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おまけ3【他者視点】

 千紗都に付き添って他校に乗り込んだ時のこと。

 壁際を走っていた俺は突然窓から顔を出してきた女子生徒にぶつかりそうになって足を止めた。


 女子生徒の名前は柳田志乃。


 何やら物音がするから確かめようと思って窓から顔をのぞかせたらしい。

 話し込んでる暇なんてなかったんだけど、目があった瞬間真っ赤になった顔と俺が話しかけるたび嬉しそうに笑う顔がかわいくて、つい長居をしてしまった。

 気づけば俺は次会う約束をし、数回あった後、告白するまでになっていた。

 最初の方はうまくやれていたと思う。

 でも徐々に志乃の態度が硬化し、理由もわからないままフラれた。


「────わかった、別れよう」


 別れたいと言った志乃の言葉にそう答えたとき、志乃の顔はどこかうれしそうに見えた。

 思えば、志乃は最初から俺のことが好きじゃなかったのかも。

 初対面の相手には人当たり良くふるまうものだし、顔が真っ赤に見えたのだってきっと夕日のせいだったんだ。


 友人たちから、


「なんでフラれたんだ?」


 なんて聞かれても俺自身わかってないから、


「俺のせいだよ」


 としか答えられない。


 その後告られて付き合った女の子たちが一様に、


「三浦さんと私、どっちが好きなの! 私が好きなら三浦さんと縁を切ってよ」


 と言ってきたので、志乃ももしかしたら千紗都のことで別れを切り出したのかもしれないと思い至った。


 俺としては、最大限彼女たちを優先してたつもりなんだけどなあ。

 ある彼女の時なんか千紗都と一切口きかなかったくらいだし。

 でもフラれる。


 あーあ、どこで間違うんだろうな、俺。



☆★☆

「これ以上話しややこしくしないためにバラしとく。柳田さん、あんたのこと好きすぎて本心出せないだけだから」


 志乃にこれ以上ないほど拒絶された俺に対し、千紗都は投げやり口調でそう言った。


「いいよ、慰めてくんなくても。付き合ってるころからあんな感じだったんだ。嫌われてんだよ、俺」


「慰めとかじゃなく本当なんだって」


「じゃあ、俺に対して事あるごとに舌打ちするのもため息つくのもつまんなそうにそっぽ向くのも全部照れ隠しだってのか?」


「……、……、…………、……ソウダヨ」


「目泳いでんぞ」


 嘘つくならつくで、つきとおせよな。


「ゴメン。もしかしたら本当の本当はあんたのこと嫌いなのかも」


「余計むなしくなる」


 まあ、こいつはこいつなりに恋愛経験値を活かして元気づけようとしてくれたんだ。

 ただちょっと経験値が欠片もないってだけなんだ。

 邪険に扱うのはかわいそうだろ。


「志乃を探しに行く」


「じゃあ私は一応大人の人連れてこようか?」


「あんまり大事にするのもなあ」


「それもそっか」


 千紗都はわかってんだかわかってないんだかわからなくなるような気の抜けた声で返事をする。


「じゃあ一緒に探そう。いい? 柳田さんを見つけたらギュッと抱きしめてブチュッとかませばそれで解決だから!」


 あ、だめだこれ。

 全然わかってねえ。


 前を歩き出した千紗都の背を見て、ため息をつく。


 んな方法で解決するわけないだろ。人の元カノを何だと思ってるんだ。

 呆れつつ、俺も千紗都と並んで歩く。


「────志乃の好きな奴ってどんな奴だろうな」


「お前」


「今の好きな奴だよ」


「お前」


「あのなあ、人の話を」


「あ、ゴメン。先行ってて」


 俺の話を遮り、千紗都は通信玉を取り出した。


「どうされましたか? ────え、はい、────はい」


 電話の対応からして相手はユーフェミアか?


 どんどん表情が険しくなってるけど大丈夫かよ。

 何話してんのか気になるけど、志乃の方も心配なので千紗都に従って先に行く。

 一応、後で千紗都が追ってこれるよう木に目印はつけとこう。


 指先に魔力を込めたその瞬間、


「北橋っ、魔力を消せ!」


 千紗都の怒鳴り声が俺を制止する。


 振り向けば、すごい形相で走ってくる千紗都が。千紗都の後ろには生気をなくした複数の男どももいやがる。


 事情はよくわかんねえけど────。 


「伏せろ、三浦!」


「バッ、だから魔力は────」


「くらえっ、『炎石墜』!」


 手のひらを前に向け、術を発動する。


 当たれば炎をまとった巨大な爪でひっかかれたような傷を負わせることができるが、これはあくまで威嚇なので当たらない。


 呪文を唱えず術を発動させるのが良しとされるこの世界であえて呪文を唱える場合、呪文を唱える時間的余裕を見せまだまだ本気じゃないと暗に伝えるためか、魔力を最大限に練り上げ一生に一度級の大技へと昇華させるかのどちらかとなる。


