おわり
「それに、俺の力を少しでも高めるために勇者教の信者を増やしたい、だから、そういう意味でも早々に女神教の信者を殺すわけにもいかないのさ。女神教も寝返る可能性があるからな。その為に今はこの魔王どもと共に工作を続けてるってところだ、そのやり方に長けた人材もいる」
片腕の魔王「……」
「……勇者の力が女神様を上回るのが先か…、それとも女神様がライガの攻略法を見つけるのが先か」
「もしくは妥協案を女神が出してくるか」
「……壮大だな」
司祭は、諦めたように笑った。
「お前は……神にでもなるつもりなのか」
「少なくとも、今よりはマシは世界にできる」
「……本気で言ってんのか」
「本気だ」
「……ッ」
勇者はぐるりと周囲を見渡す。
「この魔王達も、俺の為によく働いてくれる。裏工作をする天使をあぶり出したり、悪役に徹し俺を引き立ててくれたりな、俺一人のキャパじゃあ、今はまだそこまでできない」
「勇者! お前はっ」
「ああ壊れてる!! 自覚してるさ!! だが他にどうしたらよかった!?」
「ッ」
突然の感情の発露に、司祭は口をつぐんだ。
「……みんな優しい人だった。 優しい人を大切できない世界。 優しい人を無視する世界……こんな世界と知って、それでもそれを甘んじて受け入れろと? それこそ……俺には耐えられなかった」
と勇者は言う。
「……っ」
司祭は、歯を食いしばり、強く目を閉じると、天をを仰いだ。
「その為だったら……どんなに殺したいほど憎んでいる魔王だろうと、利用価値があれば利用するさ」
最後、勇者の声は落ち着きを取り戻し、そして冷たくなった。
司祭は、もう、何も勇者に対して言葉を持たなかった。
そんな司祭が最後に発した言葉は、ただの反復だったのかもしれない。
「……だから生かしてるのか、仲間を殺した魔王でさえ」
司祭の力のない、ただ思ったことを口にしただけの言葉に、しかし勇者は意外にも笑った。
笑い声が、大魔王の間に響く。
なぜか今、不意に頭に浮かんだ言葉が、やたらと面白かったのだ。
勇者は確認するように、口を開いた
「おう、変わったのさ。考え全てが。本当に……変わったよ。」




