おまけ4
王都に現れた魔力を食う謎の集団。
彼らはまんま『魔力喰』と呼ばれることになった。
急に現れ、急に動きを止め、一気に捕らえられた『魔力喰』だけど、次の日には全員忽然と姿を消していたらしい。
なんてこったい。
さらに問題なのは「王都を恐怖に陥れた犯人たちをまとめて逃がしてしまうなんて治安維持署の恥」「国民には絶対ばらすな」と情報が握りつぶされようとしていること。
どうしようもないな。
安穏と暮らしているところに再び『魔力喰』が現れて襲われる方が問題でしょ、と私は思うのです。
そしてどうやら治安維持署内にも同じ考えの人はいるようで、
「『魔力喰』を止めた力がどうもアズリの里に関係ある力だったらしくて参考に署に呼ばれたんだけどなんか『魔力喰』逃げちゃったみたいよ」
という発言や、
「聞いたか? セシルから聞いたんだけど『魔力喰』逃げたらしいぜ」
という発言が普通に飛び交う程度には情報漏洩が起こっている。
ちなみに前者がマオ先輩、後者がレイス君。
マオ先輩の情報源は言わずもがなエンヴァントさんで、レイス君のはセシルだけど、まあ元をたどればエンヴァントさんでしょ。
「情報漏洩? 誤解を招く発言だな。参考までに呼んだ知人や、俺の働きぶりを見てもらおうと呼んだ次期当主が勝手に何かを察したんだ。俺は何も言っていない。うんまあだが、一市民の発言を取り締まることなどできないし、何を言ったか知らないが、何を言っても無視することしかできない。何らかの噂が広まってもどうしようもないな。それと世の中物騒だからミラも注意しておくこと。何とは言わないが、世の中何があるかわからないものだ。ユーフェミア嬢や友人たちにも気をつけるよう言っておいてくれ、何にとは言わないが」
と涼しい顔で言ってのけたのでエンヴァントさん確定です。
マオ先輩たちもエンヴァントさんの意をくみ取ってあえて吹聴して回ってるぽいし予定調和なんでしょ。
『魔力喰』にかかわった人を署に呼んで聴取してる一番の目的も情報漏洩のためと見た。
そんなこんなで『魔力喰』騒動から三日。
私と北橋は地元に帰る柳田さんとウェンディを見送るため、再び行動を共にしていた。
「で、どうなの?」
「どうって、何が?」
私の質問に北橋は質問返しする。
「柳田さんとのこと。こうやって見送りに来るぐらいなんだからよりを戻したんでしょ」
「まあそれなりにぃ、収まるところに収まったっていうかぁ」
北橋は少し自慢げに鼻を鳴らす。
三日前、先に街に戻った私だけどなんだか嫌な予感がして引き返してみれば力の使い過ぎでぶっ倒れた北橋と、北橋を膝枕する柳田さんを見つけた。
その光景を見た瞬間、何かあったのではとピンときたのだ。
雰囲気? 表情? とにかく何かが違うなと。
詳しく問い詰めたかったけど城で療養中の北橋に気軽に会いに行くこともできず、今日ようやく聞くことができた。
道すがら、北橋をからかう。
「ギュッと抱きしめてブチュッとかました?」
「ブチュッとはしてない」
ギュッとはしたんか。
「思うに、俺と志乃はもっとお互いを知るための会話が必要だったと思うんだ」
「そうだね」
まったくもってその通りである。
「俺は志乃に嫌われてると思ってたから遠慮してたけど、今後は多少強引にいこうと思う」
「え? じゃあ今日これからキスするの?」
「お前なー。衆人環視のもと俺と志乃がキスしたらお前どんな反応するよ?」
「うわー、まじかこいつ、時と場所を考えてしろよ。って思う」
冷やかしはするけど本当に見たいわけじゃない。
幼馴染の色ボケ姿とか正直きつい。
