09
「私もアザンツ学園に連れて行ってください!」
アザンツ学園の入学式まで残り一か月を切ったある日の魔術訓練中、思い切ってユーフェミア様に申し出てみた。
「入試は秋よ」
「生徒としてではなく付き人としていきたいんです」
アザンツ学園は申請すれば護衛やメイドの同行が許可されている。漫画の知識だけじゃ不安で改めてアザンツ学園について学んだから間違いない。
「魔術の訓練もイヤイヤ始めたあなたが何で魔術学校に行きたがるのよ」
「あなたが心配だからですよ!」
無駄に勝ち気で偉ぶって傲慢で高飛車なユーフェミア様が学園で平穏無事に過ごせるわけがない。下手したら入学一カ月でまわり全員が敵になってしまう。
それで鼻っ柱が折れてくれればいいけどユーフェミア様はきっと毛ほども気にしないんでしょう?
それじゃダメなんですよ。
こいつなら死んでも別に構わないと思われるようじゃ。
「お願いです。ユーフェミア様のおそばにおいてください」
なるべく目の届く範囲にいてもらわないとフォローできない。
「私はまだまだ力不足かもしれませんけど」
ユーフェミア様の性格も改善できてないし。
「でも、あなたを一人にしたくないんです!」
一人だったら絶対死亡ルートまっしぐらなんだから。
私が必至な形相でユーフェミア様を見ると、ユーフェミア様は眉間にしわを寄せてフイっと視線を知らし何か考えこむように口をもごもごさせた。
どうしても連れて行ってほしくてさらに見つめる。
さらに見つめる。
さらに────。
「わかったわよ、連れて行けばいいんでしょ!」
「ありがとうございます」
粘り勝ち、イェイッ。
次の日。
早速同行に必要なあれやこれやの準備を始めた。
アザンツ学園に同行人申請用の書類を送るよう書状を送り、書類を送ってもらい、書いて、返送して、許可証をもらうという何とも時間のかかるやり取りが必要なのだ。
が、
「はい、これ申請書」
ハワードのおかげて手順その一、その二がざっくりカットされた。
「ありがとうございます。でもどうして」
書類を受け取りながら、ハワードの準備の良さに首をかしげる。
「昨日帰り際、二人が話してるのが聞こえてレイスに連絡とったんだ。そしたら申請書の予備が王都の実家にあるっていうからもらってきた」
「そうだったんですね」
そんなに大きな声で話したつもりはなかったんだけど、訓練場の端にいたハワードにも聞こえてたんだ。ユーフェミア様のことしっかり見てたんだろうな。
「レイス様にもお礼を言わないといけませんね」
「お礼はお姉さん所のお店で買い物することだって」
「まあ! では奮発しなければ」
ハワードと二人で笑う。
この間レイス君に案内されて店の場所もバッチリ覚えたから、今度マオ先輩を誘ってみようかな。
「学園で困ったことがあったらレイスに聞くといいよ。気さくな良い奴だから一緒に解決してくれると思う」
「わかりました」
とはいうものの、ユーフェミア様がレイス君を嫌ってるようだから実際は頼まないだろうなあ。
「それとこれ。アザンツ学園で一緒になる俺の友達。俺の名前出せばすぐ仲良くなれると思うから」
「ど、どうもありがとうございます」
ずらりと名前が並んだ紙を一枚渡された。
これ全員ハワードの友達なの? ハワード自身は魔術師見習いでも何でもないのに、アザンツ学園に限ってもこんなに友達がいるってホントどうなってるの?
ハワードが友達のいないユーフェミア様を気にするわけが少しわかった気がする。
あ、でも、よく見たらこれ全員男の名前だ。
さすがのハワードでもアザンツ学園に通う女の子の友達はいなかったか。いや、これだけいたら男だけでも十分だけどさ。
んー、レイス君にショウに……。ユーフェミア様が見たらすごい嫌な顔しそう。私も男の子と話すのあまり得意じゃないし、有効活用できないかも。
「あー、俺が言うと変かもしれないけど、ユーフェミアのことよろしく頼むよ」
ハワードは少し照れ臭そうに言う。
「ユーフェミアは君のこと気に入ってるみたいだから」
「そうでしょうか」
「じゃなかったら、学園に一緒に行っていいなんて言うわけないよ」
「それは私がごり押ししたから」
「ユーフェミアが本当に嫌なら突っぱねるよ」
確かに。
他人より自分優先なのがユーフェミア様だ。てことはハワードの言う通りちょっとは気に入られてるのかな。
なんか、ほおが緩む。
ハワードも、友達チョイスはちょっとポンコツだけどユーフェミア様のため思ってることは確かなんだろう。
「仰せつかりました。ユーフェミア様のおそばで絶対お守りしてみせます」
死亡エンドという破滅的な未来から。
ハワードは少し苦笑して、
「任せるよ」
といった。
「じゃあ俺はこれで」
「え、もう帰られるんですか」
「今日は書類届けに来ただけだから。これから友人も来るしね」
「そうでしたか。ユーフェミア様に会っていかれなくていいですか」
「昨日会ったしいいよ。よろしく言っといて」
「わかりました」
私が頭を下げると、ハワードは軽く手を上げて帰っていった。
昨日今日とそうだけどハワードは自身の友人を連れてくることがなくなった。てっきり友人と会ってないんだと思ったけど、レイス君の件で無理に紹介してもろくなことにならないと気付いて連れてこなくなっただけで別に友人に会ってないわけじゃなかったんだ。
それにしたって挨拶くらいしていけばいいのに。
……なんか、怪しい。
「あら、ハワードは帰ったの?」
「ユーフェミア様!」
ちょうど入れ違いになる形でユーフェミア様がやってきた。午後からの訓練に向け動きやすい服に着替えたユーフェミア様はすでに扉の閉まった玄関を見る。
「ハワードが来たというから急いだのに無駄骨だったようね」
「ご友人がいらっしゃるとかであまり時間がなかったようです」
「そう。……で、ハワードはあなたに何の用だったの」
ユーフェミア様がずずいと顔を近づけてくる。
あ、あれ、これって私が怪しまれてる?
