第6話 旅の最強リュック
あくる日。
旅のために、廃屋でカバンか何かを探していると――
タンスの一番下の大きめの引き出しから、とんでもない代物が顔を出したのである。
「おっ、このリュック、丈夫そうだし、なかなか使えそう――ん?」
俺が見つけた物はポケットのいくつも付いたリュック。その上から手記の切れ端のようなものが落ちた。
その切れ端を拾うと、イヴンの字でなにやらメモが残されていた。
『名も知らぬ旅人へ。このリュックはただのリュックではない。私の最高傑作だ。試しに調合鍋を入れてみてもらえれば分かる。きっと気に入ってもらえるだろう』
イヴン……なんでそんなワクワクする書き方するんだ。結構お茶目な人なんだな。
鑑定眼を調べると緑色の文字で錬金道具の『収縮リュック』と表示された。
俺に安全な錬金道具?
錬金道具は大抵黒で表示されていたから、ちょっと不思議だ。
まぁ、どっちにしても調合鍋は持っていこうと思っていたし、イヴンの言う通りにリュックの中に入れてみるか。
リュックの口を開いて床に置き、その中に調合鍋を入れてみた。
すると――
「は!? ちっさ!」
目の前の光景に思わずそう声が漏れる。
そう、直径20㎝ほどの調合鍋が、リュックの中では5㎝ほどに縮こまっていたのである。
「ちょ、なんで!?」
慌てて調合鍋を取り出してみると、リュックの口から外に出た途端に20㎝の大きさに戻った。
またすぐにリュックに突っ込むと5㎝に、取り出すと20㎝に。
それが面白くて、俺は何度も入れたり出したりしていた。
更に調合鍋を入れたままリュックを背負ってみても、ほとんど重さがない。
重みも収縮してるってことか!
「すげぇ! これはすごすぎる!」
まるで初めてランドセルを背負った小学1年生の子どもかのように、くるくると回る。
「レン? さっきから何独りでしゃべって――レン、何してるの……」
とぼとぼと廃屋の中に入ってきたタイガは、俺がリュックを背負ってはしゃいでいる姿を見て唖然としていた。
「ち、違うんだってタイガ。このリュックマジですげぇんだって」
俺がリュックのすごさを実演すると、タイガもすぐに「うわぁ、すごい!」と走り回っていた。
そして、タイガがぴょんとリュックの中に入る。
「えっ、あっ、タイガ……!」
タイガ、小さくなってるのか!? そんなことになって、大丈夫なのか!?
急に不安になりリュックの中を覗くと、タイガの大きさは変わることなくリュックの中でちょこんとお座りをしていた。
「ボクの大きさは変わらなかったよ……」
タイガはちょっと残念そうだ。すぐにリュックから飛び出てくると、その場で不満そうにゴロゴロと転がっていた。
ここで、俺はある結論へとたどり着く。
「そういえば、俺の手もリュックの中に入っていたのに、縮こまってないわ! そうか、生き物には反応しないようになってるんだ! おぉ、安全設計だ……!」
だから、鑑定眼で緑色だったんだ。俺に対しては反応しないから安全だよって、そういうことだな!
イヴン、あんた最高過ぎる……!
テンションの上がった俺は、収縮リュックに詰め込む前提で色んなものを用意した。
成形錬金術を使って、木材を変形させて収納棚を作った。
一番上に小さな引き出しを横並びで2つ。
その下に2段構えの大きな引き出しを2つ。
上の小さな引き出しの片方には薬品系を。もう片方には調味料を入れることに。
真ん中の引き出しには蒸留装置や調合鍋のような錬金道具を。
一番下の引き出しには調理道具をそれぞれ入れた。
収納棚の上には取っ手も付けた。
持ち上げてリュックの中に収めると、小さくすっぽりと収まった。
これで何か作業をしたい時はあの収納棚をつまみ出せば一発だ。
タイガも隣で興味津々に「うわぁ、便利になったー!」と盛り上がってくれている。
更に俺は、キャンプに欠かせない物――テントも成形錬金術で生成した。
よく見るピラミッド型のテントだ。
小川の近くに生えている『プルフ草』という草が水をはじくことが分かったので、その草と『鉄鉱石』を素材に作った。鉄鉱石は岩山の中に大量に落ちている。
ひねるだけで簡単に折りたためる設計に。ちゃんと地面に打ち込む杭も作ったぞ。
同じ素材を使って折り畳みの椅子も生成。鉄鉱石で折り畳みのテーブル。
「ふぅ……」
一息ついて、汗を拭う。
ちょっと魔力を使い過ぎたか。一旦休憩だな。
魔力を回復するには寝るのが一番だと気付き、タイガと一緒に昼寝をした。
◇
昼寝から目が覚めると、成形錬金術を再開した。
プルフ草と廃屋にあった毛布で寝袋を。更には七輪なんかも作ってみた。
大量にキャンプ道具を生成して有頂天になった俺は、思わずこう叫ぶ。
「錬金術、楽しすぎる!」
「うん! ボクも見ててワクワクするよ♪」
タイガもそう言って俺の周りを駆け回っていた。
ようやく作業を終えた俺は、リュックに作った物を詰め込んでいく。
そうそう、携帯女神像も忘れずに。
最後に、錬金道具の『マナ還元装置』という箱を入れた。
これはトイレに置かれていた、イヴン作の環境に優しい装置。
これのおかげで俺は今までトイレを使えていたらしい。
その大量の便利アイテムが、全て一つのリュックにすっぽりと収まってしまった。
「これで――完璧だ!」
綺麗に収まっているリュックの中を覗き、思わずニヤついてしまう俺。
「タイガ……明日、出発するぞ」
「! うん、冒険の始まりだ!」
◇
――翌朝。
俺は尊敬するイヴンのために、村の外れに小さな墓を作っていた。
タイガと2人で、その墓に別れの挨拶をする。
「イヴンさん、行ってきます」
「ボクを造ってくれて、ありがとね。ばいばい――」
――その時だった。
『……行ってらっしゃい。君たちの旅路に、明るい未来のあらんことを――』
「……え?」
今、俺の頭に直接声が――
「レン? 今なんか言った……?」
タイガが目をぱちくりとさせて、首を傾げる。
「いや、俺じゃなくて……」
あれは、イヴン?
ふわっと、柔らかな風が俺たちの頬をなでて、空へと舞い上がる。
思わずその風を追うように空を見上げる俺とタイガ。
――雲一つない、青空が広がっていた。




