恋愛編 第19話「最適化ログを見られたら、熱烈アプローチ定義された」
恋愛編 第19話「最適化ログを見られたら、熱烈アプローチ定義された」
朝。
パソコンを起動。
フォルダ名。
『最適化対象:夕凪悠真』
クリック。
***
グラフや数値が並ぶ。
推定:健康状態
推定:感情の状態
推定:幸福度スコア
推定:筋肉量
発声の周波数解析(リラックス効果の数値化)
好みの味覚の情報
歩行スピードの記録
合わせて。
私自身の状態も記録。
心拍数推移、脈拍。
幸福度、安眠度、満足度。
対面接触時、月一の試食会。
長期不在時の記録も入力済み。
データが膨大になってきた。
***
夜。
私は資料を整理していた。
夕凪くんに関する、すべての記録。
その時。
ピンポーン。
「麗子さん、いる?」
——思考停止。
なぜ。夕凪くんが。
いつもなら連絡が先だ。
突然の訪問に、思考が飛んだ。
「・・・います」
「この前の容器、返してもらおうと思って」
・・・なるほど。忘れていた。
「今、開けます」
ドアを開ける。
「お邪魔します」
「はい・・・少々お待ちを」
慌てて容器を探しに行く。
手間取る。
戻ってきた。
パソコンの画面を見つめる夕凪くんがいた。
「・・・・・・っ!! あの・・・これは・・・」
「・・・・・・」
沈黙。
私の思考は駆け巡る。
「プライバシーの侵害」「ストーカー規制法」「自分を分析される気持ち悪さ」「異常行動」
最悪のシナリオが瞬間的にいくつも再生される。
——終了です。
関係破綻確率:98%
完全に終わった。
彼は離れていくだろう。もう普通には接してもらえない。
私の平均寿命は5年以上縮まるだろう。
急速に、手足が冷えていく。
冷静に。
不快な思いをさせた謝罪をしなければ。
姿勢を正す。
声を、出そうとする。
「・・・・・・っ!」
喉が狭まったのか、声が上手く出ない。
「も・・・申し訳、ありません」
声が、かぼそく震えた。
「・・・麗子さん」
「・・・はい」
「・・・すごいね」
――え。
どういう意味。
私は、顔を上げた。
夕凪くんは、画面を見たまま言った。
「このティラミスを渡した日、僕ちょっと風邪気味だったんだよ」
「・・・え」
「体調優れないの、よく分かったね」
どういう反応。
予想外。
「こんな時間かけて、僕のこと分析してくれる人、いないよ」
もはや理解不能。
「これ」
画面を指差す。
夕凪くん対面接触時の幸福度グラフ。
「すごく上がってるね」
「——ッ!」
「この情報量も含めて、熱烈なアプローチみたいだね」
「違います」
即答する。
「これは、生活の質と長期にわたる最適化の」
「うん」
「決して恋愛感情はなく」
「うん」
目が合う。
「でも、嬉しいよ」
——理解不能。
目の前の男性。予想外の返答。情報量の不足。
「じゃあ、またね」
帰ろうとする。
「・・・待ってください」
呼び止めた。
振り返る。
心拍数、最大。
「・・・・・・人間ドックの結果を」
言ってしまう。
「共有、していただけますか」
「いいよ」
即答だった。
***
ドアを閉める。
その場に座り込む。
意味が分からない。
今さっき、何が起こった。
否。
何が始まった。
パソコンに新規フォルダを作成。
『定義未確定:夕凪悠真』
恋愛の可能性は無い。
再定義を開始。




