第35話 絶品ほろほろ煮込み
「あら、シエラちゃん。いらっしゃい。今日はお友だちを連れてきたんだねぇ」
酒場『妖精の隠れ家』に入って出迎えてくれたのは、小さなドワーフのおばちゃんだった。
「ジーナ、今日も来てしまったのじゃ。こっちは冒険者のレンとタイガじゃ。こやつらの腹を満たしてやってほしいのじゃ」
俺たちはジーナに案内されて、窓際のテーブルに着いた。
酒場というよりは――森の中にたたずむ、のどかな古民家カフェと言ったところか。
バターや香草のやさしい香りが充満している。
4時なんて食事時ではないのに、ちらほらと席が埋まっていた。
「ここは食事時に来ると、かなり待つからのう。あえてちょっと避けてくるのがおすすめじゃ。ほれ、メニューじゃよ」
「なるほどな。おっ、ありがとう」
「レン、ボクも見たい!」
タイガと一緒にメニューを覗き込む。
ほほう。シチューや煮込み系の料理が多いのか。
がっつり肉系もあるな。
ヴェルーナとは完全に方向性が違って、こっちはこっちで美味そうだ。
「数人で食べる時には、何品か頼んで、みんなで取り分けて食べるのがキルウェン流じゃな。ワシは全メニュー好きじゃて、なんでも良いぞ」
「マジか……! じゃあ――」
メニューを頼んで、なんやかんやと話しながら料理を待った。
「そうじゃのう。宿屋は何軒かあるが……ここの2軒隣がおすすめかのう」
「そっか。んじゃ、今日はそこに泊まるよ。今日はギルドで緊急依頼の報告だけして、他の依頼は明日やるかな」
◇
「はい、お待たせしました――」
しばらくして、ジーナがワゴンを引いて料理を持ってきてくれた。
店内を充満していた美味そうな香りが、より一層強くなる。
「まずはこちら、『グレン豚の炭火ロースト』です」
ゲームとかでみるような肉の塊がドンッと出てきて、思わず「おぉ……!」と声が漏れる。
表面がこんがりと色づき、滴る肉汁が空腹を刺激した。
「こっちは『グレン豚のシチュー』ね」
次にジーナがテーブルに置いたのは、深めの器にたっぷりと注がれたシチュー。
ビーフシチューのように、茶色のルーだ。
置かれる時にとろっと揺れて、表面のゆげがふわっと上がった。
大きめの肉や野菜がゴロゴロ入っている。
ジーナは最後に、もう一皿置いた。
「これが最後、『グレン鶏のキルウェン芋の煮込み』ね」
シチューとは違い、明るい色合いの煮汁に、ほくほくとした芋と鶏肉が浸っていた。
こっちは見た目『肉じゃが』だが、バターと香草の香りが鼻をくすぐった。
店内の匂いの正体はこれか――
「ご注文はこれで全部だね? ごゆっくりどうぞ」
ジーナは最後に取り皿を置いて、厨房へと戻っていった。
「うーむ。実はワシもはらぺこじゃ。好きに取って食おうぞ」
「だな! タイガ取ってやるよ。どれがいい?」
「ボクはね、まずこのでっかいお肉食べたい――」
料理を取り分けると、みんなで手を合わせた。
「森の恵みに感謝して、いただきます――」
噛めばジワッと滲み出てくる炭火ローストの肉。
一方でシチューの肉は、口に入れた瞬間に溶けてしまいそうなほどにほろほろだった。
ルーも、深みがあって濃厚な味わい。
鶏と芋の煮込みは、バターのコクが隅々まで浸透していて、こっちも絶品だった。
どこか家庭的で、優しい味わいだ。
「うっま……」
何度も勝手に口から出てくる、美味いという言葉。
「レン! このでっかい肉、キャンプで絶対やろ! ボク、今度はひとりで塊全部食べたい!」
「ほっほっほ。タイガは小さな身体で、食いしん坊なのじゃな」
家庭的で温かな食卓だった。
レシピ、売ってるかな――




