第16話 料理への興味
隣の酒場は、木製のカウンターや丸いテーブルが並んでいる、想像通りのところだった。
テーマパークとかのレストランにも、こういう酒場をモチーフにしたところ、あるよな。
少し薄暗い――でも、温かい光に照らされてロマンチックな雰囲気だ。
今まで建物の中なんて、蛍光灯やLEDライトが当たり前の生活だった。
しかし今では、本物の火の明かりのとりこになっている。
タイガと一緒にカウンターへと腰掛けた。
すぐに、マスターらしき人が対応してくれる。
「いらっしゃい。ほら、メニューだ」
「ありがとうございます!」
まず初めに値段に目がいってしまう。
良かった。ここも宿屋と同じで、良心的な値段で飯が食える。
冒険者という職業が、あちこち旅をしながら十分に生きていける職業だと分かった。
鉄鉱石の3400Gも、初めは多いのか少ないのかが分からなかったけれど、今思えば十分すぎる額だったと言える。
『本日のマスターおすすめセット』は――
『ペスカトーレ』
『ヴェルーナダイの香草焼き』
『魚介スープ』
か……。
ペスカトーレってなんだっけ……。聞いたことはあるな……。
おすすめの下にある、通常のメニューの『アクアパッツァ』とか『ペペロンチーノ』はよく聞く。
でもアクアパッツァは正直なんなのかはよく知らない。
更にその下の『アーリオ・オーリオ』に至っては、俺には未知の領域だ……。
よし、決めた!
「本日のマスターおすすめセットでお願いします」
「はいよぉ!」
ここは、おすすめを食ってみるに限るな。うん、そうに違いない。
それに、ヴェルーナダイはビリーたちとの船上海鮮バーベキューで食ってるし、美味いのも知ってる。
ワクワクそわそわしながらマスターを眺める。
すぐに、ジュウジュウと音がしてくる。
それと同時に漂ってくる香ばしい香りに、俺は思わずカウンターから身を乗り出した。
「もう美味そうな匂いが……ニンニクか?」
タイガも「本当だ~。美味そうだ~」とカウンターの上でくんくんと鼻を動かした。
「はっはっは。料理の作り甲斐のある反応だな! おう、今は『オリーブオイル』でニンニクを炒めてるぞ」
「オリーブオイル……!」
俺の中で何かがはじける。
今後、キャンプで炒めたりしたいんなら、油は絶対あった方がいい。
しばらくすると、トマトの甘酸っぱい香りと、魚介の香りが混ざり合った湯気がふわりと立ち上がった。
グツグツ……グツグツ……。
美味そうなトマトソースが煮立っている。
貝殻が開き、魚の身がほろりと崩れ、海の香りがふわっと鼻をくすぐった。
ペスカトーレって、トマトソースの海鮮パスタか!
ニンニクと魚介の香りがすげぇ……!
更に、マスターは石窯でも何かを作っていた。
そっちからはハーブっぽい匂いが漂ってくる。
時折鍋もかき混ぜている。
すげぇ、全部同時にやってる……。料理って、こういうものなのか……。
――やがて。
「はい、お待ち! 本日のマスターおすすめセットだ」
アツアツの料理が目の前に置かれる。
真っ赤なトマトソースに、貝や魚がごろごろ入っている。
ほわっと、湯気が昇っていった。
「いただきます!」
「いっただきまーす!」
俺はペスカトーレを、タイガはヴェルーナダイの香草焼きを一口食べる。
――そして。
「「うま~っ!」」
同時にそう叫んだ。
更に魚介スープを飲むと――
あっ、このコンソメスープっぽい感じ……!
これ、俺が廃村で偶然作れたコンソメスープもどきと似たような味だ。
もちろん、マスターの作ったスープの方が何倍も深みがあるんだけれど。
「スープもめちゃくちゃ美味いっす!」
俺がそう言うと、マスターは満足そうに「ありがとうよ!」と笑った。
「この魚介スープな。『グルム草』っていう料理向け魔草を隠し味に使ってんだよ」
グルム草……! マジか、俺もあの時スープの中に入れてたわ!
確か、先がクルクル巻いた草だ。
「そうなんですね! 俺も前に適当にスープを作った時に入れました、グルム草!」
「おぉ、そうか! あの魔草に目をつけるとは、なかなかセンスがあるじゃないか!」
マスターはメニューにあった他の料理もどんなものかを説明してくれた。
そして、興味があるなら町の本屋に行けば『料理本』もあるぞ、とのこと。
マスターと料理の話で盛り上がりつつ、あっという間に完食。
代金を支払って、酒場を後にした。
◇
今日食ったペスカトーレは、自分で作るのにはちょっとハードルが高そうだった。
でも、マスターに聞いた限りでは、俺にもできそうな料理がちょいちょいあった。
明日、早速本屋に行ってみよう。
山頂でマスターのように華麗に料理をしている自分を想像して、はにかむ。
腹も心も満たされたところで、宿屋の自室へと戻った。
マッチでランタンに火をつける。
ぼんやりと優しい光を放つランタンを出窓に置くと、まるでおとぎ話の主人公にでもなったかのような風情を感じた。
キャンプでは焚き火ばかりしていたけど、このランタンをテーブルに置くのも雰囲気が出そうだよな。
そんなことを考えながらベッドに潜る。
ふかふかな寝心地に、あっという間に寝落ちしていた。




