第3話 秘境キャンプと決意
「ここ、坑道になってんのか……」
ランタンに火を灯して辺りを確認してみると、整備された洞窟が続いていた。
そりゃそうか、錬金術師たちもあの閉鎖的な空間にこもりっきりではなくて、この坑道を使って向こう側と行き来してたってことだな。
岩壁に設置してある松明にランタンの火を分けて、坑道内を明るくしていきながら進んでいく。
すると、奥の方から「キューッ!」という鳴き声が聞こえてきて、緑色で楕円形のぷるんぷるんの何かが飛び出してきた。
目は赤黒く光り、今にも襲い掛かってきそうだ。
「げっ、なんだコイツ!?」
すぐに鑑定眼でチェックしてみると、赤色で『スライム』と表示された。
すると、タイガが俺の前に躍り出る。
「大丈夫。魔物はボクに任せて」
魔物!
この世界には、魔物が出るのか……。
タイガの身体が光り出し、みるみるうちに大きくなっていく。
「え、ちょ、タイガさん!?」
俺よりも大きくなったタイガは、完全に〝虎〟だった。
「えーい」
虎タイガは幼児声のままじゃれるようにスライムをひっかく。
ブンッとものすごい風圧を感じ、ただのひっかきなのにすさまじい威力なのが伝わってくる。
「キュー……」
簡単に吹っ飛ばされたスライムは、壁に打ち付けられると同時に黒い霧となって消えた。
スライムの消滅した真下には、黒い文字で『スライムゼリー』と表示される、ぷるんぷるんの何かが落ちていた。
「あっ、素材落ちたね。錬金術に使えるかもだし、拾っとく? って、レン、どうしたの?」
ぽかーんと口を開けて固まっていた俺は、その虎タイガの一言で我に返った。
「おまっ、タイガ、めちゃくちゃつえーじゃねぇか! すげぇな!」
俺が興奮気味にそう言うと、タイガは得意げにふふんと鼻を鳴らした。
「ボク、守護獣だって言ったでしょ? 人を魔物から守るのが、ボクの役目だからね♪」
そうか、タイガは魔物から人を守るために錬金術師に造られたのか。
そして、村の中で虎サイズにならなかったのは『虎の間は魔力を消費して疲れるから』だそうだ。
村の中では全く遭遇しなかったのに、この坑道にはわんさか魔物が出る。
村には魔物が出ないための何か仕掛けがあったのだろうか?
◇
気を取り直して坑道を進んでいくと、数分で開けた空洞へと出た。
「ここ、ボクのお気に入りの場所なんだ♪」
「うわっ、地底湖か……! 綺麗だ……」
開けた空洞の奥には、ほんのりと青く光る湖が広がっていた。
ここなら、ランタンがなくても暗くない。なるほど、湖の上だけ吹き抜けになって空が見えてんのか。
「な? 綺麗だろ?」
得意げな虎タイガ。俺は大きくうなずいた。
「おう、めっちゃ綺麗だ」
ここで俺はある名案を思い付く。
「そうだ、タイガ。今日はここでキャンプしようぜ!」
「キャンプって、焚き火したりってことだよな! うん、やりたい! あっ、でも魔物が出るよ……ボクずっとこのままは疲れるかも……」
「あっ、そうか……」
ここも、村みたいに安全にはできないものか……。
――そうだ!
