第29話 魔力の性質
『妖精の聖域』の現状を確認するため、俺とタイガはシエラと共に『エルフの里』へと向かうことになった。
――その道中で。
「シエラ、錬金術を知ってるんだな。今までそんな人に会ったのは初めてだ」
「ね、ギルドの『職業辞典』にも載ってなかったのにね!」
タイガが嬉しそうに言う。
タイガは錬金術が大好きだもんな。知っている人がいて嬉しいんだ。
「いや、実際に使えるわけではないぞ。何百年も前に錬金術という文明があったと、大ばば様から聞いただけじゃ」
何百年も前に――
そうか……やっぱりな。
やっぱり、あの400年前に滅んだ廃村が、最後の錬金術の文明――
「大ばば様ってのは?」
「大ばば様は、エルフの里の里長。もう2000年以上生きておる、長老じゃ」
「2000年!? マジか……!」
きっと、すっげぇヨボヨボのおばあさんなんだろうな……。
勝手にそんな想像をする。
っていうか、さっきからめっちゃ視線を感じる。
シエラが、興味津々に俺の全身を眺めていた。
なんか、恥ずかしいな……。
まるで、何かを見透かされているかのような――
「なるほどのう。レンの魔力は、同じ人間族とも少々性質が異なるようじゃ。うむ、実に興味深いのう♪」
「えっ、そうなの!?」
そうか、何かを見透かされている気がしたのは、魔力を見られていたからなのか。
「うむ。もう1つ興味深いことがある。タイガの魔力の性質ともよく似ておるのじゃよ。もしや、タイガは――お主が……?」
タイガは俺が造ったのかって、聞きたいんだな。
普通、そんな発想にならない。
みんな、タイガのことは使い魔――つまり、人に友好的な魔物だと思っているから。
シエラは、他とは違う。
彼女なら、俺の話を理解してくれるんじゃないかと思った。
「いや、タイガを造ったのは、イヴンっていう錬金術師だ。実は――」
俺は、この世界に転移をしてからのことを、全てをシエラに話した。
彼女は戸惑うことなく、興味津々に耳を傾けてくれた。
◇
「……そうであったか。面白い体験をしてきたではないか。うらやましいのう」
シエラは「ふふっ」と微笑んだ。どこか、寂しそうな気もする。
「シエラは、ずっとこの森にいたんだったな……?」
「そうじゃ。グレンティナのエルフは、森と共に生きるからのう」
掟か何かだろうか。森と共存している感じがして聞こえはいいけど、実際は退屈そうにも思える。
「シエラは、魔道士なのか? 杖を持ってるし……」
「うむ、そうじゃ。研究者という方が近いか。生まれてこの方、ずっと魔法の研究を続けておる」
「ええ、マジか。すげぇ……。だったら、シエラが錬金術をやった方が、俺よりもすごいものができそうだな」
魔法の研究者ってことは、魔力の扱いにも長けていそうだ。
だったら、錬金術だって――
しかし、シエラは首を横に振った。
「いや。ワシらエルフは、錬金術を使うことはできん。大ばば様も、大昔の錬金術師から教わったそうじゃが、習得することはできなんだそうじゃ。人間族だって、誰でもできた訳ではないじゃろう。魔法と一緒じゃ」
「そう、なのか……! そうか、魔法だって、誰だって使えるんじゃないんだな」
そういえば、冒険者の酒場でも、魔道士の需要が高かったような気がする……。
俺みたいな、人とは少し違う魔力の人しか錬金術を使えなかったとしたら――
できる人が少なくて、後継者が減ってきて廃れていった。
そんなところだろうか。
「うむ。レンじゃから、習得できたのであろう。落ち着いたら、一度ゆっくり錬金術を見てみたいものじゃ」
「あのね、レンの錬金術はすごいんだよ! シエラもきっと、すごーいって言うよ!」
タイガはそう言って、俺たちの周りを嬉しそうに回った。
それに釣られてシエラも微笑む。
「ほっほっほ。それは楽しみじゃのう」
「あ、レン、見てみて! お家が見えてきた!」
タイガに言われて前を向くと、木造の小屋の並ぶ集落が見えた。
里の中を歩くエルフの女性がこちらに気付き、おーいと手を振っている。
「エルフの里に到着じゃ。まずは大ばば様に報告するとしよう」
シエラは手を振り返して、里の奥へと入っていった。
「ここがエルフの里か……!」
木々の隙間を縫うように小屋が建っている。
森と共存というか――むしろ森と一体化している。
静かで穏やかな雰囲気。
こんな里があるグレンティナ大森林。
俺はこの森のことが、もっと好きになった。




