33
戦闘回
「ミラは魔術師として参加していいよ。俺がうっかり剣を飛ばしたせいで、そのまま剣で戦ってもらうことになると思うけど」
「わかった。じゃあ私もうっかり投げ返すからその時は選手交代ね」
試合開始前の大事な作戦会議。
意思疎通を図る。
特に問題らしい問題もなく、剣術担当の座は力ずくで譲り合うという方向で決定した。
お互い口元だけで笑い、ガン飛ばしあう。
「ミラはさ、なんで騎士側やりたくないんだよ」
「それは――――。レイス君のほうこそ、騎士の家系なら騎士になればいいじゃない」
「だって────」
お互い言葉を詰まらせる。
知らんよ、言いたくない。
前世と同じ行動をすることで前世に愛着がわいて戻りたくなってしまうかもしれないから、なんて。
あの肝試しのときに見た光景がまだ尾を引いてる。
「────俺はさ」
このままお互い理由を言わずおしまいにするのかと思いきや、意外にもレイス君が口を割った。
「騎士になりたくないっていうより、魔術やめたくないんだよ」
「へー、なんで?」
「なんていうか……、あー……、なんか新しいことやってみたくて、俺は次男だし親もあっさり魔術学園入学させてくれて、才能あったから結構うまくいってやめるのもったいないっていうか」
「愛着がわいたんだ」
「ま、そんな感じ」
レイス君は軽い調子で答える。
まったく。はっきり魔術が好きだって言えばいいのに。自分が何かを好きになるはずないって思いこんでるだけじゃないの?
「シンディさんは何が何でもレイス君を騎士にするつもりだよ」
「うわ、最悪」
「ハワードが言えばレイス君も聞くだろうって」
「そんなわけないのにな」
「……ちなみに、レイス君は魔術師の友達何人いるの?」
「は?」
訳が分からないという顔をされる。
「あ、友達っていうのは、仲がいい人を指す言葉でね」
「そんなことは分かってるよ」
質問の意図が分からなかっただけだよね、分かってる。
ちょっとからかっただけです。
「シンディさんがさ、レイス君は魔術師の友達がいないというようなことを言ってたから」
「ふーん。……ま、いないんじゃねーの。こんな時でも思い出したりする奴は特に────」
レイス君が押し黙る。
「何か思いだした?」
「あ、いや。この間セシルに会った時、なんで誕生会に来なかったんだよって怒られてさ、楽しみにしてたのにって言われて、その、こういうのって……」
「そういうのを友達っていうんだよ!」
いちいち確認する必要がどこにあんの。
「っていうか、休み中なのに会ってる時点で他人以上の関係でしょ」
「だってセシルは空間魔術でどこにでも行けるわけだし。楽しみにしてたってのも、お祝いする人数が多いほうが言い的な話かと」
「社交辞令で呼んだだけの相手にわざわざ文句つけに行くわけないでしょうが」
これだから友達のいないやつは!
なんで頑なに友達であることを否定しようとするんだよ。
「騎士学校の友達は友達って認識してるんだから、アザンツ学園の友達も友達だって認識しなさい!」
「別に、向こうが友達っていってくるから俺も友達だって言ってるだけで」
「あーもう。いいから、そういう孤高の少年演出は」
うじうじ、うじうじと。
レイス君相手に親身になってやれるほど私も暇じゃないんだよ。
「レイス君はなんでセシルの誕生会出席しなかったの?」
「必要以上に魔術師と接すると家族がいい思いしないかなって思って……」
「レイス君は行きたかったの? 行かなくてもよかったの?」
「俺は……、────行きたかった、と思う」
はい、終了。
ハワードは友達。セシルも友達、家族は大切。
一番を決めきれないから、どれにも興味ないふりしてただけじゃん。どれか一つに絞る必要なんてないんだから、全部いいとこどりしていけよ。
はー、こんなことに巻き込まれた私って本当かわいそう。
レイス君から木刀をひったくる。
「シンディさんがレイス君を騎士にしたい理由はさ、アザンツ学園で友達いないんじゃないかって心配してるのもあると思うよ」
そういやお菓子屋やってる一番上のお姉さんもレイス君の交友関係気にしてたっけ。
なんだかんだ愛されてんじゃん。
自分が異常だと思い込んでるレイス君には家族愛も伝わってないのかもね。
「アザンツ学園にも剣の強い友達がいるってわかれば、シンディさんも安心するでしょ。今回だけ特別。はー、私ってば超優しい」
なんだかんだレイス君がいなくなると寂しいからね、特別だ。
ちゃんとシンディさん説得しなさいよ。
「じゃ、行くよ」
一回戦からいきなりぶち当たったシンディさん並びに召喚幼女の前へと立つ。
