他者視点詰め合わせその4
④アイリス・オグフォーン
姉と友人に『あだ名付き』を持つ私の元へは毎日のように人が来る。
「これ、『問題児』に渡してください」
「これを『天使』に」
「実は『あだ名付き』のお二方に解決してほしい問題が……」
大抵はこのような内容。
前者二つに関しては専用の箱を用意しているのでそこに入れてもらい、後者に関しては、
「これを飲めば嫌なこと全部忘れられますよ」
と、薬を渡している。
そんなある日のこと、
「校内で怪しげな薬売るの禁止」
セシルに直々に怒られた。
「教師からの許可はもらってるけど」
「教師が許しても僕が許してないから!」
「なんで急にまた」
「イーリのせいで危うく媚薬を飲まされるところだったんだよ!」
「ああ、なるほど」
そういえば上級生の女子生徒に売ったなあ。
たとえ無理やり飲まされても相手への気持ちがなければ単なる水でしかないところまで改良できたから売ったんだけど、セシルに飲ませるとわかってれば実験も兼ねて別の効果の媚薬を渡してたのに。
惜しいことをした。
「あー、その顔! 絶対反省してない!」
セシルがキィキィと叫ぶ。
「まあまあ、落ち着いて。これでも飲む?」
「どうせそれも危ない薬だろ!」
地団太踏み出した。
ちなみに一滴口にした時点で眠りにつく超強力眠り薬なので正解だ。
ゆくゆくは魔物にのみ有効な眠り薬に仕上げたいんだけど、実験体が少なくて難航している。
「いい加減にしないと本当の本当に僕の権限で薬売るの禁止にするよ!」
「え、それは困る……」
「ていうか、なんで売るの? お金に困ってるんなら僕が────」
「やめて。それをされたら友達じゃなくなる。セシルとは対等な友達でいたい」
「イーリ、好きっ!」
はんっ、ちょろい。
将来のため、今のうちから顧客を抱えておきたい。
それにここで売るのを禁止されたら、校内で薬を作るただの怪しい人になってしまう。売って、みんなに知ってもらうことで堂々と作れるのだ。
「ハ~、媚薬なんかに頼らなくてもイーリが嫁き遅れたときは僕がちゃーんと引き取ってあげるからね」
「多分、私、セシルより結婚早いよ」
「そのときは盛大に祝ってあげる」
「じゃあお返しにセシルが結婚する時には旦那と一緒に祝うから」
「楽しみにしてるよ」
⑤ウェンディ・ウォールズ
女王の帰還って感じ。
私も結構頑張ったんだけどな。
学年掲示板に張り出された試験の結果を見て、小さくため息をつく。
一 ユーフェミア・レイズコット
その文字は圧倒的な存在感を放っていた。
一応そのすぐ下に私の名前もあるんだけど、どうしても一位の方に目が行ってしまう。
本人に直接おめでとうなんて話しかける勇気はないけどね。そもそも本人は今日来てないし。
なぜか必要以上に落ち込んでいる男の子のそばを通り過ぎながら、自分の教室へと戻る。
これでユーフェミアさんも内進生クラスに移動かあ。
とか考えていたのにまさかの事態が起こった。
☆★☆
二学期終わりの学年集会で内進生クラスへの異動を告げられたユーフェミアさんは、
「ではここで試験一位になったっ権利を活用させていただきます。外進生クラスへ転入させてください」
堂々とそう言い放った。
これには周囲もびっくり。
期末の学年集会は毎回大荒れだ。
「いや、それは……」
「なんでしょうか? 前例がないことではありませんよね。二十年ほど前に内進生クラスから二学級上の外進生クラスへ異動した生徒がいるはずです」
へー、そうなんだ。
調べたのかな、わざわざ。
調べてない先生たちは過去を引き合いに出され、どうしようか古参の先生へと目を向ける。古参の先生は顎を一撫でしてから、
「ああ、『愛の支配者』のことだね。あの時もびっくりさせられたよ。うん。君が彼と同じようにしたいというのならいいんじゃないかなあ。誰も反対できないさ」
楽しそうに笑った。
ユーフェミアさんは当然というように鼻を鳴らす。
よくわからないけど今回はうまく話がまとまったようだ。良かった良かった。
「じゃあ、今回の異動は二位だったウェンディ・ウォールズかディオ・ヴィンノンにしてもらおう」
同率二位だった男の子と名前を呼ばれる。名誉なことではあるんだろうけど内進生クラスでうまくやっていける自信がなかった私は男子生徒に譲りました。
すごく喜ばれたのでこれも良かった良かった。
集会後、ユーフェミアさんと同じクラスの女子生徒が同率二位の男子生徒となにやら話しているのを見かけたけど、女子生徒の目が死んでいるのが気になった。
