他者視点詰め合わせその1
①北橋蒼汰
そいつは、触れれば手折れてしまいそうな、儚く可憐で愛くるしい容姿をしていた。
名前は三浦千紗都。
俺の幼馴染だ。
物心ついたときから一緒にいるせいで恋愛感情なんてものは一切なかったが、周りからはしょっちゅうからかわれたし、死ぬほどうらやましがられた。
なんせ千紗都のやつ、顔がいい。
千紗都がにこっと愛想笑い浮かべただけでその辺の男子を軒並み陥落させてた。
千紗都が言う、
「彼氏欲しい」
は、単なる高望みだと思ってるやつも多かったろうな。
でも、ちげーんだよ。
千紗都はマジで彼氏できなかった。
遠くで見てる分にはいいんだろうけど近くにいるとどうしてもわっかちゃうからなー、性格。
性格、マジ凶暴だったもんあ。
攻撃することにためらいがないっつーか。
その見た目でなんでそんな行動とるんだよっていう。
なにも習ってないくせに人一人ぶっ飛ばせるだけの腕力持った女って、普通の男子からみりゃドン引きなんだよ。
見た目で惚れて性格及び行動で去っていくやつを何人も見た。
そういや中学校時代、千紗都に一目ぼれした奴の中でやけにしつこいのが一人いたな。他校の不良でガラの悪い友人連れてうちの中学まで乗り込んできたやつ。
何回千紗都に追い返されてもやってくるんで「もしかしたらこいつなら千紗都とつきあえるんじゃ」と思ったけど、千紗都はお気に召さなかったようで「私にも選択肢はある」ってきっぱり断りやがった。
先にも後にも千紗都に告白までしたやつはそいつだけだった。
たった一回のチャンスを千紗都は棒に振ったんだ。
あまりにもしつこいんで最終的には千紗都が木刀持って相手の中学乗りこんで二度と顔を見せないという約束を取り付けるという事態になった。
凶暴な幼馴染に俺も付き合わされて、そこで志乃と会って────、って俺の元カノの話はいいか。
まあ、とにかく、三浦千紗都ってのはそういうやつだったんだ。
それがミラ・ヴェスタになった途端、普通になっちまいやがって。
かわいい幼馴染ってのはな、言わないけど、一生秘めておくけど、結構自慢だったんだぞ!
優越感に浸れるだろ!
セシルにも負けない美少女だったのにさあ。
つーか、なんでこいつはセシルの笑顔によろめいてんだよ。
「ねえ、どうやったらセシルのあの顔見ても平気でいられる?」
じゃねーよ。
お前、日本にいたころ鏡見たことなかったのか?
まったく。美少女耐性つけさせてくれてありがとな。おかげでセシルに惚れずに済んで助かったぜ。人間、顔より中身だ。
その点、お前は最悪だよな。
「私、ユーフェミア様のために生きていきたい」
じゃねーよ。
……あーあ。
バカで単純でけんかっ早くてあほで物覚え悪くて鈍感で集中力なくてコロコロ意見変えてやっぱりバカであほな幼馴染。
それでも俺は一緒に元の世界に戻りたいと思ってんだぞ、ばーか。
②セシル・デトアール
僕らの国では、珍しいことがあると「キントスの花が咲く」と言ってからかう風習がある。
どれだけ大事に育ててもつぼみが花開かないことで有名なキントスも、お前の行動の物珍しさに驚いて花を咲かせるだろうよ、という意味だ。
僕、キントスの花ってみたことないんだよね。
育ててみようかな。
今ならきっときれいな花が咲くよ。
「ね、レイス」
「何が? っていうか、急に人の部屋で植物育てようとするのやめろよな」
レイスは僕が持ってきたキントスの花の植木鉢を見て、不満をあらわにする。
寮の一人部屋で飾り気のないこの部屋に色味を加えてやろうじゃないか。
窓際にしよう。
「……おまえ、本当自由だよな」
「まさか。僕ほど煩わしいことにとらわれてる十歳もいないよ」
「よくいう」
「僕ほど煩わしいことにとらわれてる、十歳も、いないよ」
花をプレゼントした僕は、レイスに詰め寄り笑顔を向ける。
「……あー」
レイスは気まずそうな表情で顔をそらした。
でも逃がしてあーげない。
僕がニコニコ顔で待ってると、レイスは観念してため息交じりに口を開く。
「誕生会行けなくて悪かったな。……その、来年は行くよ」
言質とった!
