第37話 秘境キャンプへ向けて
キルウェンに滞在して数日が経った頃。
エルフの里から連絡があった。
妖精の聖域が、かつての姿を取り戻したらしい。
そのため俺たちは、今日のうちにキャンプの準備をして、明日の朝にエルフの里へと向かうこととなった。
――キルウェンの宿の一室にて。
錬金分解でブドウを実と種に分けていると、側でコーヒーを飲んでいたシエラが口を開いた。
「ふむ。なるほどのう。お主、なぜ自分がそんなに疲れておるか、分かるか?」
「えっ……?」
確かに、ブドウの中から種を取り出しているだけなのに、ちょっと息切れしていた。
でもそれは、魔力を使っているから仕方のないことなんじゃないか――
「……お主は、何をするにも魔力を使い過ぎておるのじゃ」
「……そーなの!?」
魔力の量って、コントロールできるのか……!?
「魔力は使わないと、使えないよ?」
タイガはブドウジュースをゴクゴクと飲みながら言った。
そうか、タイガにも魔力の量をコントロールするなんて概念はなかったんだ。
「よいか? タイガにも分かりやすく説明をするぞ」
シエラはそう言って、手のひらに小さな魔力の塊を出した。
ピンポン玉くらいの小ささだ。
「今、レンがやっておった、ブドウの実と種を分解する作業じゃが、必要な魔力量はおそらくこの程度じゃ」
俺たちは「ふんふん」と相槌を打つ。
「……しかし、レンが今実際に使った魔力の量は――このくらいじゃ」
小さかった魔力の塊が、ボンッと大きくなる。
――それは、この部屋を埋め尽くさんとするほどの大きさだった。
「……マジか」
目を見開き、呆然とする。
その大きな大きな魔力の塊に釘付けになっていた。
俺、今まで……そんな燃費の悪いことをしていたんだな。
そりゃ、疲れるわ……。
◇
それから俺は、シエラに魔力の出力を抑える方法を教えてもらった。
全く、俺はいつまでたっても、この世界の人たちに助けられてばかりだ。
でも、それは、この世界の人たちの温かさを知るいい機会だとも、今は思う。
しばらくして、俺は爆速でブドウの実と種を分けることができるようになっていた。
ポン、ポンと、ブドウの実から種が飛び出してくる。
「おぉ、上出来ではないか。出力を必要な程度に抑えた分、分解速度も速くなったのう」
シエラはそう言って「ほっほっほ」と笑った。
「ありがとう、シエラ。なんか――世界が変わった気がする……」
「お主はまだまだ伸びしろがある。錬金術師としての成長が楽しみじゃのう」
こうして、魔力の制御を覚えた俺は、明日のキャンプへ向けての準備を進めた。
ブドウの種は『シードオイル』というサラダ油への調合ができた。
実はフェアリーブドウ酒。いわゆる赤ワインだ。
更には成形錬金術で、肉塊をクルクル回しながら焼く、肉焼き器。
これでタイガの念願も叶う。
小さな石窯に、折りたためるウッドデッキ。
自立型のハンモック。
他にも色んな調理道具を作ることができた。
――翌日。
市場で買い物を済ませた俺たちは、エルフの里へと向かった。