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基本的には騎士対騎士、魔術師対魔術師の応戦となる。
ときおり魔術師側が敵騎士に攻撃を仕掛けるけど、それを察知した敵魔術師が妨害して、やっぱり魔術師対魔術師になってしまうのだ。
一応、騎士が魔術を使うのなしってなってるんだけど、どうにも反射的に魔術を使ってしまいそうになる。
ていうか、剣を突き立てるだけで地面割っちゃうシンディさんの馬鹿力はもう魔術とみなしていいんじゃないの。
「っ」
振り下ろされた剣を、宙返りでよける。
レイス君が風で私を操ってシンディさんから逃がしてくれた。
「────レイス、お前には失望したよ。まさか私との約束を破ってミラ殿を前衛にするとはな」
シンディさんがレイス君に軽蔑のまなざしをむける。
「女性の後ろでこそこそ戦うのが貴様のやり方か!」
レイス君に向けた精神攻撃。
でも、私が、カチンと来てしまってる。
だってその言い方って、か弱い女の子の後ろにいるなんて情けないってことでしょう。私が弱いって言われてるのも同然じゃん。魔術師にだって前衛は可能だっての。今回はルール上しかたなく魔術使ってないだけなんだから。
もう一度、木刀を構えなおす。
周囲に負けず嫌いが多いんで、私もうつっちゃったんだろうね。
前世がどうのとか甘いこと言ってらんない。
全力で勝つ!
「レイス君! 私をシンディさんのところへ!」
「わかった」
レイス君が出した風に乗り、シンディさんの真上へと移動する。
そして、そのまま木刀を振り下ろすっ。
前世モード、オン!
「死にさらせぇぇええええ!」
ドォォォオン
チィッ、避けられたか。
でもまだまだぁっ!
無駄に舞う砂煙の中、シンディさんの気配を察知し、木刀を投げつける。
「っ!」
シンディさんの息をのむ声が聞こえた。それと同時に木刀を叩き落す音も聞こえたから、この攻撃は失敗みたい。
だけど、私はもう次の攻撃に移ってる。
右。
左。
右。
正面。
右。
左。
左。
正面。
頭上。
蹴りと拳を反撃する暇も与えずくらわせていく。
そうこうしている間に煙が立ち消え視界が開けてしまったけど、見えやすくなって攻撃しやすくなったのはこっちも一緒だ。気配だけで攻撃を仕向けるよりはるかにやりやすい。
投げつけた木刀も発見したんで、シンディさんからの攻撃をよけつつ拾い上げる。
お互い相手の攻撃を警戒して間合いを取る。
「意外だな。ミラ殿が武に秀でていたとは」
「魔術師は接近戦もできないといけませんから」
「フフッ、そうやって役目を広げるから私たち騎士の立場がなくなってしまうのだよ」
「いやいや。魔術師の国で魔術師の役目に食い込んできたのはそっちでしょう」
お互いに火花を散らしあう。
騎士学校なんて、魔力の少ない貴族の次男、三男が集まるところ。とはいえ、この人は素手で地面割っちゃうから油断できない。
一気に間合いをつけ、
「っ」
レイス君がだした土階段を駆け上り、
「やああああ」
一番高いところから飛び降りながら、
「ハアアアアアッ」
シンディさんの脳天へと木刀を振り下ろした。
でもダメ。さっきと同じ攻撃じゃ意味がない。
着地と同時に砂を投げつけ目をつぶす。
そしてそのまま木刀の切っ先をシンディさんの目へと突き刺し────。
「なめるなっ」
「っ!」
木刀がはじかれた。
目つむってんのに、察知能力どうなってんだよ。野生の獣かってーの。
敵が攻撃態勢はいる前に、こっちから仕向ける。
剣を地面にたたきつける打攻撃、剣で相手を刺す突攻撃、とくればやっぱりお次はこれでしょ。
漸攻撃。
木刀と木刀が激しくぶつかり合う。
私が攻撃をしかければシンディさんが攻撃を防ぎ、シンディさんが攻撃をしかければ私が攻撃を防ぐ。
速く、そして重い剣技の応酬。
それを何度か繰り返したところで、隙をついて後ろに下がり、間合いから離れた。
「────ッ」
やばい、息が上がる。
そして手がしびれる。
私の太刀筋、悪くないはずなんだけどな。
だけどなんていうかかんていうか、思ったようにならない。
頭でイメージしてんのと違うんだよ。頭ん中じゃもっとこう────、ああ、そっか。私が頭で思い描いてるのは、高校生だった前世の私だからか。
そりゃ、身長も力もシンディさんと同じくらいの自分を想定してたんじゃ無理も出る。
ちょっと前世を真似してたんじゃだめ。
もっと深く、より近く。
前世の私に体をあけ渡して────。
「考え事か?」
「!」
しまった!
