他者視点詰め合わせその3
ナタリーのターン2
最初だけミラ視点です
今まではレイズコット家の使用人寮でマオ先輩と過ごしていたけど、養女になるにあたり本館で暮らすことになった。場所はここに来た当初使っていた部屋。
持ち物なんてほぼない私なので模様替えをすることもなくすんなり部屋移動を行い、浮いた時間でせっせと勉学にいそしんでいた。
アザンツ学園の編入試験に向けた勉強である。
「一年勉強が遅れてる? そんなの関係ないわ。試験に合格して春から私と同じクラスで私と一緒に授業を受けるの。いいわね」
というユーフェミア様のお言葉により、入試ではなく編入試験を受けることと相成りました。
っていうか、勉強の遅れは一年ではないんだよ。
いや、正確な日数は覚えてないしざっくり一年ぐらいであってはいると思うんだけど、ユーフェミア様のいう一年は初等科に入学してからのことをさしてるでしょ。
私の一年は暦通りの一年をさしてるんです。
つまりどういうことかっていうと、ユーフェミア様は私が春に幼年学校を卒業した前提で考えてらっしゃるけど、私は卒業してないんです!
はあ~。
魔術だけでなく基礎学習もしないといけないの辛い。
こんなに勉強したのいつ以来だろ。
前世の入試前?
あの時は頑張ったなあ、……とか考えてると前世の知識が邪魔して勉強が捗らないという悪循環に……。
ちょっと気持ちを切り替えようとベッドに横になったところで通信機に反応があったので応じる。
通信相手はユーフェミア様と同じクラスのナタリーさん。
『お久しぶりです、ミラさん』
「お久しぶりです」
『いきなりですみません。内進生のレイスさんにミラさんの連絡先を教えても』
「ダメです」
ナタリーさんの発言を遮り答える。
もう一回。
「ダメです」
『え、ええ、どうしてですか』
「みだりに殿方に連絡先を教えるものではありません。ふしだらです」
いや、知らないけど。
単純にレイス君に教えるのが嫌。レイス君とかかわるとろくなことがない。
『そうですか……』
ナタリーさんは少し落ち込んだような声を出す。
レイス君がナタリーさんに頼んだのか、ナタリーさんの独断なのかはわからないけどこればっかりは譲れない。
あ、せっかくナタリーさんから連絡が来たんだし、今の学校の様子をちょっと聞いておこうかな。
「そういえば最近学園やクラスはどんな感じですか? 何か楽しいこととかありましたか」
『そうですね……。学年入り混じって全員で魔術を競い合う魔術祭が近々行われるので、クラスのみんな練習にいそしんでいます。大変ではありますけどとても楽しいです』
「ユーフェミア様が好きそうな催しですね」
『ふふ、そうかもしれません。他は────』
ナタリーさんは会話を続けようとして、言い淀む。
「いかがされました?」
『あ、いえ。楽しいことではなかったので。そうですね、他に楽しいことというと、ああ、この間ついにショウ王子に告白なさる方がでましたわ!』
ためらい口調もつかの間、ナタリーさんが何やら興奮気味に報告する。
うーん。まあ、今まで誰もしなかった方が不思議といえば不思議なんで、
「そうでしたか」
としか返せないなあ。
『え、あの、楽しくなかったですか?』
「あ、そんなことないです。でも成就しない恋の話はつらくもありますので」
『……あれ、もしかしてミラさんはこの話ご存じだったんですか?』
「今初めて聞きましたよ」
『ならどうして告白が失敗したとご存じなんですか?』
「え、だってショウ王子が別の誰かを好きになるとは考えにくくて。二心抱く方ではありませんから」
ショウの相手は後にも先にも主人公のティナだけ。
これは誰にも変えることのできない運命なんですよ!
「ところで、もし差し支えなければ先ほど言いかけた楽しくないことも教えていただけると嬉しいです」
『────』
「あれ、もしもし」
『────』
「通信不良でしょうか。あの、ナタリー様?」
『────』
「もしもーし」
『ミラさん』
あ、通じた。
なんだったんだろ、今の不調は。
『ミラさん。私、心の底から応援しています』
「え、あ、はい」
何?
試験勉強のこと?
ナタリーさんには編入のことまだ言ってなかったと思ったけど、ユーフェミア様にでもきいたんかな。
結局ナタリーさんから楽しくない話は聞けないまま、二、三話をして通話を終えた。
☆★☆
少し冷たくなった風に煽られながら、赤や黄色の落ち葉の上を歩いて校舎へと向かいます。
そろそろ冬服の準備を始めなければいけない季節ですね。
ですが、今の私はわずかな寒さではびくともしないほど、心身ともに熱く燃えがっております。
はあ~。
昨日のミラさんとの会話は最高でした。
まさかミラさんのお口から直接ショウ王子とのことが聞けるとは。
しかもショウ王子の心は自分のものだという確かな自信のノロケつき。
私の妄想もなかなか当たるではありませんか。
私、今、最高に幸せで────、
「やあ、おはよう。ナタリー」
あ、今、不幸になりました。どん底に突き落とされました。
なんとか口元に愛想笑いだけ浮かべて、後ろから声をかけてきたディオさんに挨拶します。
「おはようございま……、あれ、セシルさんも一緒だったんですね。おはようございます」
驚いたことにディオさんとセシルさんが一緒に登校していました。
「おはよう」
セシルさんが朗らかに笑い、私にこう尋ねてきます。
「唐突だけどさ、ナタリーは頭のいい男の子ってどう思う?」
「え……。……頭が良いな、と思います」
「……聞き方が悪かったかな。頭のいい男の子は好きかな?」
「ええと、好きですね」
勉強の苦手な少女と天才的頭脳を持つ少年の話は王道ですから。
二人きりの教室で行われる勉強会、育まれる愛、……ええ、やっぱり、大好きです。
「そっかそっか。なら次の試験でディオが一位をとったらディオのこと許してあげて?」
「え?」
話が見えませんわね。
セシルさんの言葉を引き継ぐように、ディオさんがためらいがちに言います。
「その、内進生クラスから降ろされてとても焦ってたんだ。君に愛想つかされたくない一心で他の人を下げるような発言をしていた」
「……」
「これからは他人を引き合いに出さなくても優秀だって言われるよう頑張るから、だから挽回の機会をくれないか」
「……」
…………。
困りました。
正直、ディオさんの行動にはまったく共感できません。
焦っていれば他者を貶していいとお考えなのでしょうか。
貴族たるもの焦っているときこそ心に余裕を持ち相手に悟られないよう……、ああ、ディオさんは貴族ではありませんでしたね。
それにどうせ断れない話なのでしょう。
セシルさんは「許してあげて」といいました。
お願いするような口調ではありますが、支配階級のお願いは命令と同義。
誰につくべきか、どうしたら生き残れるか、没落貴族と呼ばれながらそれでも今まで名を受け継いできた貴族の娘ですもの、ちゃんと承知しております。
「────わかりました」
私が答えれば、ディオさんは嬉しそうに笑いました。
私も笑みを浮かべます。
貴族たるもの外と内の表情を変えねばならないのです。
まあ、ディオさんが一位になるなどまずありえないでしょう。
外進生クラスにはユーフェミアさんがいらっしゃるのですから。
☆★☆
二学期末に行われた試験。
まさかの番狂わせが起こり、ディオさんが内進生クラスに返り咲くことになりました。
「やったぞ、ナタリー! これで、その、君も許してくれるかい?」
「内進生クラスでのご活躍応援しています」
愛想笑いを浮かべます。