「タイガ、村はさ、あの女神像が魔物除けになってくれてんじゃないか?」
「女神像……広場のやつか! なんか微妙に魔力を感じてたし、そうかも!」
「よし、一旦村に戻ってキャンプの準備だ」
「えっ、あの女神像をここまで運んでくるの!?」
「違う違う、俺に考えがある」
俺たちは急いで村へと引き返す。村に戻ると、虎タイガは子猫タイガへと戻っていた。
俺はいつも使わせてもらっている廃屋に駆け込むと、タンスの引き出しをあちこち開けた。
「あった、これだ!」
引き出しの中から、ミニマムサイズの女神像を取り出した。
これは『携帯女神像』らしい。こんなところにも女神像があるなって、不思議に思ってたんだよな。
「わぁ、ちっちゃい女神像だ♪」
タイガが嬉しそうに飛び跳ねる。
そして、キャンプに必要な道具を持って、再び坑道の地底湖へ。
携帯女神像を地底湖の側に置くと、像から淡い光が放たれて魔物が近くに寄り付かなくなった。
「やっぱりか! あの村は女神像に守られていたんだな」
「そーだったのか! 女神様が、ボクたちを守ってくれていたのかぁ」
それに、携帯女神像の使い方も把握した。
持ち歩いても効果はなくて、地面に置くとそれを中心とした数メートルの範囲が守られるって感じだ。
俺たちは早速火を起こしたり、魚を捕まえたり、鍋の準備をしたりとテキパキとキャンプの準備を進めた。
そして、地底湖に月の光が差し込む頃――
俺とタイガは幻想的に輝く地底湖を眺めながら、焼き魚とスープを堪能していた。
「綺麗なところで食べると、美味いものがもっと美味くなるね!」
タイガはそう言ってガツガツと魚にかぶりついていた。
「あぁ、本当にな……」
――もしかして、この世界には他にもこんなに綺麗な、秘境と呼べるところがあるのか……?
そんなことが俺の脳内に思い浮かぶ。
――その時だった。
『……んさま。……れん様。早川蓮様』
「うわっ、なんだ!? 誰だ!?」
「なんだ、なんだ?」
突然聞こえた女性の声に、俺もタイガもキョロキョロと辺りを見回す。
その声は、女神像から聞こえているような気がした。
『あなたをそちらへ転送した女神です。特例として、この携帯女神像を通じてあなたへ語り掛けています』
「あっ、あの時の……!」
「おぉ、本物の女神様だぁ♪」
『この度は、勇者召喚に巻き込んでしまい、本当に申し訳ありませんでした。前の世界では一旦は死亡処理をさせていただきました。ですが、今回はこちらのミスということで、もう一度日本に転生してもよい、という判断になりました』
「……マジ?」
『もちろんこの世界に残るか、日本に生まれ直すかは早川蓮様の自由です。いかがなさいますか?』
俺は、目を閉じて今までの生活を振り返った。
タイガに起こされて、生き残るために必死に魚を焼いて、錬金術をやってみて――
日本ではキャンプ動画を見たり、ゲームも色々やってきた。
サバイバルゲームが一番好きだったけど、RPGも大好きだ。
その経験もあって、魔力だとか錬金術だとかって単語がスッと頭の中に入ってきた。
それに、キャンプ動画を見ていなきゃ、魚を焼くことだってできなかったと思う。
空っぽだと思っていた俺の28年間は、この世界では決して無駄ではなかった。
――俺は、この世界で錬金術師として生きていきたい。
そして、タイガと一緒に世界中の秘境を巡って――
最後に思い浮かんだのは、俺の家の、冷たく光る蛍光灯だった。
さようなら、今までの俺。
ゆっくりと目を開け、静かにこう言った。
「女神さん、俺は――この世界で生きていくよ」
俺のその言葉に、女神の微笑む声が聞こえてきた。
『ふふっ。早川蓮様、転送前よりも、生き生きとした表情をされていますね。承知致しました。それでは、女神の加護があらんことを――』
女神像からの声は、静かに消えていった。
「レ、レン! この世界に、残ってくれたのか……!?」
タイガの表情が、パーッと明るくなっていく。
もしかして、俺があっちの世界に帰っちゃうかもって心配してくれていたのか?
「おうよ。それでな、タイガ。一つ提案があるんだ」
「なぁに?」
「俺と一緒にここを出て、世界中のこういう綺麗な場所……秘境を探し出して、一緒にキャンプしよう」
「わぁ、面白そう……! うん、ボク、レンと一緒に行きたい!」
「よし、決まりだ!」
そうと決まれば、本格的に廃村を出る準備をしないといけないな。
それに、今はまだ調合の錬金術しかできないから、成形くらいはできるようになっておきたいかも。
魔王を倒したり、国を救ったり――俺にはそんな大層な使命はない。
これは、俺とタイガが最高の景色で、最高の飯を食うために、世界中を旅する物語だ――