ただ、北橋が柳田さんのところについて行くことは期待してる。そしたら邪魔な北橋は居なくなって心置きなくユーフェミア様に仕えることができるし。
「柳田さんがなー、せめてあと一年早く王都に来てくれてれば北橋がアザンツ学園に来ることもなかったんだろうけど」
ため息とともにポツリつぶやいた。
「三浦がなー、せめてあと少しでも賢ければユーフェミアに付き添ってアザンツ学園に行くこともなかったんだろうに」
ため息とともに大仰に言われた。
この流れになることはわかりきってるんだし、私から言うのはもうよそう。
まるで私が北橋に心配してほしいかまってちゃんみたいだ。
道の先に、馬車を待つウェンディと柳田さんの姿をみつけ、さっさと話しを変えた。
「ほら、走っていけ、北橋」
北橋の背中をたたく。
北橋は私をにらんだけれど、意外にも素直に走って柳田さんの元へと行った。
歩いたって走ったって時間的にはそう変わらない距離なんだけど、格好だけでも北橋が急いできてくれた方が柳田さん的にうれしいだろうなって思ってね。
歩いて到着した私は、女子二人に挨拶する。
「こんにちは。今日帰られるということでお見送りに参りました」
「わざわざありがとうございます。シノから聞いたんだけど『魔力喰』と遭遇したんですよね? 大丈夫でしたか?」
挨拶とともにウェンディが気づかわしげに尋ねてくる。
「急に現れたときは驚きましたけど、大事ありませんでした。ウェンディ様の方こそ大丈夫でしたか? 王都は混乱の渦に巻き込まれたと聞いています」
「うーん、実はいまいち実感がわかないんですよね」
「と言いますと?」
「友達の屋敷にお邪魔してたんですけど、私も友達も全く気付かなくて。だから帰るときに『魔力喰』が現れてたって聞いてびっくりって感じで」
「それはまた……」
よっぽどのんびり過ごしてたのかな。
ウェンディの級友はおっとり穏やかな方たちが多いから。
「被害も全くなかったんです。ね、シノ」
「ええ。ウェンディと合流するときお邪魔したけどきれいなままだったわ」
あ、いつもの冷静な柳田さんに戻ってる。
「城も魔力のかかった防犯用トピアリーがボロボロになってたってのにすごいな」
「そそそそそそうだね、蒼汰くんの言う通りよ」
戻ってなかった。
顔真っ赤にして爆発しそうになってる。
てか、蒼汰くん、って。
私はニヤニヤしながら肘で北橋の脇腹をつついた。
「やるじゃん」
「うっせ」
北橋は私の腕を払い落とす。そのまま柳田さんの方を向いて、
「気をつけつに越したことはないから。何かあったら連絡して」
と彼氏らしい発言をした。
柳田さんは顔を真っ赤にしたまま必死に首を縦に振る。
「絶対連絡しろよ」
北橋はさらに念を押す。
ここで連絡が途絶えてしまってはまた一からやり直しになりかねないからね。
ウェンディの友人が手配してくれた馬車が到着し、先にウェンディが乗り込む。
柳田さんは少し名残惜しそうにしながら、一歩前に出た。
「じゃあ、あの、またね」
「またな」
北橋は笑って手を振る。
私はその隣で小さく手を振りつつ、そっとため息をついた。
笑って見送るなよ。柳田さんは引き留めてほしそうにしてるぞー。お前ももう少し寂しそうにしろよ。
肝心なところで女心を読み間違える幼馴染に呆れていると、
「志乃。次会えるの楽しみにしてる」
そう言って柳田さんの手を引き、お互いの顔を近づけ────。
……そういや、しないとは言ってなかったね。
感想? そりゃもちろん、
────うわー、まじかこいつ、時と場所を考えてしろよ。
去っていく馬車を見送った後、色ボケ幼馴染にドン引きしながら帰宅した。
第2章終わり。
次回投稿またちょっと空きます。




