07
午前中はユーフェミア様から治癒術を習い、午後はユーフェミア様と一緒に魔物討伐を想定した戦闘訓練。
「あらら、大変だね。でも魔術はやって損はないからしっかり学ぶといいよ」
仕事が終わり、部屋で床に座ってくつろぐマオ先輩に今日あったことを報告すると、マオ先輩は苦笑交じりにそう返してきた。
ここは屋敷の敷地内にある使用人寮の一室であり、私とマオ先輩は相部屋となっている。
いつまでも本館に間借りしているわけにはいかないのでユーフェミア様に相談したところ、この寮をあてがわれた。そこでちょうど同室の人が出て行って一人部屋になっていたマオ先輩が「うちあいてるよー、おいで」と言ってくれ、教育係にもなってくれたというわけだ。
家庭がある人やお金にそこそこ余裕のある人は屋敷外で暮らすため、寮にいる人は働き始めたばかりの若い人が多い。
私はマオ先輩と向かい合うように座り、テーブルの上のクッキーを一つとる。
「魔術なんて不安です……」
「まあまあ。あの気難しいお嬢様が一緒に何て言うくらいだからよほど気にいられたんでしょ」
「そうでしょうか」
提案したことに逆らうなんて許さないというだけな気がする。
「そうよ。仲良くしてあげて」
マオ先輩はそういったあと、ちゃんと扉が閉まっていることを確認しテーブルに身を乗り出して小声で話をつづけた。
「正直、お嬢様には友人がいらっしゃらないんじゃないかと思ってるの」
「え」
「許嫁のハワード様とは仲良さそうだしハワード様のご友人方ともそれなりにやっているようだけど、私がここで働き始めて二年たつのにお嬢様のご友人を見たことがないの、一度も」
「ハワード様のご友人がそのままユーフェミア様のご友人というだけでは?」
「どうもそんな感じじゃないっていうか。私たちメイドの間では、あれは友人のいないお嬢様を見かねて友人を増やすために連れてきてるんじゃないかって噂よ」
げ、下世話な……。
「私も最初は仲良くなれたらって思ったんだけど、嫌われちゃったみたいでさ」
マオ先輩はハアっとため息をつく。
「愚痴聞いてくれる、ミラちゃん?」
「聞きますよ」
「前にね、屋敷の休憩室でメイド仲間と手作りお菓子の交換会をしたことがあったの。そこにお嬢様とハワードさまがいらっしゃったから、おひとついかがですかって渡したらハワード様はおいしいって言ってくれたんだけど、お嬢様は二、三枚口にした後私をにらんできて」
「え、にらまれたんですか?」
「そう! 眉間にグッとしわ寄せてね。どうもあれ以来、目が合うとにらまれるのよ」
マオ先輩は私の隣まで来て「何がまずかったんだろ。クッキーかな、ハワード様に褒められことかな」と答えの出ない疑問を抱え、力なく私にもたれかかる。
雇い主の娘、というのもあるんだろうけど、純粋に子供に嫌われたというのが堪えているんだと思う。マオ先輩は子供好きだから。
私なんかに慰めの言葉が思いつくわけでもなく、マオ先輩の気がすむまでなでくり回されることにした。
私もマオ先輩の胸の感触を楽しんだ。