もし来年も来ないようだったら、ねちねち攻め続けてやろう。
僕の欲しい言葉を言ったレイスにはご褒美にこの花のことを教えてあげる。
「これ、キントスの花だよ。大切に育ててね」
「キ……、俺が学校に来てることの嫌味かよ」
僕の言いたいことを察知したらしく、レイスは顔をさらにしかめる。
嫌味なんてそんな。
「僕はただ二学期始まってからレイスが一度も休んでないの珍しいなって思っただけだよ。しいて言うなら心配してる。どんな気持ちの変化があったわけ?」
「別に。学生が学校来るなんて普通のことだろ」
「えー、レイスも普通って言葉知ってたんだあ!」
「ああ。セシルと反対の行動とれば普通になるんだろ」
「どういういみだよ、それ」
まるで僕が変人みたいじゃないか。
いっとくけど、僕の出席率はとてもいいんだぞ。
「で、どういう風の吹き回しなの?」
「……別に。ただちょっと休み中に、あんまり学校休んでるとやめさせるぞって話になったからちゃんと来てるだけだよ」
「あー、なるほど」
「反対派筆頭の姉さんに戦い挑まれたりミラに協力してもらったり、実は親も学園やめてほしいと思ってることが発覚したり、家族会議に発展したり……、とにかく大変だったんだ。しばらくはイイコでいるよ」
そう答えたレイスの表情は本気で疲れてみえた。
僕もレイスの家のこと詳しく知ってるわけじゃないけど、僕が知らないから魔術師一族じゃないのは確かだしいろいろあるんだろうね。
お疲れのレイスには僕が笑いかけてあげる。さあ、存分癒されな。
「アハハ。いざとなったら僕がレイスの家に乗り込んであげる」
「おまっ、うちで何する気だよ!」
ちょっと、なんで怯えてるんだよ!
「涙ながらに訴えるだけだよ。『レイスは僕の大事な友人なんです。辞めさせないでくださいっ!』ってね」
僕が泣けばたいていの無理は通る。
けっっっして安くはないんだけど友達のために披露してあげるよ。優しい僕に感謝しな。
だってのにレイスはそっけない表情で、
「……ふーん。そりゃどうも」
というだけだった。
なんだよ、こいつ。もっとなんかあるだろ……待って、なんかあるのを必死に抑えてるだけじゃない、これ?
なんかうれしそうな……。
僕が笑いかけたから?
いや、それよりかはそのあとの言葉に反応してた。
えっと、涙ながらに僕がご家族を説得するって話だった。てことはつまり────。
「レイス、もしかして僕の泣いた顔が見たいの……?」
えー、困る。
ちょっと距離置こうかな。
「何の話だよ」
「いひゃいよ、レイヒュ」
頬をつねるなんて何考えてるんだよ。
僕のかわいい顔になにかあったらどうするつもりなんだ、まったく。
「お前、本当わけわからない考え方するよな」
「僕を的確に傷つけるのやめてくれる?」
レイスに言われたくない言葉堂々の一位なんですけど。
内進生とはもう三年以上の付き合いになるけど、イーリとレイスはいまだにわけわかんないことばかり。
二人のそういうところ正直、────すごく好き!
顔が良くて家柄が良くて魔力が強くて頭もいいこの僕を冷たくあしらうなんて、ときめきしかない。
普通僕の頼み断る?
