 バツが悪そうに頭を掻きながら、僕に横目を向ける。


「よし、特別に俺の名前を教えてやる。イシノモリだ」


「好きだねえ、キミも」

「石ノ森先生みんな好きだろ」

「先生!」

 思わず叫ぶ。この状況に驚いているのは僕だけだった。

 イシノモリ?さんも全く動じていない。

「ほら、コイツも好きだよ」

「若いのに渋いなあ」

「古いんじゃねえ、原点にして頂点なんだよ」

 漫画のような事態が起こっているのに、むしろ二人は漫画の話をしている。

 結構なイベントが起こったはずなのに、全くの日常パート。

 呪い業界がそうなのかこの二人がそうなのか、日常茶飯事レベルが常軌を逸している、もう嫌だ。


 でもだけど、女の子たちは助かった。

 結果良ければなんでもいい、最悪の事態は免れたんだ。

 なんだかんだ言っても先生はすごい人だった。尊敬は出来ないけど。


 よかった、本当によかった。

 

 その時、女の子たちが微かに動いた。

 気付いたのかと思い、駆け寄ろうとして足が竦む。

 人形が禍々しい気を放ち、七海と葵を再び取り込もうと引き寄せ始めていたのだ。

「せ、先生、イシノモリさん、女の子たちが! 女の子たちがまた人形に引き込まれてます!!」


 二人がその様子を見遣った後、突如イシノモリさんが先生に向かってチョキを出した。

 先生がすかさずパーを出す。

「おいおい」

「決裂かな?」

「ったく足元見やがって。3だ」

「毎度あり」

 ジャンケンしてる場合ですか! そう叫ぼうとした時、先生が声を張り上げた。


「さあて、キミの出番だよお!」


 全身からやる気が満ちている。満ち溢れている。

 これほど頼もしい先生を見たのは、初めてだった。


「は、はい!  なんでもします! なんでも言ってください!」

 負けじと僕もかじりつくように声を上げる。

 やる気の理由が僕とは全く違うのは明らかだったが、この際どうでもいい。


 そう、


「二人が助かるのなら!!」


「いい返事だ! 覚悟はいいかな!!」


「はい!!」


 気持ちが高ぶり、無意識に拳を固く握る。

 なんとしても彼女たちを救う、そう強く決意する。

 『鈍感力』がどう役に立つかは分からない。


 でも出来る事はなんでもやってやる!



「じゃあ、上脱いで」



「はい?」


「そのTシャツ。この子包むから」


「はいい??」


 思わず吉本新喜劇ばりにずっこける。

 覚悟というスターティングブロックに足を掛け、クラウチングスタートでダッシュした瞬間に足を引っ掛けられた気分だ。痛い、心が盛大に擦りむいて痛い。

 なんか終始先生に弄ばれている気がする。泣きそう。


「『鈍感力』が染みついた布は耐呪性抜群、封印にちょうどいいと思わないかい」

「そんな、人をジップロックみたいに」

「上手いな。山田君Tシャツ1枚持ってって」

 腕組みして見物に徹しているイシノモリさんが、ちゃちゃを入れてくる。

「笑点ぽく言いつつ、とにかく脱げと?」

「助けたいんだろ。さあ、急いだ急いだ」

 先生が両手を打ち鳴らし急かす。

「分かりました! はいほら!」

 やけくそ気味にTシャツを脱ぎ、投げるように先生に渡す。

「じゃあ、次は女の子たちだ」

「触れてるだけでいい、それだけで『鈍感力』の効果はある。はずだよ、多分。知らないけど」

「歯切れ悪くないです?!」


 語尾に向かってどんどん言葉が弱くなるのが不安だったけど、先生の言葉に一縷(いちる)の望みをかけるしかない。

 僕は連れて行かれないようにと懸命に祈りながら、七海と葵の肩を両手で必死に押さえた。

 同時に先生が僕のTシャツで手早く人形を包む。

 途端に人形の禍々しい気配が消え失せ、取り込まれかけていた二人の姿も元に戻っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