第20話 真っ白ふわふわな天使
水辺にずらりと並ぶ大豪邸に、俺たちは思わず「うわぁ……」と声を漏らす。
町に並ぶ普通の家だってすげぇワクワクしたのに、ここはまるでリゾート地だ。
「依頼人のマダム、フィレーネさんのお宅は、この辺りのはずだけど――」
アイシャにそう言われて、辺りを見渡す。
すると、豪邸の門の前で、落ち着きなく周囲を見回しているマダムを見つけた。
ふくよかで、綺麗に化粧をしている。
「あの方じゃないでしょうか……?」
俺がそう言うと、アイシャは「本当だわ、ありがとう!」と言って、マダムのもとへと駆けていった。
俺たちも後を追う。
「すみません。冒険者ギルドより派遣された冒険者です。緊急の依頼をされたフィレーネ様でしょうか?」
そのアイシャの問いに、マダムは大きくうなずいた。
「そうザマス。わたくしが緊急依頼を出したフィレーネ、ザマス。引き受けてくださり、感謝するザマス」
持っているふわふわの扇子が小さく震えている。やっぱり、お子さんが心配だよな……。
アイシャが問う。
「お子様が迷子になられたとのことで……良かったら、お子様の特徴を教えていただきますか?」
「そうザマスね。わたくしの可愛い可愛い坊やの名前は、『ポルタ』というザマス。見た目の特徴は、真っ白でお空の雲のようにふわふわで――天使のように可愛いザマス」
「……!?」
俺たちは、目が点になった。
真っ白でふわふわ……!?
そういえば、町で見かけた犬耳の人には、ふわふわの尻尾がついていたよな……。
マダムフィレーネのお子さんは、あの動物の耳の生えた種族なのか……?
アイシャも同じことを考えていたのか、更にこう尋ねた。
「お子様は、『獣人族』なのでしょうか……?」
そうか、動物の耳の種族は獣人族か。見た目そのままの種族名で、覚えやすくて助かるな。
――すると、マダムは突然ヒステリックな声を上げる。
「わたくしの可愛いポルタをそんな風に言わないでザマス!」
「ご、ごめんなさい……!」
咄嗟に謝るアイシャ。なんかよく分からんが地雷を踏んだっぽい……。
「はっ、ごめんなさいね。わたくしったら、ポルタがいないあまりに……。とにかく、ポルタは名前を呼べばちゃんと返事をするザマス。ポルターって呼びながら捜してほしいザマス……」
マダムはそう言ってシュンと落ち込んでしまった。
そうか、誰だって子どもがいなくなったら不安だよな。
「いえ、こちらこそ不躾な質問を失礼しました。分かりました。ひとまず町中を捜してみますので、フィレーネさんはここで待機をしていてください。もしかしたらお子様も帰ってくるかもしれませんので」
「分かったザマス。お願いするザマス……」
俺たちは、マダムの大事なお子さんを捜すため、町の中央付近へと向かった。
◇
「多分、ポルタ君は獣人族で良いわよね……」
アイシャが気まずそうに言う。
「そうですね、真っ白な尻尾の獣人族の男の子を捜してみますか?」
そう提案すると、みんなはうんとうなずいた。
アイシャの指示で、アイシャとトムと俺が町の三方向へと散らばる。
タイガは散らばるとタイガまで迷子になりそうだったので、いつものように俺の肩にいてもらっている。
残ったコリンは、高い建物をひょいひょいっと上まで登り、町全体を見渡していた。
あんな軽々と登ってしまうなんて……器用なものだ。
俺たちがコリンを見ていると、彼は時折指を指してくれる。
白い尻尾の獣人族の子どもを見つけた合図だ。
その方角にいたメンバーが手を挙げて合図を送り、その周辺を捜すというスタイルだ。
コリンを見上げていると、俺の近くを指差す。
俺とタイガは手を挙げて合図を送り、指を指された辺りへと向かった。
「ポルタ君~」
「ポルタ~」
呼んだら返事をするって言ってたもんな。
指示された場所へ到着すると、すぐ近くに真っ白なウサギの耳を付けて、ぽんぽんのような尻尾のある子どもを発見した。
あれ、ポルタかも……!?
