第36話 エルフの魔道士
――翌日。
シエラとタイガと共に、冒険者ギルドを訪れた。
ギルドの建物内は、こんな会話で持ちきりだった。
「あのずっと出されてた緊急依頼、ついに達成されたんだって」
「昨日だろ? 知ってる、知ってる。たった一人の冒険者が解決したって話だぞ」
「えっ、私は、薬師と魔道士の2人組だって聞いたけど――」
「なんかデカい前衛もいるって――」
「ほっほっほ。お主が名乗らんせいで、皆、言いたい放題じゃな」
シエラが呑気に笑う。
俺は、小さくため息をついた。
「いいよ。好きなように言わせておこう。別に、悪口じゃないっぽいし。さて、今日は思いっきり依頼をするぞ。どれにするかな――」
壁一面の依頼書を眺める。
タイガが「あっ」と声を上げた。
「レン、見てみて! あそこ、グレン豚って書いてある!」
「ホントだ。『害獣グレン豚の討伐依頼』って――昨日食ったあの豚、害獣だったのか……」
「うむ……。大きな牙が生えておって、気性が荒く、一直線に突進してくるのじゃ。農園や果樹園なんかが、被害を受けておる。恐らく、討伐依頼は一件ではないはずじゃ。冒険者にかなり助けてもらっておると聞く」
シエラにそう教えてもらって、再度壁の依頼書を見渡すと、確かにグレン豚の討伐依頼がいくつもあった。
いや、まるでイノシシだな……。味は豚や牛っぽかったけどな。
どれも、雷や炎の魔法は禁止。毒の武器の使用も禁止されていた。
――食うからだろ、これ。
「……なら、グレン豚の討伐依頼、やるか」
俺は、ブドウ園からの討伐依頼を壁から外した。
報酬のフェアリーブドウに目がくらんだのは、内緒だ。
昨日、冒険者ギルドには酒場の後に立ち寄った。
そこで緊急依頼の報告を済ませて、シエラの冒険者登録もしたんだ。
そのため、シエラも見習いの冒険者。
グレン豚は魔物ではないため、見習いでも依頼を受けることができる。
俺とシエラは臨時でパーティを組み、『害獣グレン豚の討伐依頼』を受注した。
◇
――フェアリー果樹園にて。
ブドウ園を囲う柵が壊され、一番端のブドウの木幹が大きくえぐれていた。
いくつかのブドウの房が落ちてしまい、実はつぶれてしまっていた。
「シエラちゃんが依頼を受けてくれたのか! これは心強い」
依頼人のおじさんが、嬉しそうに出迎えてくれた。
「うむ。冒険者デビューの初依頼なのじゃ♪」
シエラはやる気満々だ。
一方で俺とタイガは、その被害の悲惨さに圧倒されていた。
「うわぁ、ブドウが、もったいない……。ジャムにしたら、とっても美味しいのに……」
タイガは瞳をうるうるとさせながら残念そうに言った。
「おやおや、可愛い使い魔君だね。フェアリーブドウは好きかい?」
「うん、ボク、フェアリーブドウジャム好き!」
タイガはニコッと笑って答えた。
今朝のロールパンに昨日買ったジャムをつけてやったら、めちゃくちゃ美味そうに食ってたんだよな。
おじさんは、満足そうにうんうんとうなずく。
「……グレン豚って、ブドウを食うために果樹園を襲うんじゃないんですね……」
俺は、地面でつぶれているブドウの実を見てそう尋ねる。
だって、食うためだったら、つぶさないで食ってくよな……。
「そうなんだよ。せめて、食べて、美味しかったって感想を言っていけって、感じだろう?」
そう言ってプンプンと怒るおじさんに、俺は「あはは……」と苦笑した。
おじさんに、グレン豚のすみかを案内してもらう。
すると、木々にドンドンと突進しまくっているグレン豚の群れを見つけた。
全部で10頭くらいだろうか。
ブヒブヒと怒りながら、あっちこっちの木を傷つけている。
こりゃ、イノシシもびっくりの暴れっぷりだな……。
「あいつらだよ! あいつらが最近うちの果樹園まで突進範囲を広げているやつらだ」
「了解じゃ。レン、タイガよ。ここはワシに任せてくれ」
シエラはそう言って一歩前に出ると、魔法杖を構えた。
「おう。頼んだ!」
「シエラ、頑張って!」
どこからともなく風が吹き、シエラの身体がふわっと浮き上がる。
思わず「おぉ……」と声が漏れた。
そよ風の魔法を使った時とは、明らかに雰囲気が違う。
シエラは杖の前に魔法陣を描き、こう唱えた。
「――アイスレイン……!」
ヒヤッと身体に刺さるかのような冷たい冷気が、辺り一帯を覆う。
次の瞬間――
――グレン豚の群れに、大量の氷塊が降り注いだのである。
ドンッ、ガンッと、鈍い音が聞こえてくる。
「わわわ、マジか……」
次々に倒れているグレン豚。
ものの数秒で、討伐を終えてしまった。
これが、エルフの魔道士か……!
「完了じゃぁ。冷やしておいたゆえ、鮮度も抜群じゃて」
シエラは、そう言って無邪気に微笑んだ。
その後、俺はその辺に転がっていた木片で、即席で荷車を錬金。
大量のグレン豚を積んで、果樹園へと帰るのであった。
◇
他にも色んな依頼をこなし、あっという間に日が暮れる。
初めに依頼を受けていた果樹園の晩飯に招待されていたので、再び果樹園に向かうと――
――炭の良い匂いが漂ってきた。
「あーっ、バーベキューしてる!」
焚き火の上でじっくり焼かれている肉塊が見えて、タイガが嬉しそうに駆けていった。
その日、報酬のフェアリーブドウをもらうだけではなく、討伐したグレン豚のBBQまでごちそうになったのであった。