考えすぎて警戒がおろそかに。
ぎりぎりでシンディさんの攻撃を木刀で防ぐものの、やはり力及ばず木刀は吹っ飛ばされてしまう。
グッ。
とにかく距離を!
「遅い!」
「グアッ!」
木刀がお腹に直撃し、私は、吹っ飛ばされてしまう。
砂の上に倒れ伏す感覚をじかに味わうことになろうとは。
「……うっ……」
なんとか、立ち上がっては、みたもの、の、────痛い、かなり痛い、めっちゃ痛い!
木刀、拾わなきゃ。
戦わな、きゃ。
「悪いがこれで終わりだ」
「────」
ああ、今、頭に、木刀が直撃したんだ。
私の体がもう一度地面にたたきつけられてる。
でもなんだろ。
痛みを感じない。
気持ちがふわふわしてる。
体が勝手に動く。
「────」
気づいたら私は、シンディさんを蹴り飛ばしていた。
また立ち上がったことに対する観客のどよめきを遠くに聞きながら、木刀を放り投げ、シンディさんの元へと走り出す。
今がチャンスなんだ。
体を自由に使える今が。
「なっ、ミラ殿、貴様────」
「うるさい、黙って死ね」
一気に間合いをつめ、ありったけの力を籠め、防御のために構えられた木刀ごとアッパーでシンディを吹っ飛ばす。
アハッ、軽い軽い。
「────ハッ、左!」
側転二回で左からやってきた木の鞭を回避。
忘れてた。向こうにも魔術師はいたんだった。
幼女は地面に倒れ伏してるシンディをかばうように前に出て、私をにらんでる。
これってどうすれば勝つんだっけ? 片方ダウンしてんだしもう私らの勝ちでよくない? 時間制限いっぱいまでやるのめんどくさいなあ。
ちっちゃい子相手もあんまり好きじゃないし。
「せいっ、やあ!」
助走をつけ、幼女に拳をつきつける。
好きか嫌いかはともかく、敵対した以上全力で潰すのが私の役割だし?
幼女が出した岩の盾を砕いた私は、幼女の足をひっつかみ、グルングルンとぶん回して、放り投げた。
さらにそのまま地を蹴って宙に浮かび上がり、幼女との距離を詰め、幼女の顔に手をかざす。
使う魔術は、あー……、ま、火でいいか。
この子神様なんだし、人間ごときの魔術で死にゃしないって。
「というわけで、安心して燃え尽きろ! 火術奥義っ、《センテ────》」
「させん!」
「!」
下から飛んできた木刀をよける。
木刀はブーメランよろしくくるくる回って持ち主の元へと帰っていく。どうやらシンディは戦闘不能じゃなかったらしい。
地上でぎろりと私をにらみ大声を上げた。
「魔術は魔術師が。そういう規則のはずだ! ミラ殿のしていることは反則である!」
口からペッと血を吐き捨てながら、たいした威勢だこと。
うーん……。
この人は視界が狭いなあ。
「剣は騎士が、魔術は魔術師が。じゃあ私が魔術を使っている今、誰が騎士なのでしょーか?」
最初からそういう作戦だっての。
ミラはそのつもりで戦いに臨んでたわけだし。
そっちだってそうだったでしょ。
────ねえ、レイス君?
「悪い、姉さん。俺らの勝ちだ」
私が幼女を爆破し、レイス君がシンディの喉元に木刀を突き付けた状態で、試合終了の合図が鳴り響く。




