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突如人形が小刻みに震えだし、見えない力で引っ張られるかのように二人の頭が姿を見せる。
そして徐々に、ゆっくりと、吐き出されるように全身が現れた。
「こういう事。分かったかい? だから簡単に名前を教えちゃいけないよ。名前を呼ばれてドキッとする事あるだろ? あれも『掴まれてる』からなんだよね」
出てきた女の子たちには目もくれず、マイペースな先生の話は止まらない。
「普通の人だとその程度でね、まあ問題はないんだけど。このおじさんは悪い人だから気を付けた方がいいよ。ね?」
「ね? じゃねえよ」
ヤクザ者が先生の視線を振り払うように、鬱陶しげに腕を振る。
「えええええ?!」
度肝を抜かれる、という言葉を初めて体験した。
正直半信半疑だった。
先生が僕をからかっているのでは、という気持ちもどこかにあった。
それでももし本当なら、大変な事だと思って。
しかし、本当に人形から女の子たちが現れた。
しかもなんと、話のついで、に難なく女の子たちを救い出したのだ。
「ちっ、《《釘刺しとこう》》と思ったのによ」
魂胆を潰されたヤクザ者は悪びれもせず吐き捨てた。
「ほらほら、悪い人だ」
「うっせえ、オメエに言われたかねえわ」
「あーなんだ、あれだ」
バツが悪そうに頭を掻きながら、僕に横目を向ける。
「よし、特別に俺の名前を教えてやる。イシノモリだ」
「好きだねえ、キミも」
「石ノ森先生みんな好きだろ」
「先生!」
思わず叫ぶ。この状況に驚いているのは僕だけだった。
イシノモリ?さんも全く動じていない。
「ほら、コイツも好きだよ」
「若いのに渋いなあ」
「古いんじゃねえ、原点にして頂点なんだよ」
漫画のような事態が起こっているのに、むしろ二人は漫画の話をしている。
結構なイベントが起こったはずなのに、全くの日常パート。
呪い業界がそうなのかこの二人がそうなのか、日常茶飯事レベルが常軌を逸している、もう嫌だ。
でもだけど、女の子たちは助かった。
結果良ければなんでもいい、最悪の事態は免れたんだ。
なんだかんだ言っても先生はすごい人だった。尊敬は出来ないけど。
よかった、本当によかった。
その時、女の子たちが微かに動いた。
気付いたのかと思い、駆け寄ろうとして足が竦む。
人形が禍々しい気を放ち、七海と葵を再び取り込もうと引き寄せ始めていたのだ。
「せ、先生、イシノモリさん、女の子たちが! 女の子たちがまた人形に引き込まれてます!!」
二人がその様子を見遣った後、突如イシノモリさんが先生に向かってチョキを出した。
先生がすかさずパーを出す。
「おいおい」
「決裂かな?」
「ったく足元見やがって。3だ」
「毎度あり」
ジャンケンしてる場合ですか! そう叫ぼうとした時、先生が声を張り上げた。
「さあて、キミの出番だよお!」
全身からやる気が満ちている。満ち溢れている。
これほど頼もしい先生を見たのは、初めてだった。
「は、はい! なんでもします! なんでも言ってください!」
負けじと僕もかじりつくように声を上げる。
やる気の理由が僕とは全く違うのは明らかだったが、この際どうでもいい。
そう、
「二人が助かるのなら!!」
「いい返事だ! 覚悟はいいかな!!」
「はい!!」
気持ちが高ぶり、無意識に拳を固く握る。
なんとしても彼女たちを救う、そう強く決意する。
『鈍感力』がどう役に立つかは分からない。
でも出来る事はなんでもやってやる!
「じゃあ、上脱いで」
「はい?」
「そのTシャツ。この子包むから」
「はいい??」
思わず吉本新喜劇ばりにずっこける。
覚悟というスターティングブロックに足を掛け、クラウチングスタートでダッシュした瞬間に足を引っ掛けられた気分だ。痛い、心が盛大に擦りむいて痛い。
なんか終始先生に弄ばれている気がする。泣きそう。
「『鈍感力』が染みついた布は耐呪性抜群、封印にちょうどいいと思わないかい」
「そんな、人をジップロックみたいに」
「上手いな。山田君Tシャツ1枚持ってって」
腕組みして見物に徹しているイシノモリさんが、ちゃちゃを入れてくる。
「笑点ぽく言いつつ、とにかく脱げと?」
「助けたいんだろ。さあ、急いだ急いだ」
先生が両手を打ち鳴らし急かす。
「分かりました! はいほら!」
やけくそ気味にTシャツを脱ぎ、投げるように先生に渡す。
「じゃあ、次は女の子たちだ」
「触れてるだけでいい、それだけで『鈍感力』の効果はある。はずだよ、多分。知らないけど」
「歯切れ悪くないです?!」
語尾に向かってどんどん言葉が弱くなるのが不安だったけど、先生の言葉に一縷の望みをかけるしかない。
僕は連れて行かれないようにと懸命に祈りながら、七海と葵の肩を両手で必死に押さえた。
同時に先生が僕のTシャツで手早く人形を包む。
途端に人形の禍々しい気配が消え失せ、取り込まれかけていた二人の姿も元に戻っていった。




