第10話 海鮮BBQ
※お知らせ
序盤(1〜5話)を改稿・再構成したため、話数が変更になっています。
内容自体は大きく変わっていませんので、そのまま読み進めていただいて大丈夫です。
空は快晴。風向きも良好。
甲板に腰を下ろし、みんなで談笑していた。
すると、ボブが「腹が減ったな」と言って、ポケットから小さな包みを取り出した。
その包みの中からクッキーのようなものが顔を出す。
「ボブ、それ、何食べてんだー?」
タイガが尋ねると、ボブは「乾パンだよ。ほら、食べるかい?」と、タイガにくれた。
タイガは一口かじると「なんだこれ、パサパサでお口の水分が全部持っていかれたみたい……」と渋い顔をする。
まぁ、乾パンだしな……。みんなは「わははは」と笑う。
「こんなものしかなくて悪いな。用意するのがめんどくさくて、船で行くときはついつい乾パンで済ませちまうんだよな」
マイクは失笑する。
「僕は本当は、ちゃんとした美味しい飯を持って行きたいんだけどね……。マイクがめんどくさがらなければなぁ……」
ボブは不満そうだ。
俺は、ここであることを思いつく。
「ビリーさん、この船、海釣りできる道具が積んであったりなんて、しませんか……?」
「おっ、釣り竿ならあるぜ。待ってろ」
ビリーはそう言って船内に戻っていった。
「釣った魚を食うってか? 火はどうすんだ、多分この船ちっせえからかまどなんてねぇぞ……?」
マイクが首を傾げる。
「それなら俺、持ってます」
俺はそう言ってリュックを入れてあるタルを漁り、七輪を取り出した。
マイクたちは「あのリュックそんなもんが入ってたのか!?」と目を丸くする。
「せっかくだし……これで、船上バーベキュー、しませんか?」
勇気を出してそう提案してみると、2人ともすぐに「いいじゃねぇか!」「最高だよ!」と乗り気になってくれた。
言ってみるもんだなと、顔が緩む。
そして、俺は言い出しっぺのくせに海釣りの仕方も分からなかったので、ビリーにイチから丁寧に教えてもらった。
みんなで並んで釣り糸を垂らし、どんどんと魚や貝なんかを釣り上げていく。
「わーい、レン、また釣れたね!」
そうなんだよ、俺なんかでも、やってみたら案外できるもんなんだ。
鮮やかな朱色の魚をみんなに見せびらかすと、ビリーがこう教えてくれた。
「ん、そりゃ『ヴェルーナダイ』だな。塩焼きにすると美味いぜ~?」
「おぉ、やった……!」
この辺で捕れる鯛ってことか……。
確かに、鑑定眼で見れば緑色で『ヴェルーナダイ』と表示される。刺身で食っても問題はないってことだ。
でも、どういうふうに食べるのが一番美味いのかとか、調理方法とかまでは分かんないんだよな。
そういうのは、鑑定眼に頼らずに自分で情報収集していかなくちゃいけないな。
たくさん釣ったところでビリーが「捌いてくる」と魚を船内へ持っていこうとしたので、俺はすかさず「手伝います! 教えてください!」とついていく。
残った2人はタイガ指示のもと、七輪で火を起こしてくれることになった。
ビリーは魚の捌き方もイチから丁寧に教えてくれた。
今まで魚はほぼ丸焼きで食べてきた。
下処理は内臓を取ったりなんかの、必要最低限だ。
スープに入れた時だって、雑なぶつ切り。
そのやり方もイチから学び直し、更に開きや三枚おろしにしていく。
「楽しい……俺、意外にこういうの好きだったんだな……」
自分で三枚におろせたヴェルーナダイを見て、感動のあまりそう呟く。
ビリーも「おうおう。レン、てめぇ、なかなか器用だし、筋がいいぞ」とほめてくれた。
「ビリーさんのおかげです。ありがとうございます!」
◇
甲板に戻ると、もう既に煙が漂っていた。
おじさん2人が甲板の真ん中で七輪を囲んでワイワイしている。
「あっ、レン! なぁ、なぁ、見てくれよ。このマッチってやつで、簡単に火をつけられたんだぞ。マイクが記念にひと箱くれたぞ」
タイガがそう言ってマッチの箱をちょんちょんと突く。
「おっ、マッチがあるのか。良いんすか! それは助かる……ありがとうございます!」
マイクは「良いって、良いって」と手をブンブン振っていた。
この先はもう火打ち石をカンカンしなくていいってことか。
そして、捌いた魚介類を網の上に乗せていく。
ヴェルーナダイ、ナンヨウカマス、ヴェルーナシュリンプ、ホタテ、サザエ、ナンヨウイカ……。
全部、美味そうだ……。
ここで俺はあることを思い出し、自分のリュックを漁りに行く。
そして、リュックの中から2つの小ビンを取り出してみんなのところへと戻った。
「ビリーさん、塩とコショウがあるんですけど、いつ振るのがいいですか?」
俺がそう言って2つのビンを見せると、みんなは「なんでそんなもん持ってんの!?」と目を丸くしていた。
なんか、そんな反応させてばかりだな……。
「えっと、自作です……漂流生活中に作りました……」
俺がそう答えると、みんなは更に目を真ん丸にしながら、塩とコショウを少しずつ味見する。そして口々に「マジで塩だわ」「マジでコショウだね」と感動していた。
「ま、基本は焼く直前だな。だからこの辺はもう振っておけ」
ビリーはそう言って魚やエビ、イカを指し示した。俺は「はい!」と返事をして、適当にパラパラと振りかける。
そして、ビリーは更に貝の辺りを指し示して「この辺は食う直前でいいかな」と教えてくれた。
ジュウジュウと、潮風に乗って香ばしい匂いが漂ってくる。
「わわわっ、美味そうすぎる!」
ボブがニヤリと笑う。
「なんで酒がねぇんだ!」
マイクがそう言って笑うと、他のみんなも「だな!」と笑う。
俺は会社の飲み会とかにも進んで参加するタイプではなかった。
でも、確かにこのメンバーでこの状況なら、酒があっても良かったなと思う。絶対、楽しい。
「なぁ、なぁ、ビリー、まだ食べちゃだめなのか?」
タイガがさっきから何度もそう言ってビリーをちょんちょんと突き、急かす。
すると遂にビリーから「そうだな、そろそろいいかもな」と返事が返ってきて、みんなこぞってフォークを伸ばした。
そして、この海の上に「うま~っ!」という男たちの雄叫びが響き渡るのであった。
「このエビ、ぷりぷりだぁ♪」
ボブが舌鼓を打つ。
俺もまた、湯気の立ち込めるヴェルーナダイをはふはふしながら堪能した。
「あつっ、この鯛も、すごくふわふわですっ……!」
結果的に酒がなくても美味いし楽しかったとみんなは言ってくれた。
みんなだけじゃない。俺とタイガもずっと笑っていた。
気さくな3人のおじさんたち。もう少しでお別れだと思うと、少し寂しい。
異世界の人の温かさに触れ、俺は腹だけではなく心も満たされていた。
◇
バーベキューの後片付けをしていると、ビリーに背中をポンと叩かれる。
「見えてきたぞ、レン、タイガ。あの町が、『ソルティア王国』最大の港町、『水の都ヴェルーナ』だ」
「水の都……!?」
たくさんの帆船が停泊しているのが見えてきて、俺の鼓動がドクドクと高鳴った。