「ポル――」
そう呼びかけた瞬間、その子どもは女の子の声で「ママー、あれ買ってー!」と叫んだ。
「もう、シェリン。昨日違う色のやつを買ったばかりでしょう?」
そんな母親の声が聞こえてくる。
「違ったかー……」
「違ったね……」
俺とタイガがコリンを見上げて大きくバツ印を作る。
コリンは残念そうにうつむきながら、了解の丸印で返してくれた。
◇
そんなことをしているうちに、俺とタイガはいつの間にかヴェルーナ港の方まで来ていた。
「ポルタ君~」
「ポルタ~」
桟橋の方まで来ると、タイガが鼻をクンクンと動かした。
「あれ、お魚とかの匂いに混じって、獣っぽい匂いがする……。いつもは港はお魚の匂いばっかりなのに」
タイガは俺の肩から飛び降りると、クンクンしながら港の外れへと向かった。
「ちょ、タイガ、待てって。海に落ちるなよ!」
俺も慌てて追いかける。
「ここだ、ここ!」
タイガが石造りの桟橋から海を覗き込む。
俺も同じように覗きこんでみると――
――真っ白で小さく、そしてふわふわなポメラニアンのような犬が、桟橋のくぼみに入り込んでしまっていた。
もしかして……!?
「ポルタ?」
そう呼びかけてみる。
その犬は尻尾をブンブン振りながら、「わんっ♪」と大きく返事をした。
念のため鑑定眼で確認してみると、緑色で『ポルタ』の文字が――
間違いない。
マダムフィレーネの捜していたのは――愛犬ポルタだ!
「ポルタお前……どうやってそんなとこ入ったんだよ……」
俺がポルタと言ったからか、ポルタはまたしても「わんっ♪」と返事をした。
どうやって救出する……?
海に飛び込む……?
いや、その後ポルタを抱えてこの桟橋をよじ登れる自信がない。
そうか、俺は――錬金術師だ。
腰に付けていた布袋から『錬金術師の腕輪』を取り出し、装備する。
そして、石の桟橋に手を掲げて魔力を送り込んだ。
桟橋が少しずつ引き伸びていき、ポルタのところまで階段状の足場ができた。
よし、これなら――
「ポルタ、おいで!」
「わんっ♪」
ポルタは尻尾を振りながら嬉しそうに駆け上がってくる。
しかし、数段登ると、なぜか満足したように止まってしまった。
俺は仕方なく、自分で作った足場を伝ってポルタのところまで降りていく。
ポルタは俺が近付いても逃げることなく、大人しく抱えられていた。
その時――
「うわっ!」
足場が薄かったためか、バキッと崩れ落ちる。
俺は間一髪のところで、桟橋に手をかけて踏みとどまっていた。
ポルタはポルタで俺の肩や頭を伝って桟橋の上に行き、悠々とくつろいでいる。
「レン! 大丈夫か!? あがれそう?」
タイガが心配そうに覗き込んでくる。
「……ヤバい、無理そう……タイガ、助けを……」
「わ、分かった……! あっ、トムー! トームー!」
タイガは近くにいたらしいトムに声をかけ、すぐに連れてきてくれた。
「レンさん!? 大変なんだな! すぐにオラが引き上げるんだな!」
トムは俺を軽々と引き上げてくれて、俺も無事桟橋に上がることができた。
「助かりました、ありがとうございます、トムさん……。タイガもありがとな」
「間に合って良かったんだな。コリンが必死に港の方に行けって指示を出してくるから、何事かと思っただよ。それにしても、ポルタはわんちゃんだっただな~」
そうか、コリンが俺のピンチに気付いてトムを向かわせてくれたんだ。
そして、トムがポルタの可愛さにメロメロになっている間に、成形錬金術で桟橋の形を元に戻しておいた。
「おーい!」
「レンさん? 海に落ちそうになってたらしいけど、大丈夫だった?」
コリンとアイシャもすぐに合流。
事情を説明し、みんなでマダムフィレーネのところへと戻るのであった。




