第5話 木製のおしゃれセット
「手始めに何作るかな~」
「なになに? なんの話?」
「ん? 成形錬金術で、キャンプアイテムでも作ろうかと思ってな」
「そっか! 成形にチャレンジするんだね! じゃあ、イヴンの『錬金術師の腕輪』を借りよう!」
タイガは引き出しから『錬金術師の腕輪』というアイテムを引っ張り出す。
そんなタイガの尻尾は、嬉しそうにピンと立っていた。
まったく、楽しそうでなによりだ。成形にチャレンジするのは俺なのにな。
と、そういう俺もちょっとワクワクしているのは、タイガには内緒だ。
「レン。成形も分解も、この腕輪を付けてやるんだ♪」
「おう、ありがとな」
タイガから錬金術師の腕輪をもらう。
5センチくらいの幅があり、皮でできている重厚な作り。腕輪というよりは、リストバンドって感じだ。
そして、調合鍋と同じ魔法陣の模様が刻まれている。この魔法陣が、錬金術に必要な陣なんだろうな。
1つ調合鍋と違うところがあるとすれば、腕輪の魔法陣には上下の端にそれぞれ青色の宝石と黄色の宝石が埋め込まれているところだ。
このどちらを指先に向けて装着するかで、形を作るのか、それとも分解をするのかが、変わってくるんだ。
俺は『成形錬金術の基礎』という本で確認をしながら、青色の宝石を指先へと向けて腕輪を腕に通した。
成形錬金術とは、その名の通り、素材を別の形に変形させるもの。
さて、肝心の、何を作るか……。
ふと、スープを飲むときに使っていた『割れたお碗』が目に入る。
そうだ、あれ、陶器だしちょっと割れてるし、危ないと思ってたんだよな。
「木製の食器でも、作るか……!」
木製の食器なら構造や素材も単純だし、初めてにはぴったりだ。
まずは『木の皿』だな。
材料なら、薪が大量にある。
俺は早速薪を一本持ち出すと、作業台の上へと置いた。
「何ができるのかな~、わくわく♪」
どうやらタイガは『木製の食器』の意味を理解していないらしい。
まぁ、できてからのお楽しみだな。
『成形錬金術の基礎』を開く。タイガも本を覗き込むように、お座りをしていた。
成形錬金術に大事なのは、完成物をしっかりと〝想像する〟ことらしい。
腕輪に魔力を込める時に思い浮かべるんだ。
「とりあえず、やってみるか――」
「頑張って、レン!」
薪に両手をかざし、俺の想いを込めて腕輪に魔力を込める。
前にタイガに魔力の操作を手伝ってもらったからか、これに関しては自然にできた。
俺は皿が作りたい、木の皿、皿――
腕輪の魔法陣に埋め込まれている青色の宝石が光り、俺の手のひらから青色の魔力が溢れ出す。
それは薪を丸々包み込んでいくと、より一層強く光り輝いた。
「わぁ、いい感じ♪」
タイガが嬉しそうにぴょんと跳ねた。
青色の光にさえぎられて中の様子はぼんやりとしか分からないが、薪が少しだけ切り取られて形を整えていくのが分かる。
「おおぉぉぉ……!」
思わず感嘆の声を漏らしながらその光景を見守る。
やがて、光が収縮していくと、そこには――
――中央に『皿』の文字が刻み込まれた、木の板がたたずんでいた。
「んなっ!?」
「なんだ、これ……『皿』って、書いてあるなぁ……」
タイガはキョトンとそれを見つめていた。
いや、確かに俺は『皿』を作りたいとは思ったけど――
皿、皿って心の中で念仏みたいに唱えて――
え、想像って、そういうこと!?
「タイガ……想像をミスった……」
俺は、がっくしと項垂れた。
◇
気を取り直して、『皿』と書かれた木の板を使って、再チャレンジ。
初めての成形は、そうだけどそうじゃない形が出来上がってしまった。
でも、要領は掴めたはず。
皿って言葉を想像するんじゃなくて、実際に皿がどんなものかの形を想像するんだ。
再び魔力を送り込むと――
――今度こそ、20㎝ほどの木の皿が出来上がったのである。
「っしゃぁ、できたぞ! 木の皿だ!」
俺はできたてほやほやの木の皿を高く掲げた。
端は少しだけカーブさせたから、汁物も零れない……!
木だから多少水分が染みるかもしれないけど、ひとまずはこれで十分だろう。
「わぁ、それ、何に使うの?」
「これはな、焼いた魚とかを乗せるものだ。人はこの皿ってやつに食べ物を置いて、食べるんだぞ。スープを飲むときに使っていたのも、これの仲間の『お碗』だ。食べるときに使うもののことを、食器っていうんだ」
「そっか! 木でできた食器だから、木製の食器! ボクまた覚えちゃった♪」
タイガは嬉しそうに足踏みをする。
俺は錬金術を。
タイガは人のことをどんどんと覚えていく。
一緒に成長している感じがして、なんかいい。
調子に乗った俺は、残った薪を使ってスプーンやフォーク、そしてお椀やまな板なんかも作った。
木製のおしゃれセットの完成だ。
「ふぅ……」
気付けばめちゃくちゃ疲れていて、汗を拭う。
「すごーい、たくさん作ったね♪ レン、疲れちゃった?」
「そうなんだよ。全然動いてないのにな」
「それ、錬金術をするのに魔力を使ったからだよ」
タイガに言われてハッとする。
そう言えば、タイガも虎タイガになると魔力を消費するから疲れるって言ってたっけ。
「なるほどな。こりゃ、確かに魔力を消費するのは疲れるわ。少しずつ、やんないとだな」
「うん。魔力が空っぽになって倒れちゃったら大変」
◇
一旦昼寝をした俺は、廃村の端である実を採取した。
その実を廃村に持ち帰り、調合鍋へと投入する。
念のため、『錬金調合書』でレシピを確認。
大丈夫だ、できるはず。
そして、調合できたのは――
「なぁ、レン。それ何を調合したんだ?」
「ふふん――『コショウ』だ」
『コショウの実』を調合すると『コショウ』ができる。
これで、塩とコショウが揃った。
◇
――日も暮れた頃。
作りたての木製食器に、塩コショウでパワーアップした焼き魚やスープを入れる。
それはもちろん――
「うま~っ! 別の料理になった!」
「美味い! コショウってすごい!」
――もちろん、美味いに決まっている。




