第33話 報酬
エルフの里にある里長の家で、大ばば様が口を開く。
「レンさん。改めまして、聖なる泉の毒を浄化してくださり、ありがとうございました。キルウェンの冒険者ギルドに提出した『聖なる泉の浄化』の緊急依頼ですが、今ここに達成されたことを、サインしました」
大ばば様が、依頼人のところに直筆のサインをくれた。
俺はそれを確認すると、「ありがとうございます」と言って依頼書を受け取った。
「それで、その……報酬なのですが――本当に、こんなことでよろしかったのでしょうか……? わたくしどもも、少しであれば金銭の蓄えもあります。せめて、そちらもお付けした方が――」
そう言いかけた大ばば様に、俺は大きく反対の意を示した。
「良いんです。俺は金を稼いで贅沢がしたいんじゃありません。ポワゾン討伐でも、里の資金をかなり使ってしまったと聞いています。更にその後に、お金は受け取れません。それに――本来、妖精の聖域は、この里の者以外が勝手に入ってはいけないんですよね?」
「まぁ、シエラ、余計なことを話しましたね……」
大ばば様がシエラにチラッと視線を送ると、シエラは「こやつが聞き上手じゃったゆえ、ついのう……」と苦い顔をしていた。
大ばば様ははぁっとため息をつき、こう続けた。
「そうですね。レンさんの言う通り、普段は里の者のみで管理しておりますので、他の方は許可なく妖精の聖域へ立ち入ることはできません」
「でしたら、この報酬は妥当だと思います――本来の姿に戻った妖精の聖域の、一日貸し切り権。俺とタイガにとって、めちゃくちゃ価値のある報酬です」
俺は自信を持って、そう言い切った。
タイガも嬉しそうにこう続く。
「そうだよ! あの泉って、本当はすごく綺麗なんだろ? ボクたち、綺麗なところでキャンプしまくる旅してるんだ!」
「大ばば様。どうやらこやつらの旅の目的と合致しておるようじゃし、ワシはこやつらの提案に甘えてしまっても良いと思うが……」
そう言うシエラに、俺とタイガもうんうんとうなずいた。
大ばば様は、優しく微笑む。
「……分かりました。レンさん、本当にありがとうございます。緊急依頼のギルドへの報告はいつでも構いませんが、妖精の聖域が本来の姿を取り戻すのは、数日先になるかと思います。なにとぞ、ご了承ください」
「分かりました。それなら、妖精の聖域が元に戻るまで、キルウェンで他の依頼でも探すか」
タイガも「そうだな」と相槌を打つ。
すると、シエラがこう提案してきた。
「それなら、ワシがキルウェンの町を案内しよう。あの報酬で納得してくれたお主たちへの、せめてものお礼じゃ。依頼だってワシに力になれることがあれば手伝うぞ」
「マジか。案内は助かるな……。それに、魔道士がいれば、普段引き受けられない依頼も受けられそうだ」
「うむ。決定じゃな。思い切ってワシも冒険者登録をするとしよう」
「シエラ。あなた、本当は、冒険者登録をしたいだけなのではないですか……?」
大ばば様が冷ややかな視線を送ると、シエラは「ぐぬぬ、そ、それは……!」と視線を泳がせた。
「ははは。シエラが冒険者ギルドに興味があるなら、俺らもちょうどいいよ。ちょっとだけ先輩だから、色々教えてやれるし」
こうして、泉の浄化を無事終えた俺たちは、報酬を受け取るまでの間、キルウェンの町で過ごすこととなった。
俺とシエラは、虎になったタイガにまたがると、キルウェンの町を目指して全力疾走した。
「あははっ! タイガ、すごいのう、速いのう! このまま直進じゃ、進めー!」
「おっけー♪」
「ちょ、木、ぶつかるって! ぎゃあぁぁっ! そんな全力疾走しなくたっていいだろ!? もっとゆっくり行ってくれ~……」
森の中に開けた町が見えてくる頃。
俺は一歩も歩いていないのに、なぜか疲れ切っていた。




