04
扉の前で素振りしてたらまたもや扉が開いて、ショウにばっちり姿を見られて、頭真っ白になって、気が付いたら、ショウの頭に剣を思い切りぶつけた自分と頭を強打され気絶して床に倒れこんだショウがいた。
「あ、あ、あの、大丈夫ですか!」
剣を放り投げ、慌てて声をかけるも返事はない。
体を揺さぶっても反応はない。
ヤバイ。
「っ!」
とにかく人を呼びに行こう。
部屋を出て、誰かいないか走り出す。
途中で見つかれば御の字。そうでなくても本館一階まで行けばユーフェミア様のお父上がいらっしゃる。
とにかく走って、走って、
「あ」
曲がり角を曲がったところで、ユーフェミア様とハワードを見つけた。
「あ、あのっ!」
声を上げて二人に話しかける。
二人は私のほうを向いて、
「なんですの、あなた」
ユーフェミア様は眉をひそめながら、
「どうしたの?」
ハワードは驚いたように、それぞれ頭に疑問符を浮かべる。
「その、ショウ……様が、えっと、倒れて」
「ショウが?」
「はい。それで起きなくて、人を呼ぼうと、あの」
「わかった、行ってみるよ」
ハワードは落ち着いた声音で私に言い、すぐさま部屋へと向かってくれた。私もその横を走る。ユーフェミア様はつまらなさそうな顔で後ろを歩いてついてきていた。
二人がいたところから犯行現場まではすぐ近く。
ハワードは、部屋の中に頭を向けた状態でうつぶせに倒れているショウの様子を観察する。
「頭を一撃、だね」
冷静な状況判断。
「あの、どうすれば、お医者様お呼びしたほうが、あの」
「落ち着いて。このくらいならすぐ治るよ」
「でも……」
「ユーフェミア」
焦る私をよそにハワードはユーフェミア様を呼ぶ。
「わかったわよ」
ユーフェミア様は面倒くさそうに返事をして、本意ではないという態度を全面に出しながらショウの近くにかがんだ。
「どう?」
ハワードがユーフェミア様に尋ねる。
ユーフェミア様はショウを一瞥した後、ため息交じりにこたえた。
「このくらいどうってことないわ」
そういって、ショウの頭部に両手をかざす。
ユーフェミア様が静かに息を吐きだすとユーフェミア様の手に青い光が集まり、
「『レ・ナ・ドーレ』」
ユーフェミア様が呪文を唱えると光はショウの身体をつつみこむように移動し、すぅっと染み込むように消えた。
ショウがピクリと反応する。
「これでいいはずよ。しばらくしたら目が覚めるわ」
「い、今のは……」
「魔術よ。あなたそんなことも知らないの」
ユーフェミア様はきつい口調で私に言う。
「ユーフェミアは治癒術が得意なんだ。知ってるかな、シフォール学園って魔術師の学校。ユーフェミアはそこに通ってるんだよ。あそこは治癒術特化の学校だから」
ハワードが補足を入れてくれる。
でも私の頭には疑問符がうかんでいた。
シフォール学園?
そりゃ、私でも名前くらいは知ってるけど、でも、アザンツ学園じゃなくて?
『花ティナ』の初期舞台はアザンツ学園で、ユーフェミアもそこの生徒だったのに?
私の疑問を、シフォール学園を知らないからだと判断したらしいユーフェミア様はフンッと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「シフォールなんて二番手校を知ってもらっててもこっちがうれしくないわ。どうせみんな興味があるのは一番だけよ」
「あ、いえ、そういうわけでは」
「そんなことより、なんでショウが倒れているわけ?」
弁解の余地もなく、ユーフェミア様は疑問をぶつけてくる。
「そ、それは……」
正直、シフォール学園の時より説明が難しいぞ。
覗いてたのがばれて、隠れてたのに見つかって、勢い余って殴り倒したなんて。
……でも、そのままいうしかないよね。
「あの、私が殴り倒してしまいまして」
「殴り倒した? どうして?」
ハワードが当然の疑問を口にする。
一方ユーフェミア様は、
「やるじゃない、あなた!」
先ほどまでの表情とは一転、顔を輝かせて私をほめた。
「あなた、私がこの間拾った子よね。私の見る目が正しかったってことだわ。今後は私についてきなさい」
殴り倒した理由なんて興味ないと言わんばかりの態度で話をどんどん進めていく。
「ちょっと、ユーフェミア。まだ理由も聞いてないのにそんな」
まともな判断力を持っているハワードはもちろん止める。
ユーフェミア様は鼻をふんと鳴らして、ハワードの言葉を一蹴した。
「そんなの決まってるじゃない。ショウが嫌いだからよ」
「え」
「私も常々、陰険で話しづらくて尊大な態度のこの男を殴りたいと思っていたわ」
「君、第二王子にそんなことを思ってたの……?」
「当然よ。あなたの友人だから実行しなかっただけ。隙も無かったしね」
「……」
「それをやってのけるなんて、素晴らしい逸材だわ。私のそばに置くにふさわしい存在よ」
私が何も言っていないのに、ユーフェミア様は一人で納得して一人で話を進めていく。
これ、私的には説明しなくて助かったって感じなんだけど、ユーフェミア様的には自ら死地に向かっている状態なのでは。
ユーフェミア様を助けるどころか追い詰めてしまってる。
誤解を解かねば!
