第24話 レベルアップしたキャンプ飯
リュックから野菜の入った袋を取り出し、テーブルに乗せる。
この瞬間のために、出発の直前にヴェルーナの市場で買っておいたんだ。
ヴェルーナ浜の横穴で料理修業もした。それも、今日この日のため。
全ては、酒場のマスターみたいないっちょ前な飯を、山頂で作りたかったから……!
タイガが魚を捕ってくるまでに、できることは終わらせておきたい。
袋の中から野菜を取り出し、順番に切って、手製の木皿へと乗せていく。
ニンジン、玉ねぎ、ミニトマト、パセリ、グルム草、唐辛子……そして、ヴェルーナ料理の必須食材、ニンニク。
トントン……トントントン……。
「ふんふふーん……♪」
包丁の音と、俺の鼻歌がサークル内に響いていた。
最後にニンニクを切ると、ニンニクの香りがふわっと充満した。
鍋に水を入れて、焚き火に吊るす。
切り終えたニンジンと玉ねぎ、グルム草を全部鍋に投入。
ニンニクは3分の1を入れた。
このグルム草がポイントなんだ。
マスターは隠し味で使っていたけど、この料理向け魔草のおかげで煮込む時間が短縮されるんだ。
「よし、後はタイガが帰ってきてからだな……」
まな板を綺麗に洗っておき、鍋の様子を眺める。
鍋が沸々としてくる頃、桶を咥えたタイガが戻ってきた。
「レン、ただいま~! 見たことのあるお魚捕ってきた!」
「おかえり、タイガ。ありがとな、どれどれ……」
タイガが地面に置いた桶を覗き込む。
「お、岩山魚か。懐かしいな。あの無人島だけじゃなくて、ここにも生息してる魚だったんだな」
今度は魚を手際よく捌いていく。
3枚におろして、身の部分以外は出汁を取るため、鍋に投入した。
お湯が勢いよく沸騰してきたので、アクを取りつつ焚き火の直火から少しずらす。
魚介の香りが鼻を抜けていく。
「あー、もう美味そうな匂いがしてきた!」
タイガがクンクンしながらあちこち歩き回っていた。
後はこのまま弱火で煮込むだけ。
グルム草のおかげで何時間も煮込んだみたいになるんだ。
「よし、一品目はほぼ終わったな」
次は七輪の上にフライパンを用意して、オリーブオイルを熱する。
ニンニクを半分投入。
ジュウゥゥ……。
もうこの音だけで美味そうなんだよ。
ニンニクの香りが立ってきたところで、魚の皮を下にして2枚ともフライパンにサッと投入。
さっきよりも大きなジュウゥゥ……が響き渡る。
パチパチと油が弾ける。
オリーブオイルとニンニクの匂いに魚の焼ける匂いが混じる。
岩壁のサークルの外ではあんなに強い風が吹いているのに……この中は温かな光の中で美味そうな匂いが充満していた。
「うわぁぁぁっ!」
タイガが匂いに耐え切れなくなり、その場にゴロンと転がる。
そして仰向けでじたばたしながら「早く食べたい~!」と悶えていた。
「頑張れ、タイガ。耐えろ。……そろそろだな」
皮がパリッと反ってきたところで、ひっくり返す。
裏面は少しだけ焼いて、水を入れる。
美味そうな焼き色の付いた魚の周りに、半分に切ったミニトマトを散りばめた。
水が沸々と煮立ち、白濁してくる。
「よしよし、美味そうだ」
フライパンにフタをして、七輪の端へとずらした。
俺ルールで、七輪の端は火が弱い。そこにずらして、蒸しに入る。
この料理はこのまま蒸し焼きで完成だ。
この蒸している間に最後の1品を完成させる。
最後は、初めての時にも作ったペペロンチーノだ。
スープを作っている鍋とは別の鍋に湯を沸かし、パスタを茹でる。
フライパンでオリーブオイルとニンニクと唐辛子を炒め、ゆで汁を少しだけ入れる。
パスタがゆで上がったところで湯切りをして、フライパンに投入。
ササっと絡めて塩コショウで味を調えたら完成だ。
「っしゃぁ、できたぞ。タイガ!」
「いやったぁぁぁ~♪」
寝転がっていたタイガは一目散にテーブルに駆け上がってきて、盛り付け用の木皿を咥えて並べた。
俺はそれにペペロンチーノを盛り付け、パセリを散らす。
鍋でコトコト煮込んでいたスープも、塩コショウで味を調える。
小皿で味見をする。
「……うっま。完璧だ」
出汁を取ったアラを入れないように気を付けながらお椀に盛る。
魚介コンソメスープの完成だ。
今回は偶然じゃない。ちゃんとコンソメスープを作ろうと思って作ったんだからな。
七輪の隅によけていたフライパンのフタを開ける。
白い湯気と一緒に、魚とトマトの旨味を含んだ香りが一気に溢れ出した。
「「おぉぉ~」」
思わずタイガと一緒に声を漏らす。
こいつも最後に塩コショウで味を調えた。
2つの皿に魚を取り分け、ミニトマトを均等に散りばめる。
その上からフライパンに残った魚介スープを回し入れ、最後にパセリを散らした。
「アクアパッツァの完成だ!」
「わぁ~い♪」
張り切って3品も作ってしまった。
アクアパッツァは貝とか白ワインもあった方がいいんだけど、これでも十分。
席に着いて、手を合わせて――
「「いただきます!」」
タイガは一目散にアクアパッツァにかぶりついた。
「美味い、美味い! 今日もすっごく美味いよ、レン!」
俺も魚を切り分けて一口食べる。
「んー、良い出汁出てんな~!」
ふわふわの白身の旨味が、口いっぱいに広がった。
タイガと顔を見合わせて笑う。
外がゴウゴウと強風の中、俺たちは料理も心もアツアツだった。
山頂キャンプ。
今日の晩飯は、間違いなく最高だった。




