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「ちょっと、ちょっと待って。整理させてください」
落ち着いたはずの思考がまた掻き乱され、無意識に額に手を当てる。
考えようとするが寝不足の時みたく、脳がチリチリしてまったく頭の中がまとまらない。
「はいはい。どうぞどうぞ」
待ってましたと言わんばかりに、先生が弾んだ声で僕を手で指し示す。
嬉々としたその態度に少しげんなりしながら、反芻するようにひとつひとつ確認する事にした。
「その。人形の、《《何か》》がまた新しくなっている、と」
「そうそう、面白いよねえ。昨日の今日だよ」
「しかもその《《何か》》がふたつに増えた、と」
「それそれ、なかなかに珍しい事だ、これは」
「つまり《《何か》》とは……」
「とは?」
先生が次の言葉をニコニコ顔で待っている。
待っているけど、これ以上は駄目だと脳内の僕が待ったをかける。
怪異の真っ只中に身を置いている現状。
正気度というパラメータがあるのなら、目減りしていってる実感がある。
嫌だ、関わりたくない、全力で回避したい。
はいもう無理、無理でーす。
腰に手を当て、大きく息を吐く。
「とりあえず僕帰っていいですか」
「いいけど。また憑いてくるよ?」
「嫌だあああ!!」
怒涛のごとく押し寄せる絶望。逃げ出す事も無駄だと聞かされ、膝から崩れ落ちて頭を抱え床にしゃがみ込む。
「なんで僕なんですか! 先生が気に入られたんじゃないんですか!」
「そりゃあ、新しい中身は昨日の女子高生たちだからねえ」
「……はい?」
全く想定していなかった台詞に思わず顔を上げる。いつの間にかこちらを向いていた人形と目が合った気がした。
「それで年の近いキミに憑いてったんだね。にしてもやるねえ、キミも」
「なんか今サラッと、ものすごく怖い事言いませんでした? 言いましたよね?」
それまでの怖さが吹き飛ぶような《《怖い》》話を聞いてしまった。
中身が昨日の女の子たち?
あり得ない、けどそのあり得ないことを僕はもう何度も体験してしまっている。
考える。
中身の入れ替わった人形が、なぜ僕に憑いてきたのか。
人形であれ意思が人のものなら行動に意味があるはず、だ。きっと。
もしそれが助けを求めての事なのだとしたら。
恐怖を隅に追いやり、気持ちを奮い立たせ起き上がる。
「どうにかしないと」
「何を?」
僕の言葉が予想外だったのか、先生は目をぱちくりとさせた。
「何って……呪いで二人が取り込まれてるんですよ、神隠しじゃないですか! 大変な事じゃないですか!」
「そうかい?」
「きっと彼女たちは僕を頼って来たんです、先生怪しいし。例えば、その、僕の『鈍感力』とやらで何とか出来ませんか」
のらりくらりと僕の話をかわそうとする先生を逃さないため、目に力を込めて真正面から先生を見据えて言った。
「助けましょう、家族も心配してますよ!」
「んー、どうだろうなあ」
僕の焦りをよそに先生は落ち着いていた、むしろ冷めていると言った方がいいくらいだった。
「ああもう! なんでそんな冷静なんですか!」
「というかキミ、根本的に《《分かってない》》ね」