「ち、違います。ショウ王子が嫌いだからという理由ではなく、私の落ち着きのなさと確認不足によるものでして」
「あらそうなの。まあそんなの別にどうだっていいわ。重要なのはあなたが私の嫌いな人物を殴り倒したという事実だけよ」
「……」
いや、あの、フォローしたのを突っぱねないでください。
婚約者のハワードがちょっと引いてますよ。
「あなた名前は?」
「ミラ・ヴェスタと申します」
「そう。知ってると思うけど私はユーフェミア・レイズコットよ。よろしくね」
「よ、よろしくお願いします」
ユーフェミア様は楽しそうに私の手を握る。
これはいいのでしょうか、とハワードに視線を向けるとハワードは眉をしかめながら、困った、と返してきた。
この場を収拾できるのはあなただけなんだからしっかりしてください。
どうしたものか考えあぐねていると、
「っつ────」
頭を押さえながら、ショウが体を起こした。
「よかった。意識が戻ったんだね」
「もう少し寝てたほうがよろしいのではありませんか?」
ハワードが安心したように、ユーフェミア様が不満そうに、ショウに声をかける。
「……」
ショウはあたりを見回した後、視線だけでハワードに説明を求めた。ハワードは律義にそれにこたえる。
「この子がショウを殴ったみたいで、気絶してたんだ」
「私が治して差し上げましたのよ」
「殴った? こいつが、俺を?」
ショウがぎろりと私をにらむ。その目に私は反射的に頭を下げていた。
「すみませんでした! 申し開きのしようもありません!」
「この子はまだ慣れない環境で戸惑っているの。私の顔に免じて許してくださいませんか?」
「お前、名前は?」
「ミラ・ヴェスタと申します」
気分は蛇ににらまれた蛙。頭のてっぺんから足のつま先まで全身品定めされている感覚に耐え、ショウの言葉を待つ。
「……」
「……」
「……」
「……」
「…………帰る」
ショウは立ち上がり興味ないといった表情でそう言った。
思わず安堵の息が漏れる。
多分一秒にも見たいない短い時間だったんだろうけど、すんごい長く感じた。この場を去ろうとするショウにホントに本当に安心感を覚える。
「お帰りなるの? とてもうれしいわ。ごきげんよう」
隣でユーフェミア様が楽しそうに手を振るが、ショウはそれを無視して歩を進める。
「あのっ、本当に申し訳ありませんでした!」
受け入れてもらえないだろうとは思いつつ、もう一度頭を下げる。ショウは二、三歩進んだ後ぴたりと立ち止まってこちらを振り返り、冷ややかな表情で、
「未練は早々に立ち切ったほうがいい」
と、だけ告げた。その後はハワードが止めるのも聞かず帰路へとつく。
えっと、未練?
何のこと?
衣食住を与えてもらって幸せ絶頂の今、一年に及ぶ路上生活はもちろん、私を捨てた家族との暮らしに何の未練もないんだけど────、って、あっ、あいつもしかして私のことを死んだ後もさまよい続ける幽霊か何かだと思ってるんじゃないでしょうね!
私は人間だっての。
腹立つな、もう。
…………でも、怒り心頭ってほどじゃない。
隣に立つ人がすごいから。
「殺すっ、……絶対、殺す!」
三回も無視され続け怒髪天をついたユーフェミア様は鬼のような形相でショウが去った方向をにらんでいた。
ショウがユーフェミア様を亡きものにするのが早いか、ユーフェミア様がショウに手をかけるのが早いか、命を懸けたチキンレースが幕を上げる────────なんてことを未然に防ぐためにいるのでユーフェミア様をなだめます。