 俺のは前者。


 男たちをひるませるためのものだったんだ、が、


「なっ!」


 男たちは、当たらないように発動した術に自ら突っ込んでいき、術を、食べた。


 どういう理屈なのかはわからない。


 ただ男たちが口を大きく開けてゴクンと飲み込むさまは「食べた」としか表現のしようがなかった。


「口の中を怪我するんじゃ……」


「のんきなこと言ってる場合じゃないっ。あいつらは一度出された術を口に入れることで魔力に戻して自分の糧にしてんの」


 困惑する俺に、千紗都が言う。


「口の中で魔力に……?」


 いや、言わんとすることはわかる。

 吸収術はあるからな。

 ただ吸収術の多くは魔力に戻してから体内に入れるものだ。

 あいつらは体内に入れてから魔力に戻してる。

 つまり術をくらった後でも魔力に戻せるということ。純粋な体術以外、敵を回復させるものでしかないってことだ。


「面倒だな」


 俺と千紗都は男たちと相対し、いつでも戦闘に入れるよう身構える。

 一方で男たちはまるで何もないかのようにただ生気なく突っ立っていた。


「やる気あんのか、あいつら」


「やる気出されたら困るでしょ」


「山賊、じゃないよな?」


「ユーフェミア様によると突然王都に現れた謎の集団だそうよ。魔力に反応して襲い掛かってくるんだとか」


 なるほどな。

 こっちがしかけなければ問題はないってことか。


「一応聞いとくけど、人間だろうな?」


「……調査中よ」


 見た目は人間。

 瘴気を発してないから魔物じゃない。

 でも、雰囲気とか意思疎通できなさそうなところとか明らかに魔物だ。

 だがもしかしたら人間かもしれない。


 どうしたもんかな……。


 状況から言って正当防衛範囲内だとは思うけど。……ショウに世話になってる手前、問題起こして面倒かけたくないんだよなあ。


 ちらりと隣に立つ千紗都を見る。


「な、何?」


「ちょっと癇癪起こして暴れて返り討ちにあってくれないか? そしたら助けるって名目ができる」


「お前が行けっ!」


 千紗都は俺をぶん殴ろうと手に魔力を込めた。

 当然、男たちが襲い掛かってくる。

 幼馴染とじゃれあってたら男たちが突然突っかかってきたんだから────。


「正当防衛だな!」


 ひらりと飛んで男たちの攻撃を避け、逆に男たちの顔を蹴って吹っ飛ばした。

 魔力を使わない純粋な蹴りだけどいけるもんだ。

 着地した俺は千紗都からの攻撃もすいすいっと避けた。


「何すんだよ」


「あんた、私を囮に使ったろ」


「こっちから手を出すことはできないからな」


 出したのは足だったけど。


 何か言われたとき「ムコウガ コウゲキ シテキタ。オレタチ ジブンノミヲ マモッタダケ。ワルクナイ」って唱え続ければ良いようにしたんだよ。

 俺たち十歳の子供だしぃ。


 何にしても山の中は危険だ。さっさと志乃を保護して安全なところに戻ろう。


「治安維持署に頼るか」


 志乃の捜索に大人の手を借りようと通信玉を取り出したら、


「待った! ダメ、まずい!」


 と、千紗都が血相変えて止めてきた。


「なんだよ。治安維持署に何か不都合が……、……もしかして通信機の魔力にも反応するのか?」


「する。私もやられた」


 千紗都は少しひびの入った通信玉を見せる。


 あー……、通信玉は魔力を使うもんなあ。

 やっぱり自分たちで探すしかないか。

 志乃、頼むから魔力を使うなよ!

 心の中で強く願う。


「キャアアアアッ!」


「……」


 願いは一瞬にして無に帰した。

 遠くの方から志乃の悲鳴が聞こえてくる。


「柳田さんは自らを不幸に追いやる天才なんじゃ……」


「言ってる場合か。志乃を助けに行くぞ!」




☆★☆

 志乃がいたのは崖の下だった。

 さっきの悲鳴は襲われたからじゃなく、足を滑らせたからだったらしい。

 遠目から見る分には目立った外傷もなさそうだ。

 俺たち一応七歳までアズリの里の神域で神様から魔術の手ほどき受けてたんだから当然か。

 詳しく様子を見たいけど……、


「三浦、頼んだ」


 俺が声かけると無視する可能性があるから……。


 千紗都は一瞬俺に憐れむような視線をよこしたが、すぐに下を見下ろして志乃に声をかける。

 俺は数歩下がって、志乃から姿が見えないようにする。


「柳田さーん。大丈夫―?」


「平気よー。北橋君は?」


 ん? 俺?

