第7話 タイガの配慮
俺たちは岩山の洞窟へと入った。
俺はまだこの閉鎖された廃村しかこの世界のことを知らないから、正直不安もある。
だけど、俺にはタイガという心強い相棒もいるし、錬金術という素晴らしい技もある。
だからどちらかといえば、ワクワクの方が勝っている。
岩山の洞窟を進み、虎タイガに魔物を討伐してもらってドロップ素材を拾いながら地底湖を通過する。
この地底湖でのキャンプは最高だった。あの言い表せない感動をまた体験したくて、俺は旅に出る決心をしたんだ。
洞窟内を進んでいくと、大きな岩が転がっている行き止まりにあたってしまった。
あれ? タイガ、道間違えた――
虎タイガがその大きな岩をベシベシ叩くと、岩がゴロゴロと転がり出す。
すると、奥へと続く通路が現れたのである。
「えっ、この岩が道を塞いでいたのか?」
「うん、あのね……ボク、なんとなくあの村が見つからない方が良いかと思って、隠してたの」
「あっ、あの岩、お前が置いたのか! そうか――無意識に、村を守ってたんだな……」
錬金守護獣としての本能が、ここでも働いてたってことか。
虎タイガが退かしてくれた岩を横切り、奥の通路へと進む。
虎タイガがゆっくりと後ろを振り返ったので、俺も釣られて振り返る。
「あの岩、あっち側からしか転がせないから、もう、隠せないや」
虎タイガはしんみりと呟いた。
「タイガ……」
あの村はタイガに隠してもらっていたから、今まで誰にも荒らされることもなかったのかもしれない。
錬金術師たちが命がけで守った村。俺も、あの村はあのまま見つからずにそっとしておくのが良いんじゃないかって思う。
だから――
「よし、タイガ。ここ、完全に塞いじまおうか」
「えっ、そんなこと、できるの?」
虎タイガの表情がパッと明るくなる。
「できるさ、錬金術ならな」
俺がニヤリと笑うと、タイガもまた「うん!」と嬉しそうにうなずいた。
俺は錬金術師の腕輪をはめて、通路の入り口に向かって魔力を放った。
入り口全体が光に包まれ、向こうに転がっていた大きな岩が光に引き寄せられていく。
そして――ここには初めから道など続いていなかったかのような、行き止まりが完成した。
「よし、これでいいな」
「うん、安心だ! ありがとう、レン!」
一方通行となった通路を進んでいくと、だだっ広い空洞へと出た。
線路があちこちに敷いてあり、その先にはトロッコもある。
なるほど、ここは採掘場だ。
「ここにね、何人かのおじさんが石集めに来るんだよ。あっちに光が見えるでしょ? あれが洞窟の出口だよ」
「そうみたいだな。なぁ、タイガ、そのおじさんたちは、この道の奥に進んでいくことはあるのか?」
俺がそう尋ねると、虎タイガはブンブンと首を横に振った。
「ううん。おじさんたちは入り口の方で石を集めたら、すぐに船に乗せて帰っていくよ。だから、ボクはこの通路の影から時々その様子を見ていたんだ」
「そっか。まぁ、ここも一応完全に塞いでおくか」
「うん、そうだね」
成形錬金術で通路を塞ぐ。そのおじさんたちは悪さをしに来ているんじゃなさそうだけど、念のため、な。
そして、その広い空洞を抜けた先は――
タイガの言っていた通り、砂浜の広がる海岸になっていた。
「海だ!」
砂浜の向こうの方に簡易的な桟橋も見える。おじさんたちはあそこに船を停泊させるのか。
「よし、タイガ。おじさんたちが石集めに来るまで、ここで砂浜キャンプを楽しもう」
「うん!」
早速リュックの中から作りたてほやほやのテントや椅子などのキャンプ道具を取り出す。
広げたテントの中に、ゴロンと寝転がった。
ザザーンという静かな波の音に合わせて、潮の香りが漂ってくる。
なにものにも縛られない楽園みたいな、そんな感じだ。
おじさんたちがいつ来るのかも、ましてや来てくれるのかも分からない。
めちゃくちゃ怖い人たちかもしれないし、助けてもらえないかもしれない。
それでも、俺の心はこの海のように穏やかだった。
「砂浜キャンプもいいなぁ……」
「時間が、ゆっくりだね」
「そう、それな」
タイガが、俺の隣でゴロンと寝返りを打つ。
ザザーン……と、ゆっくり時が流れていった。
◇
――数日後。
タイガが耳をピクピクッと動かし、海の方を見る。
俺も釣られて海に視線を向けると、帆船がこちらに向かってきていた。
「船だ! 本当に船が来たぞ! よし、タイガ、急いでここを片付けるぞ」
「うん!」
広げていたキャンプ用品をせっせと片付け、リュックに収める。
そして、近付いてきた船に向かって「おーい!」と両手で手を振った。
すると、甲板に人が2人現れて、手を振り返してくれたのである。
その船はどんどんと近付いてきて、桟橋に停泊した。
「驚いた、漂流か!?」
「だ、大丈夫か!? 今そっちに行くぞ!」
おじさん2人が、慌てるように船を降りて駆けてきた――




