05
ショウを殴り倒しユーフェミア様のお付きになってから早一週間。
子供用メイド服がないのでユーフェミア様の白いドレスと、メイドの娘が使用していた子供用の黒いエプロンをつけて過ごしている。
私が働くことに対し、周囲の反応はおおむね良好だ。
勤続年数の長い使用人は子や孫を見る目で、十代から二十代の使用人は妹を見る目で見守ってくれる。
曰く、
「子供がちょこまか仕事してる姿は和む」
そうなのである。
前世の私も親戚のちびちゃんが叔母さんの手伝いをしているのを見てかわいいと思ったものだ。自分自身は「あんたも手伝いなさい」と母に怒られてたけど。
でも、前世は一人っ子、現世も一番上なので妹扱いはちょっとくすぐったい。
そんな中でとりわけ私をかわいがってくれて指導係にまでなってくれたのはこの間の若いメイドさん、マオ先輩。黒髪に緑色の眼をした出るとこ出てるかわいくてきれいな人だ。今年十八になるということらしいけど、笑うともう少し幼く見える。
今もマオ先輩と一緒に洗濯されたシーツを運んでいる。
「実家の近所にミラちゃんと同じ年の女の子がいてね、その子と遊んでたの思い出すなあ」
「マオ先輩の実家はどちらなんですか?」
「んー、アズリの里ていうんだけど、知ってる?」
アズリの里!
知ってますとも!
なんたって『花咲く国のティナ』の主人公ティナの故郷ですから。
ティナって子がいますよねー、毎年春に里の人だけで桜まつりするんですよねー、里の奥に神様が眠ってるんですよねー、王国特別自治区なんですよねー、なんてアズリの里の知識が次々出てくるけど、これはマンガ読者だから知ってることでミラが知ってたら変なことだよね。自治領の件なんて未来のことだし。
下手に知ってますアピールするより、知らないということにしておいたほうがいいかもしれない。
マオ先輩の質問に眉尻を下げて困ったように首を横に振る。
その反応を見てマオ先輩は、
「だよねー」
と、笑った。
「ど田舎だもん。花がたくさん咲いて自然豊かっていえば聞こえはいいけど、なんにもないし」
一見田舎の愚痴のようだけどマオ先輩の口調や表情は明るく、本当は好きなんだろうなというのが伝わってくる。
「あ、でも、ひとつ自慢できることがあった」
アズリの里の欠点をいくつか挙げた後、マオ先輩は口角を上げる。
「うちの里は美人が多い!」
「おお……」
マオ先輩の発言に感嘆の言葉しか出なかった。いや、割とすんなり納得できる自慢である。
マオ先輩は言わずもがな、主人公のティナも平凡設定でありながらここぞというときに周囲を魅了するかわいさを持っている。
ティナに関して補足しておくと、自称平凡、敵キャラや素直になれない系ツンデレ男子からはブスといわれる一方で友人やお姉さんキャラ、主要男性陣からはかわいいと思われ言われ、着飾ればモブがほぉと顔を赤く染めるが、平時は素通りされるという判断に困る扱いをされている。作者もあえて言及してないし、各々の判断に任せますってことなんだと思う。
え、私からの評価? そんなのもちろんかわいい一択。
え、え、ユーフェミア様からの評価? そんなの当然ブス一択。
なにせユーフェミア様は生粋の敵キャラですから。
あ、アズリの里の美人といえば、もう一人代表的な人がいた。
マオ先輩を見て言う。
「第二王妃、シノ様ですね!」
「正解!」
マオ先輩は、よくできましたと私の頭をなでてくれた。
「私も直接お会いしたことはないんだけど、シノ様の美しさは里でも有名でね、国王陛下に見初められて王妃になるって聞いたときには、里中さもありなんって感じだったんだよ」
「すごいですよね。建国記念のパレードを見に来たら、一瞬目が合っただけの国王様に惚れられて後日求婚されたんですから」
「そうっ! うちの里の誉れだよ」
「マオ先輩はないんですか? 一目ぼれからの告白」
「え、んー、私一目ぼれはしないほうだから」
されたほうを聞いたつもりだったんだけど、意外と天然なのかな。
「ミラちゃんは?」
「私もないですね」
したことも、されたことも。
嘘偽りなく普通の顔です。
「この間いらしてたショウ王子はシノ殿下のご子息ですよね?」
「そうよ。ハワード様のご友人ということでよくいらっしゃるの」
「シノ殿下は温和で人の好さそうな印象があるんですけど、ショウ王子は、なんといいますか、こう」
「あまり笑わない方よね」
不愛想で可愛げがないという言葉を察して、マオ先輩が言い換えてくれる。
笑わない理由としては、美しさだけで王の寵愛を受けている田舎娘の子供でありながら見目好く頭もよく武術魔術にたけた国の頂点に立つにふさわしい理想的な能力を持って生まれたため、幼少時より様々な思惑を持つ大人たちにやっかまれ巻き込れ、スレてしまったから。
原作愛読者なのでそのくらい知ってるんだけど、
「もっと笑えばいいのに」
ユーフェミア様に対する態度が気に入らない。
ティナと会って表情豊かになるまであと六年はあるわけでしょ。ハワードの友人ってことでたびたびユーフェミア様の前に現れては興味のない態度をとってユーフェミア様を怒らせるだけの存在があと六年続くのはつらい。
そんなユーフェミア様至上主義の私の考えを、マオ先輩は違うように受け取って口角を上げた。
「ショウ王子のことが気になるのかな」
ニヤニヤと人をからかう笑みである。
「全然違います」
「そう? 普段笑わない人の笑顔が見たいなんて言うからてっきり」
「違います」
「でも普段見せない表情を見たらドキッとしちゃうかもよ」
「ショウ王子相手にそれはありません。────マオ先輩はあるんですか、ドキッとしたこと?」
意趣返しだ。
マオ先輩は一瞬きょとんとした顔をした後、目を細め、口元に人差し指をあてて言った。
「秘密」
その妖艶なしぐさと笑みに思わずドキッとしてしまった。
くそー、さっきまで明るくかわいい感じだったのに、急に十八歳の色気を見せつけてくるのずるいぞ、先輩。
そしてちょろいな、私。
ギャップ萌え万歳だ。