 心配、してくれてんのか?


「北橋はいない。消えた。一人で登れそう?」


 もっと話を聞きたかったけど、千紗都に雑に存在を消され聞けなくなる。


「多分大丈夫よ。私なんかより北橋君の捜索を優先して!」


 やっぱり心配してくれてる。

 姿を見せて安心させようと前に踏み出したところで、


「まだ早い」


 千紗都に止められた。


「崖を登りきってからだ。今じゃない。今、姿を見せると自害する恐れがある。待つんだ。細心の注意を払って接しろ」 


 ふざけた口調なのに態度だけは真剣。

 千紗都の言うことを信じたわけじゃないけど一応姿を見せないように後ろに下がれば、千紗都はそれでいいという風に首を縦に振る。


「? どうしたの三浦さん、後ろに誰かいるの?」


 千紗都の行動でバレバレじゃねーか。

 千紗都は慌ててがけ下に向かって手を横に振る。


「いないいない。誰もいない!」


「……本当に? 本当にいないの?」


 姿は見えないのに声だけで志乃の機嫌が悪くなっていくのがわかる。


「もし北橋君がいたら────」


「いないってば! それより王都に魔力を食らう得体のしれない集団が現れたらしくて避難勧告が出てるんなって! 私もユーフェミア様、……えっと私のご主人様に来るよう言われたから柳田さんも一緒に行こう!」


 千紗都は話を強引に反らし合流を試みる。


 一応俺も通信玉を確認してみたけど、俺のには何も連絡が入っていなかった。

 ショウから連絡があるかもと思ったけど今頃城は大混乱だろうし、仕方ないか。

 どの学校でも魔術の授業が設けられているほどの魔術立国で、魔術の使えない敵が現れるなんて破滅に等しいぞ。


 魔力を使わない倒し方でないと────。


「……三浦、先に戻っててくれ」


「は? 何? 今話しかけられると困────あ、違うの、柳田さん。これは独り言で! 虫がね、近くにいたから、シッシッ」


「俺が直接話すから」


 俺と志乃との間でオロオロする千紗都の横に立ち、崖下の志乃へと姿を見せた。


「きききき北橋君⁉」


 志乃が目に見えて動揺する。

 いつも落ち着いている志乃には珍しい表情だ。


「ちょ、北橋────」


「俺と志乃、二人で話す。三浦は先に戻っててくれ」


「何言って」


「頼むから」


「………、…………………、……、…………、………………失敗すんなよ」


 三浦はかなり考えたようだけど最終的には納得して先に街へと走って戻って行った。

 つうかまじで長く考えたな。

 おかげで志乃がまた逃げ出してるじゃねえか。


 崖から飛び降りて、力を使い、志乃の目の前へと着地する。


「!」


「俺が嫌なのはわかってるけど、今だけは話を聞いてくれないか」


 すかさず方向転換した志乃の腕をつかみ、強制的に俺の方を向かせた。

 志乃は怒りで顔を真っ赤にしながら俺と目を合わさないようそっぽを向く。


「な、なな、何の、用なの?」


 声が震えてる。

 俺につかまったのがそんなに屈辱かよ。


「もうちょっと我慢しててくれ」


 志乃を抱き寄せ、


「『刃破』!」


 遠くの木に向かって風の刃を放つ。

 と、


「────!」


 刃が木に当たるよりも早く例の奴が一体現れ刃を食った。


「あれがさっき三浦の言った魔力を食うやつだ。あいつを倒す方法を試したいんだけど」


「あわわわわあわわあわあわあわわわわわわあわわわわああわわ」


「え、志乃! おい!」


 志乃が俺の腕の中で目を回して正気を失っていた。


「おい! おい!」


「はわはあわわわ」


「しっかりしろって!」


 両肩を掴んで激しく揺さぶってみるが効果はない。

 魔力を食うやつがそんなに衝撃だったか?

 普段落ち着いてる奴ほど急な出来事に弱いってのは本当のようだな。


 仕方ない、作戦変更だ!


 とりあえず志乃が混乱して逃げ出さないようしっかり捕まえて相手の出方をうかがう。

 頼む、いったん止まってくれ。


「……」


「はわわわあ」


「────」


「……」


 ……どうやら魔力の出どころを探って無意味に暴れるってのはなさそうだな。

 次また魔力を使うまで奴は不動。

 魔力には転移魔術でも使ってんのかっていうぐらい素早い反応を見せたくせに志乃がこんだけ声出しても反応しないのは謎だ。


 が、まあ、それで助かってんだから別にいい。


 奴に狙いを定め、再び撃つ。


「『刃破』!」


 さっきと同じ術。


 当たってくれ!


