第11話 水の都ヴェルーナ
「じゃあな、レン! 頑張れよ!」
そう言ってみんなが手を振ってくれる。
「はい、本当にありがとうございました! 皆さんもお元気でー!」
「ばいばーい!」
俺は両手で手を振り、タイガを肩に乗せると、お世話になった船に背を向けて歩き出した。
ここから俺の新しい冒険が始まるんだ……!
改めて港を見渡した俺は、思わず足を止めた。
海の上には大小さまざまな船が浮かび、石でできた桟橋が何本も伸びている。
港なのに町の中まで水路が続いている。
その水上を、小さな船がスイスイと行き来していた。
「なんだここ……すげぇな……!」
「船がいっぱいだー!」
潮風に乗って、港のあちこちから賑やかな声が聞こえてくる。
「荷物はこっちに運べー!」
「次の定期船は1時間後だ」
「お前はあっちの整備を」
荷物を運ぶ人や船の整備をしている人、次の定期船を待つ人……。
港はとにかく人であふれていた。
そんな賑やかな港を抜けると、水路をまたぐように大きな門が見えてくる。
その水路の両側の道を、たくさんの人が行き来していた。
あの門が町の入り口か……!
人ごみに紛れてその門をくぐる。
目の前に広がる町の風景に、思わず「うわぁ……」と声が漏れた。
水路は俺の今いるところだけじゃない。
建物の隙間を縫うように、水路が張り巡らされている。
その水上を小さな船が当たり前のように行き来していた。
あれって、ゴンドラか……!?
「『水の都』って、そういうことか……!」
「水がいっぱいあるってことだったのかぁ」
タイガも興味津々にそう呟いたので、俺は「だな」と相槌を打つ。
向こうの方には大きな女神像も見える。この町も女神像に守られてるんだな。
俺たちのいる大きな水路には石の橋がかかっていたので、俺たちはひとまずその橋を渡ることにした。
この時俺は、とんでもない事実に気付く。
「あれ、あの耳……」
水路を進むゴンドラを動かしている船頭の耳が、魚のヒレのように綺麗にひらひらとしていたのだ。
「お魚さんみたいなお耳だね。レンのお耳とは全然違う」
「そうなんだよ……」
橋を渡りながらキョロキョロと周りの人を見てみると、船頭と同じように耳が魚のヒレのようになっている人もいれば、頭に犬やウサギの耳が生えている人たちもいた。
「マジかよ……」
犬耳の人は、ちゃんとふわふわの尻尾も付いている。
俺と同じような容姿の人が圧倒的に多いけど、そんな少し違う見た目の人もちらほらいて、俺の心は最高潮に高まっていた。
すげぇ……
この世界、違う種族もいるのか……!
早く町をあちこち見て回りたいという、わくわく衝動に駆られる。
しかし、俺は一文無し。何も買えない。
「とりあえず、冒険者ギルドを探すか……おっ、あっちの看板、地図っぽいな」
「地図ってなんだ?」
俺は大きな地図看板へと駆け寄り、タイガと一緒に見上げた。
水路があちこちに描かれている地図。更にあちこちに『ゴンドラ乗り場』の文字が。
「ほら、この町でっかいだろ? だから、どこに何があるかをここに全部書いてくれてんだよ。これで、初めて来たこんなでかい町でも『冒険者ギルド』を探せるんだ」
「わーっ、小さな町が描いてあるのか! すごいなぁ♪ あっ、あったよ、レン。あそこあそこ、冒険者ギルドって書いてある」
「どれどれ……本当だ。『冒険者ギルド、ヴェルーナ支部』か。そこで間違いなさそうだな。えっと、こっちか」
冒険者ギルドに向かって水路沿いを歩いていると、停泊しているゴンドラと魚のヒレの耳の船頭らしき男が目に入る。
俺は、その男に恐る恐る話しかけてみる。
「あの、すみません……ゴンドラの代金って、1回いくらですか?」
男は、爽やかな笑顔でこう答えた。
「おっ、ヴェルーナは初めてかい! ゴンドラの利用は無料だよ。良かったら乗っていくかい?」
「ええっ、無料なんですか!? あの、冒険者ギルドまで行きたいんですけど……」
「『ギルド通り』までだね、了解。さぁ、乗った乗った!」
「ありがとうございます!」
グラグラとするゴンドラにゆっくりと乗って、タイガを肩からおろす。タイガも「うわぁい、ちっちゃいお船で町の中を移動だー♪」とはしゃぎまくっていた。
スイーッとゴンドラが動き出す。水路を進んでいるわくわくももちろんあるが、船頭の耳も気になってしょうがなかった。
「あ、あの……!」
「ん? どうした?」
「俺、田舎者で、お兄さんみたいな耳の人たち、初めて見ました……」
こんな聞き方で、失礼じゃないか……?
「えっ、そうなのかい? この辺は港ってこともあって、ヴェルーナは結構『魚人族』の数も多いけどなぁ」
船頭はそう言って「ははは」と笑った。
魚人族……! やっぱり、違う種族なんだ……!
「そう、なんですね……。確かに、この町に来てからよく見かけます。綺麗な耳で、良いですね」
俺がそう言うと、船頭はまたしても「ははは」と笑った。
「そんな褒められることなんてないから、照れちまうよ。お客さんの『人間族』の耳も、十分素敵さ」
「あ、あはは。確かに、照れますね……」
「はははっ、だろ? ちなみにほら、ここにエラも付いてるから水の中でも呼吸できるぜ?」
船頭はそう言って耳の下の切れ込みのようなものを見せてくれた。
「おぉぉぉ! マジっすか! すっげぇ!」
そんな話で盛り上がりながらしばらく進むと、水路の先に小さな城のような建物が見えてきた。
剣と盾の看板が掲げられている。
「あれが、冒険者ギルドだぞ」
船頭がそう言った。