断らないでしょ。
結局断れなくて僕の代わりに仕事する二人の姿、本当最高。
違うんだよ。ケイトは断ったまま断りっぱなしだけど、二人は断れないのわかってて断ってくるから楽しいんだよ。
魔術だってそう。
同世代最強の僕に挑んでくる。
負けるのわかってるくせに。
もう本当かわいい。全力で負かしてやろうって気になる。
まったく。
最初っからお願い聞いとけばいいのに、仕方ないからしてあげるよ、命令。
「レイスは何を隠してるの? 言いな」
「……別に大したことじゃねえよ」
『あだ名付き』の僕に逆らえずレイスは言う。
「ただ、俺たち友達だったんだなって」
「ハア?」
ハアア、何それ、意味わかんないんですけど、わけわかんないんですけど、理解が及ばないんですけど!
今更聞くこと、それ⁉
さすがの僕でもあまりに突き抜けられると相手できなくなるんだからね。
「レイスは今まで僕のことなんだと思ってたの?」
「同級生」
「ハー、信じらんない。こんなにかわいい僕に対して単なる同級生だなんて。寝言は寝て言いなよ」
「かわいいって関係あるか?」
「あるよ。『学園の人気者が俺にだけ親しく話しかけてくる。これって────』みたいな気持ちになるだろ、普通。なのに同級生って」
「お前、俺にそんなこと思ってほしくて話しかけてたのか?」
「普通に友達だと思われてると思って話しかけてたよ」
僕のかわいさは男も女も魅了する。
そのこと自体は気分がいい。
ただ、直接恋愛感情をぶつけてくる男は嫌い。僕は女の子が好き。
だから近くにいても僕に恋だの愛だのをぶつけず普通に話してくれるレイスを気に入ってたのに、まさかその他大勢と一緒にされてたとはね。
僕は脇役扱いも嫌いだよ。
「聞くけど、レイスの友達って誰?」
「えー……、…………、…………」
「せめてアザンツ学園の生徒ぐらい友達枠に入れろよ!」
気まずそうに視線をそらしたレイスの頬をつねる。
もしかしてずっと友達いないていで過ごしてきてたの⁉
「……正直、俺、セシルがいなけりゃ一位になれるのに、消えてくれないかなってずっと思ってたし」
今度は鼻をつまむ。
次失言したらデコピンだ。
「じゃあ今はどう思ってるの?」
次失言したらデコピンだからな。
レイスは他所を向きつつ、少し照れたように言った。
「…………友達」
デコピンがさく裂した。
あ、いや、失言じゃなかったんだけど、なんだか照れくさくて。
僕も普通の男の子だから友情を改めて口に出されると照れちゃうんだよ。
「何が不満なんだよ」
「不満じゃないって。ゴメンゴメン、レイス」
額を押さえながらにらんでくるレイスに謝る。
「僕もイーリもレイスの友達だからね」
「そりゃどーも。万一お前らがくっついても仲間はずれにしないよう頼むぜ」
「大丈夫、大丈夫。僕は友情も愛情も両立できる男だよ」
もし僕が正式にデトアールを継いでもまだイーリが独り身ならちゃんと養ってやるって決めてるんだ。僕にどんな縁談があったとしても全部ご破算にしてね。
でもそんなことしちゃったらいろいろ大変だからイーリには早いとこ相手を見つけてもらわなきゃ。
「レイスも。恋愛より僕を優先してね」
「え、ああ」
「それはそれとして面白いから恋愛事はすべて僕に報告してね」
「それはヤダ」
「さしあたってキントスの花が赤く咲いたら僕に報告かな」
「人の話聞けよ」
聞いてるよ。
無視してるだけ。
最終的に首を縦に振らせるんだから余計なやりとりは省略することもある。
「キントスが赤い花を咲かせたら恋をしている証拠、ってね。好きな人のことちゃんと考えながら育てるんだよ」
「聞いたことないぞ、そんなの」
「嘘だもん」
「お前……」
「でも、花が咲いたら存分にからかってあげる」
僕の友達になったことが運のつきだと思ってあきらめてね、レイス。




