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異世界秘境キャンプ旅~キャンプオタクが失われた錬金術で快適生活。もふもふな守護猫タイガと巡る絶景と飯テロの旅~  作者: るあか
第三章 エルフの里の依頼

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第28話 シエラの目的

 食後にコーヒーを淹れて、ホッと一息。

 シエラも腹が満たされたようで、すっかり元気になっていた。


「そういえば――この森のエルフは、森から出ないって聞いてたけど、シエラ……森を出ようとしてたよな?」

 俺は気になっていた話題を振る。


「そうなのじゃ。グレンティナのエルフは、森と共に生きる、森の民。ワシも200年以上生きておるが、森を出ようとしたのは初めてじゃ」

 

「はっ!? 200年!? え、200歳ってこと……!?」

 俺は思わずそう叫び、目をぱちくりとさせた。

 

 さすがエルフ。明らかに少女なのに、この見た目で200歳か……。

 シエラは、ふふんとドヤ顔をした。


「そうじゃ。ワシは今年で208歳になった。もう立派な大人のレディなのじゃ♪」

「……レディってか――」


 ――おばあちゃん……。


 その言葉は、口に出さずにグッと飲み込んだ。

 

「なんじゃ?」

 眉間にしわを寄せて冷めた視線を送ってくるシエラに、俺は「いやいや、なんでもない。立派なレディだな」と話を合わせた。


「シエラは、なんで森を出ようと思ったの? 冒険、しようと思ったの?」

 年齢の話に一切疑問のないタイガが、そう尋ねる。

 そうだった。本当に聞きたいのはそっちだよ。


 シエラは、少し寂しそうにこう答えた。

「冒険――できることならしてみたいものじゃ。しかし、今回は違う。隣町のヴェルーナというところまで行こうとしておった。冒険者ギルドにこれを依頼しようと思っての」

 

 シエラは、1枚の依頼書を取り出した。

「マジか。ギルドに依頼を出そうとしてたのか。あれ? でも、この森にあるキルウェンって町にも冒険者ギルドはあるんじゃないのか……?」


 そうじゃないと、生活資金を稼ぐ手段がなくて困るんだが……。


「無論、キルウェンのギルドにも出しておるが――なかなか受けてくれる冒険者がおらんくてのう。まぁ、内容的にしょうがないのじゃ」

「そうなのか……。依頼のはしごってやつか。ちょっと、内容見せてもらってもいいか?」


「うむ。好きなだけ見ると良い」

 シエラから依頼書を受け取り、タイガと一緒に内容の確認をする。


「緊急依頼じゃないか……。『聖なる泉』の神獣保護作業員、急募……?」

「泉が毒に汚染されたって、書いてあるよ……!」

 タイガがガクガクと震える。


「えっと、この『妖精の聖域』ってのは……?」

 依頼の内容がファンタジーにぶっ飛んでいて、まだこの世界に来たばかりの俺には、なかなか理解が追い付かない。


「うむ。ワシらの住むエルフの里の更に奥には、『妖精の聖域』という神聖な場所がある。本来は小妖精があちこちに飛び交い、その中心にある『聖なる泉』は光を放つ。なんとも神秘的で、幻想的な美しい場所なのじゃ」


「そ、そんな場所が……!」

 俺の秘境キャンプ魂がうずく。

 

 だって、そんな場所、絶対秘境だ……。

 そこって、キャンプは可能なんでしょうか……!?


「しかし、先日発生した毒の魔物により、聖なる泉が汚染されてしもうた。魔物の討伐は別の依頼で既に完了しておる。泉の浄化が問題なのじゃ」


 そこまで聞いて、再び依頼書に視線を落とす。

 なるほど、そういうことか――


 俺は、分かった情報を整理するように呟いた。

「この泉には、『神獣』と呼ばれる生き物が住んでる。毒を浄化するための薬剤が、この神獣にとっても有害。だから、その神獣を一旦保護してから、泉の殺菌をしなくちゃいけないわけだ」


