第38話 妖精の聖域キャンプ
エルフの里に着くと、以前来た時とは雰囲気が違った。
「あれ、なんか……ホタルみたいなのが飛んでるな……?」
里を見渡すと、3つ4つ、ホタルみたいなのがふわふわ飛んでいる。
「ホタル? あぁ、小妖精のことじゃな。良かった、里にも小妖精が戻ってきたのであれば、妖精の聖域はもっとすごいぞ」
「あれが小妖精か……! 綺麗だな」
それがたくさん飛んでいるとなると……俺は、ワクワクした。
里のみんなに挨拶をしながら、里を抜けて妖精の聖域へと向かう。
以前は魔物が出ていて草木が枯れていた道も、今はほんのり輝く草木で溢れかえっていた。
「すげぇ、枯れてたやつ、元気になってる……」
「クンクン……これ、全部魔草なのか? 良い匂いの魔力がする」
タイガはそう言って、あちこちの光る草の匂いを嗅いで回っていた。
良い匂いの魔力ってなんだ……。
「そうじゃ。光っておるのは全部、聖なる魔力を宿した魔草じゃ。エルフの秘薬の原材料にもなっておるな」
「なるほど、すげぇ……」
草木は光り、ふわふわと浮かぶ小妖精もだんだんと数が増えてくる。
道を抜けた先には――
「「うわぁ……」」
光る聖なる泉を中心に小妖精が飛び交い、草木から放たれる幻想的な魔力に包まれた空間が広がっていた。
「みゃぁ♪」
「きゅぅ♪」
神獣たちが泉から顔を出し、甘えた声で鳴いている。
数日ぶりだけど、俺とタイガのこと、覚えていてくれたんだ。
「お前ら~、すっかり元気になって。良かったなぁ」
「あはは、くすぐったいよ~」
猫の神獣がタイガの頬をペロペロと舐める。
まるで猫同士が毛づくろいをし合っているようだ。
「そうだ、お前らにお土産だぞ」
フェアリーブドウを取り出して、一粒ずつあげると、元気な神獣たちが我先にとブドウを食べにきた。
「今日は、ここでキャンプをさせてもらうからな。1日よろしくな」
「みゃぁ、みゃぁ~♪」
神獣たちが興味津々に見守る中、俺たちの聖なる泉キャンプが始まった。
◇
この時のために新たに作った折り畳みのウッドデッキを展開。
ちょうどテントとハンモックを置けるくらいの大きさだ。
ウッドデッキの前に、テーブルや作業台を置いた。
焚き火は、シエラとタイガの仕事だ。
「よし、細い順に積めたから、次は火をつけるよ」
「それは任せるのじゃぁ♪」
シエラが指先を薪へ近づけると、薪の中心にボッと火がついた。
「急いで、ふーってするんだよ!」
「うむ!」
2人が火種に息を吹きかけると、立派な焚き火の完成。
一緒に「やったね!」「やったのう♪」と喜んでいる姿に、なんだか癒される。
それから2人は、肉焼き器でグレン豚の肉塊を焼き始めた。
俺の方は、料理を進めていた。
大きめのサイコロに切ったグレン豚をしっかりと焼いて、鍋へ。
にんじんや玉ねぎ、ハーブを数種類。
更に自家製のフェアリーブドウ酒やデミグラスソース。
時短要員の隠し味であるグルム草などを鍋に投入し、コトコトと煮込む。
これで、あとは待つだけで『グレン豚のシチュー』の完成だ。
――するとここで、タイガに限界が訪れる。
「うわぁぁっ! まだできないの!? 早く食べたい!」
なるほど、肉の焼ける匂いや、シチューのコクのある香りに我慢の限界なのか。
タイガは、そこら中を駆け回った果てに、ウッドデッキの上で駄々をこねるようにゴロゴロしていた。
「ほほぅ。そうやって身体を動かしたり、叫んだりすることによって、食欲を紛らわせておるのか」
シエラは興味津々にタイガを観察する。
そういえば、シエラは研究者だったか。
やがて、タイガを観察していたシエラも、タイガの隣に寝転がってゴロゴロし始めた。
「早く食べたいのじゃ~! ワシは腹が減ったのじゃ~!」
「あはは。一緒にやると楽しいね♪」
「うむ。空腹も紛れて〝一魔石二グレン鶏〟じゃ♪」
一見カオスな状況に見えたが、こうも見える。
――シエラは、タイガと同じ目線で物事を見ることができるんだ。
タイガと、いい友だちになってくれそうだ。
俺は、そんな2人に、搾りたてのフェアリーブドウジュースを差し入れした。
「ほら、これ飲んで、次はパンを焼くのを手伝ってくれ」
「わーい♪ ブドウジュース!」
「やったのじゃ。駄々をこねたかいがあったのじゃ♪」
2人は、ハンモックの上でゆらゆらと揺れながらブドウジュースを堪能していた。
その後は、肉焼き器のグレン豚の焼き加減を見つつ、みんなでパン作り。
やがて、石窯の中からバターの良い匂いのするバターロールが顔を出した。
「よし、完成だ――」
切り分けられたグレン豚のロースト。シチューに焼きたてのパン。
テーブルの上に並べていく。
タイガはフェアリーブドウジュースで、俺とシエラはフェアリーブドウ酒で乾杯をした。
コツンと木のカップがぶつかると、森や小妖精たちが一層輝きを増した。
「うわぁ、急に光り出した!」
「すげぇ、綺麗だ……」
「皆、森の恩人であるお主に感謝しておるのじゃ。ほれ、神獣たちも踊り始めたぞ」
「みゃぁ、みゃぁ♪」
聖なる泉の中の神獣たちが、くるくると泳ぎ回り、次々に水面に飛び上がる。
弧を描くような綺麗なジャンプに、思わず「すげぇ!」と声が出る。
まるで、幻想的な水中ショーでも見ているかのようだ。
身体中がじわじわと熱くなる。
間違いなく、今までで一番印象に残ったキャンプとなった。