 魔力喰に向かって放たれた風の刃はまっすぐ進み、直撃した。


「やった!」


 食われてない。

 相手は倒れた。

 成功だ!


 五分五分以下の賭けだっただけに心から安堵する。


 難しく考える必要はない。魔力がダメなら魔力以外を使えば良いという話だ。

 敵の様子を見たいんだけど、その前に、


「志乃、しっかり」


 志乃の頬をぺちぺちと叩いて正気に戻るよう促す。


「はわ、はわ」


「志乃。志乃、おーい、志────」


 あ、もしかしてこいつ俺に名前を呼ばれてることにも拒否反応示してんじゃ……。

 フった相手から昔のように呼ばれてるって正直きついよな。


「……や、柳田ー」


 呼び方を変えてもう一度話しかける。


 その瞬間、ガッと腕を掴まれた。


 もしかして名字で呼ばれるのも嫌とか────。


「志乃」


「へ?」


「志乃って呼んで!」


 柳田が顔を真っ赤にして訴える。


 その顔がかわいくて俺は、あー、


「……志乃が嫌じゃないなら」


 あっさり呼び方を元に戻した。


 志乃は目を細め嬉しそうに笑う。


「北橋君に名前を呼ばれるの好きよ」


「お、おお」


 まだ混乱してるのか?

 志乃がこんなこと言うはずない。

 けど、まあ、俺的には嫌いでわかれたわけじゃないんだし好きだと言われるのはやぶさかではない。────よしっ、このままでいてもらおう!


「えっと志乃。志乃にも協力してほしいんだけどあいつに術をうってくれないか」


「死体蹴り?」


「酷だってんなら別のところでいい。ただし魔力じゃなくて神力で」


「?」


 志乃は怪訝そうな顔をしながらも言う通りにしてくれる。

 いったん心を落ち着かせ、深く息を吸い、普段奥底に潜ませている神秘の力を使って術を発動させた。


「『水縛流』!」


 志乃は手を前にかざし水縄で敵を縛り上げる。


「これでいいの?」


「ああ。俺以外でも試しておきたかったんだ」


 やっぱり本当に魔力のみに反応するんだな。

 きつく縛られているはずなのに何の抵抗もしない。


 以前セシルから「魔術は神が許す範囲において使用できる術だ。学校行ってない君たちは知らないだろうけど」的な説明をされたことがあるが、俺だってそのくらい知ってる。


 神から与えられた力が魔力。

 神が使う力が神力。


 文字通り神にしか使えない力だけど、俺たち転移者は神に準ずるものとして神力が使える。


 ぶっちゃけ魔力だろうが神力だろうが出る術は一緒だし神力のほうが使用後の疲労感半端なくて使う必要性を感じなかったんだけど、


『きっと何かの役に立つだろう』


 って言った神の言葉は正しかったわけだ。


 ショウにも千紗都にも言ってない奥の手ってやつだな。


「これが王都中にいるのよね?」


 志乃が言う。

 あんなに混乱してたのに話はちゃんと聞いてたのか。


「ウェンディには世話になってるの。あの子が襲われてるんなら助けに行く」


「待て待て。奥の手はむやみに人にさらさないから格好いいんだろ」


 これで俺たちが街中に行ったんじゃ千紗都を遠ざけた意味がなくなる。


「俺の神力を使って王都中に散らばるあいつらを一気に止める」


「一気に、ってここから⁉」


「わざわざ出向いて一体ずつ倒すより断然早い」


「む、無茶を……」


 志乃は驚きあきれたような表情を浮かべた後、そっと俺の手を握ってきた。


「志乃?」


「す、少しなら私も役に立てるかと思って。触れてたほうが力を合わせる感覚をつかみやすいし、別につなぎたかったわけじゃなくて、だいたいっ、私は北橋君のことなんか好きじゃないんだから!」


 ここにきてまさかのキャラ変。


 一周まわって何かの罠じゃないかと疑いたくなる豹変ぶりだな。

 志乃といい千紗都といいこの世界は女子の性格を変える何かがあるんだろうか。それとも違う場所に来て本来の性格が出たか。


「志乃」


「な、何?」


「俺たちにはもっとお互いを理解する時間が必要だったのかもな」


 ん、いや、この言い方だと別れを告げる直前のセリフに聞こえるな。

 そうじゃなくて、


「俺のことも名前で呼んでくれると嬉しいんだけど」


 次につながる一歩を。


「────蒼汰くん」


 志乃の照れくさそうな声に相好を崩しながら、神の力を発動する。


柳田さんから北橋君へ質問

「あ、あの、逃げる私を捕まえるのに抱きしめる必要はあったのでしょうか?」


北橋君の回答

「俺が抱きしめたかったので、必要はあります」

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