 要は、水槽の掃除のために魚を一時避難させるってやつだ。


「その通りじゃ。しかし、泉を汚染しておる毒が、エルフ族にとっては致死性の劇物。エルフの魔力の性質と相性が悪すぎるのじゃ。先日も泉の水に一瞬触れた里の民が死にかけた。ゆえに、エルフでは神獣の保護作業ができん」

 

 そうか、だから魔物の討伐も自分たちではできずに、他に依頼をしたんだな。

 

 依頼書を見る限り、保護作業中はどうしても泉の毒水に触れることになりそうだ。

 皮の手袋なんかをしても、どうしても多少は触れることになる。


「だから、エルフ族以外の作業員を急募なのか……。その毒ってのは、他の種族には無害なのか?」

 俺がそう尋ねると、シエラは苦い表情を浮かべる。

 

「……いや、無害ではない。人間族の魔力が一番耐性があるようじゃが、それでも何が起こるか、正直分からん。依頼書にも、そうやって書いてあろう?」

「……あ、ホントだ。書いてあるわ。なるほど……正直に言っていいか?」


 シエラは「うむ」とうなずく。

「危険な作業の依頼の割には、報酬が低すぎないか? 俺がヴェルーナの町でこの前やった、迷子の飼い犬探しの方が、報酬が高かったぞ……?」

 あれは、依頼人が金持ちだったってのもあるけど……。


「そうなのじゃ。キルウェンのギルドの他の依頼と見比べても、ワシらの依頼は割に合わなさすぎる。しかし、ワシらエルフの民は基本的に自給自足。キルウェンで少々買い物ができるくらいの商売しかしておらん。それに、里の財産は、先日の討伐依頼の報酬にほとんど費やしてしもうた。つまり――貧乏なのじゃ」


「なるほど……」


「じゃから、受けてくれる人がなかなか見つからないのも、承知の上じゃ。しかし、神獣にとっても泉の毒は有害。あまりもたもたしておると、守りたい神獣さえも死んでしまうかもしれん」


 神獣は毒にも薬剤にも弱いのか……。どうやら繊細な生き物のようだ。


 「それに、森から小妖精がいなくなってしまったのも事実。泉だけではない、森にもダメージは出ておる。しかし、かと言ってワシらも他種族が傷ついていいなどとは思ってもおらん。正直、どうすればよいのか……」

 

 シエラは悲しそうにうつむいた。

 エルフだって、ケチで理不尽な依頼を出しているんじゃない。

 どうしようもない手詰まりの状況で、わらにもすがる思いで依頼を出しているんだ。


 俺は、分からないなりに、必死に考える。

 この依頼の目的は、神獣に危害を加えないように、泉の毒水を浄化すること。


 だから、神獣に危害を加えない方法で泉の浄化ができるなら、無理に神獣を泉から保護する必要もないってことだ。


「やはり、少しでも冒険者の目に触れるように、ヴェルーナの町にも依頼を出しに行かねばならぬ。しかし、森を抜けるのがこんなに腹が減るとは思いもせなんだ……。一旦、キルウェンの町に引き返すしかないのう……。レン、タイガよ。世話になった。この飯の恩は決して忘れぬ。では、ワシはこれで――」


 シエラがそう言って立ち上がったので、俺は慌てて彼女の腕を掴んだ。

「ちょ、ま、待ってくれ……!」


「む? どうしたのじゃ?」

 俺は「ごめん……!」と手を離すと、こう提案した。


「もう少し、状況をちゃんと知りたい。もしかしたら、神獣を泉に残したまま、毒をなんとかできるかもしれない。けど、まだ知りたいことがありすぎる。だから、待ってくれ」


 俺の考えていることが上手くいけば、俺にならきっと――


「なん……じゃと!? お主は一体、何者なのじゃ……?」

「俺は――」


 ここでタイガが割り込んでくる。

「あのね! レンは、錬金術師なんだよ! みんなあんまり知らないみたいだけど――」

 ちょ、タイガさん……俺、かっこよく名乗りたかったんですけど……。


「錬金術師、じゃと……!? かの、幻の……!?」

 シエラは目を大きく見開いた。

 

 

 

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