「これを届けに来てくださいました!」
いらない誤解は素早く解こう。
ハワードから渡された書類一式をユーフェミア様に差し出した。友人一覧表も。
「同行人申請書ね」
「昨日の話をお聞きになっていたらしく、レイス様に掛け合って持ってきてくださいました」
「そう。……これは?」
「それはハワード様のご友人一覧です。学園で困ったことが会ったらこの方々に聞くといいと」
「……」
ユーフェミア様は一覧を上から下まで見た後、口元をケッと歪ませためらいもせずに破り捨てた。
「ショウ王子に頼るなんてまっぴらごめんよ」
憎々しげにそう言い放つ。
ですよねー、やっぱりそこ気にしますよねー。
実際に使うかはともかく味方になってくれそうな人がこれだけいるっていうのは安心感もあったんだけど、もったいない。
「一瞬ミラにお見合いでもさせるのかと思ったわ、このメンツ。ハワードは何考えてるのかしら」
「ユーフェミア様の平穏無事を祈ってるんだと思いますよ。────この方たち優良物件なんですか?」
「悪くないと思うわ。無駄に高貴すぎずミラも気後れしないでしょうし、ご家族も悪いうわさを聞かない」
「え」
無駄に高な方がいらっしゃたと思うんですが。第二王子というお立場の。ショウという名前なんですけど。
ショウがいなかったことになされた。
ま、いっか。
「それにしても意外ね。ミラも恋愛に興味があるの?」
「それはまあ」
大アリです!
あの人が格好いいとかこの人が優しいとか九歳なら楽しい話題の一つなんじゃないでしょうか。特に私は恋人もできないまま死んだ前世があるので今世こそ大恋愛がしたいんです。
「ユーフェミア様は興味ないですか、こういう話?」
「私にはハワードがいるもの」
グハッ。
あてられた。
許嫁持ちにする話じゃなかった。
ユーフェミア様は腰に手を当て、再び顔を近づけてきた。
「ミラの恋愛にとやかく言うつもりはないわ。でもわかってるとは思うけど」
「あ! ハワード様にだけは惚れるなということですね。ご安心ください」
「違うわよ」
違った。
ユーフェミア様の眉間にしわが寄る。
「ミラがだれを好きになってもいいけど、で、でも、あの」
なんだろう。
ユーフェミア様は視線を泳がせもごもごと口ごもった後、意を決したように叫んだ。
「わ、私から離れるのは許さないんだから!」
とてもかわいい叫びだった。
「ミラが言ったのよ、私のそばにいるって! だから私のためじゃなくてミラのためなんだからね! 私は別にどうでもいいんだけど。あ、ど、どうでもいいっていうのは言葉のあやで、あの、でもミラが私といたいならいさせてあげるっていうか、か、か、勘違いしないでよね!」
吹っ切れたのか吹っ切れてないのか、あくまで私のためという名目で必死になってまくしたてていく。
その姿は一言でいうと、かわいい。
えー、ユーフェミア様超かわいい。
眉間にしわ寄せて起こったふりしてるけど、それだけ顔が真っ赤じゃ照れてるだけなのばればれですよ。っていうか、怒ったふりじゃなくて単純に照れ隠し? じゃあ今まで眉間にしわ寄せてたあれやこれやも照れてたの?
えー、えー、超かわいい。
「ユーフェミア様」
私が手を握れば、ユーフェミア様はさらに顔を真っ赤にする。
「な、何よ」
「一生おそばにいますね」
「────分かればいいのよ」
ツンとした口調とは裏腹に、ユーフェミア様は嬉しそうだった。




