第14話「たぬきの罠にかかったら、親子たぬきに会ったので挨拶した」
第14話「たぬきの罠にかかったら、親子たぬきに会ったので挨拶した」
田舎の実家に帰省。
変わらない。
自然が溢れる。
「あんた、いい人いないの?」
母上だ。
「・・・いません」
外へ出る。
何も持たずに散歩。
この地域は完璧に把握済み。
庭だ。
田んぼの畦道。
勝手知ったる道。
目を瞑っていても歩けそう。
——ガッシャン。
たぬきの罠にかかった。
右足だ。
数枚の刃が靴の上から食い込んでいる。
非常に硬い。
私の力では脱出不可能。
幸い、痛みはない。ケガはなさそう。
靴から足を抜こうとする。
脱げない。
がっちりホールドされていた。
冷静に。
分析を開始。
この田んぼのおじさん。
確か毎日夕方5時、見回りに来る。
現在時刻は。
私が家を出たのは昼3時前。
ここまで徒歩およそ体感20分。
結論。
約2時間このまま待機。
問題。
この2時間、何に使うか。
考えることは山ほどある。
再結論。
2時間は、一瞬だ。
体内時計では1時間経過。
私は、夕凪くんの低音ボイスの入手手段について。
真剣に思考していた。
さらに。
その内容にも踏み込む。
シチュエーションボイス、セリフの優先順位。一言のみ録音可能な場合。
カサカサ。
田んぼの向こう側。
たぬきの親子が歩いていた。
そして。
私を見て、止まった。
不思議そうな顔でこちらを見ている。
「あの人間、罠にかかってる」 とでも言わんばかりに。
現在の状況。
私は動けない。
敵意がないことを伝える必要性あり。
最も有効な手段。
「こんにちはー!!」
「私、白川麗子と申します!」
親たぬきは、頭をペコっと下げた。
私も会釈する。
挨拶は種を超越する。
親子たぬきは尚も不思議そうな顔で、去っていった。
あと1時間。
思考の続きに戻る。
夕方5時過ぎ。
田んぼのおじさんに罠を解除してもらう。
「最近じゃ、たぬきでも罠に掛からないんだよ」
ボロボロになった右の靴を見た。
たぬき以下の可能性が浮上。
即、消去。
偶然だ。