クラスが離れてさみしいという会話でもしてたのかも。
きっと中の良い二人なんだろうなあ。
⑥おまけ
三学期の間だけ。
その条件で二個下の男の子が同じクラスで授業を受けることになった。
内進生クラスでずっと一位をとり続けてきた名家の坊ちゃんらしくて、先生たちもむげにできなかったらしい。
卒業までもうすぐで、何かしら印象に残る思い出の欲しかった私たちはこぞって連日少年にかまっていた。
とはいっても私は体の弱い方だからみんなのようにははしゃげなかったけど。
輪の端の方で笑っているだけ。
そんなある日。
「あんたがさ、俺にあんまりかかわろうとしないのって興奮すると体調崩すから? それとも単に俺が嫌い?」
外での訓練中暑さで気が朦朧として倒れかけた私を保健室まで運んでくれた少年がそう言った。
ベッドに横たわりながら少年に答える。
「体調崩すからよ」
「じゃあなんで俺が運んだ時嫌そうな顔したんだよ」
「嫌そうな顔だなんて……。……だって、恥ずかしかったんだもの。お姫様抱っこなんて初めてだったし、君は格好いいし……」
「ふーん、ふーん」
余裕ぶった口調でそう相槌討ちながらも顔はとてもうれしそうだった。
「じゃあ俺、授業に戻るから」
「あ、うん。ごめんね、授業中に」
「……ありがとうって言ってほしいんだけど」
「あ、ごめん」
「────ハア。いいよ、別に。これで」
少年はそう言って顔を近づけ、────キスをしていった。
☆★☆
「あの後、熱を出して大変だったのよ」
私が言うと、彼は申し訳なさそうに頬を掻いた。
「若気の至りってやいうつだよ」
世間的に見ればまだまだ若いとされる彼がそう言う。
状況はあの時と同じ。
体調を崩した私がベッドに寝込んでいて、心配した彼がそばにいて、違うとすれば小さなかわいい女の子がいることくらい。
「おいで、ユーフェミア」
私が手を伸ばせば、彼に抱っこされていたユーフェミアが私の元へと来る。
かわいいかわいい私たちの娘。
私がユーフェミアを抱きしめると、ユーフェミアはキャッキャと笑って、
「あのね、ユーミね、ママのこと好きぃ」
とキスをしてきた。
それを見て旦那が笑う。
「さすが僕の娘だ。───いいか、ユーフェミア。好きな物には全力で行くんだぞ。欲しいものは多少無理を押し通しても手に入れるんだ。そのためには強く賢くならなきゃだめだからな」
かつて学園で『愛の支配者』とあだ名された青年が、幼子に教え諭す。
「パパのように?」
「そう。パパのようにだ。なれるか?」
「なる!」
ユーフェミアはまたキャッキャと笑った。
まったく。
彼の暴君度も多少落ち着いたと思ったのに、今度はユーフェミアに手を焼きそう。
でもきっと楽しい毎日よ。
ねえ、ユーフェミア。あなたはパパに似たから大丈夫だと思うけど、とっても大切な言葉だからちゃんと覚えていてね。
直ぐ別の言葉が出てママがなかなか言えないでいた言葉。
ママもちゃんと言うから。
☆★☆
友人の死に際の話を聞けたのは、友人が亡くなって五年ほどたったある日のことだった。
「笑ってたよ。弱いように見えて芯の強い人だったから僕たちに苦しいところを見せたくなかったんだろうね」
私より二つ年下の男性がそう言う。
彼は学生時代の後輩であり、友人の旦那であり、領地に出る魔物を退治しに来た魔術師だ。
国一番の魔術師学校に通っていながら才能を開花させられなかった私はコネづくりの学生時代となったけれど、そのコネが有効に活用できたので結果的に良い学生時代だったといえる。
旦那の死後、領地欲しさに旦那の親戚が送り込んできた魔物はすべて片付いた。
魔物をけしかけていたという証拠も手に入った。
親戚一同には牢に入ってもらう。
忙しい中大した報酬も出せない私の依頼を引き受けてくれた彼と、彼との縁をつないでくれた亡き友人には感謝の言葉しかない。
……感謝か。
「もしかしたら最期に笑っていたのは強がりなんかじゃなく、本当に幸せだったからじゃないかしら。ありがとう、って、思ってたのかも」
なんて、卒業以来ほぼ会えなかった私にわかるはずもないけど。
私の言葉を聞いて彼はくしゃりと笑った。
「だといいな。ごめんじゃなくて、ありがとうって言ってもらえたら幸せだ」
ユーフェミアの父親の年齢を三十後半から三十前半に変更しました
ふわふわな設定でつっぱしることが多々ありますが今後ともよろしくお願いします




