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ユーフェミア様の夏季休暇は戦いの連続だった。
以下がユーフェミア様の戦績である。
王都子供魔術大会優勝。全国魔術選手権級位・段位無取得者部門優勝。王国杯優勝。魔術師育成学校初等教育部門個人戦優勝。術技コンテスト最優秀賞受賞。女性魔術師大会五位入選及び特別賞受賞。王都特別治安維持署主催総合魔術勝ち抜き戦優勝。他八つの大会で優勝。
後に『戦乙女』とあだ名される少女の華々しい第一歩だった。
これらの戦績を書面で学校に送付し、ついでに休暇申請も滞りなく終えたユーフェミア様がこういった。
「夏季休暇中なのにハワードに一度も会ってないわ」
禁断症状の出ている人みたいだった。
そういえば確かに会ってない。冬のことを思えば夏だって毎日レイズコット家に来てそうなものなのに。
手紙のやり取りだけじゃ寂しいなんて、かわいいんですから。
「ハワードに会えなくてイライラするわ。ハワードに会いに行くわよ」
……あの、本当に禁断症状でてませんか?
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そんなこんなでやってきましたルンベル騎士学校。
校舎復旧の影響で冬の間授業が一切なかった分のしわ寄せが夏に来て、今年は夏季休暇がなくなっていたそうです。
あのハワードが来ないわけだよ。
ただ一度も家に帰さないのもどうかという話になって、今年は特別に一般開放日として逆に学校に来てもらう行事を設けたらしい。
ユーフェミア様は手紙でそのことを知って、会いたい気持ちが膨れ上がったんだそうな。
ルンベル騎士学校。
伝統と格式ある学校であり、多くの優秀な騎士を輩出してきた。
以前は国のために戦い騎士の称号を得るにふさわしい人材の育成のみを行っていたが、現在は称号にとらわれず治安維持署などへの就職も見据えた教育を行っている。在学中優秀な成績を修めた者は五年間の城内兵士経験が必要な王家専属騎士に卒業後すぐなれる制度もある。
と。なるほどなるほど。
ハワードからもらったルンベル騎士学校の案内書をぱたんと閉じる。
魔術中心の国なんで騎士の活躍の場ってあんまりないし、はっきり言って、魔術が苦手な貴族の次男三男がとりあえずの箔をつけるために入学してる印象しかないんだよね。
あとはコネづくり?
学校の男女比は九対一の女日照りらしくて、そこに美少女がやってきたとなればそりゃもう、
「喉乾いてない? ユーフェミアさん」
「お菓子もあるよ、ユーフェミアさん」
「仰いであげるね、ユーフェミアさん」
こうなりますよね。
大きな日差しよけの下で豪華な椅子に座り、接待する男を両脇に侍らせたユーフェミア様はまるで女王様のよう。
同じ年頃の男たちはこぞってユーフェミア様に尽くしている。
私はというと男たちの後方で日差しにさらされながらこの光景を眺めていた。と、一人の男の子が私に声をかける。
「あ、そこの君。食堂から何か飲み物を持ってきてくれないか」
くぉら、男子!
なに人を召使扱いしてくれとんのじゃ!
私はユーフェミア様の召使であって、お前のじゃないんだぞ!
……なんて啖呵切ることもできず素直に食堂に向かう。
ったく、食堂の場所まで案内しろってのよ。
あてもなく校舎をうろついてみる。
食堂といえば一階か別校舎と相場は決まってるから、とりあえず一階からまわってみますか。
よその学校ってなんか緊張する。
感想としては、やっぱりお金持ちの学校だねって感じ。
一般開放日なので来客者が楽しめるよう学校のあちこちでいろんな催しが行われいて、なんだか楽しそう。あとでユーフェミア様と一緒に回りたいな。
「おーい、ミラー、ちょっと待って」
「?」
呼び止められて立ち止まる。
やってきたのはハワード。
「案内しに来たんだ。ついてきて」
「ありがとうございます。でもユーフェミア様を残してきてよかったんですか?」
「大丈夫だよ。ミラが迷って戻ってこないほうがユーフェミアが心配するって」
「では早く戻らないといけませんね」
ハワードに連れられて食堂まで向かう。
「ユーフェミアって学園でどう?」
「ご友人もたくさんいらっしゃって楽しそうですよ」
「そっか、良かった。ユーフェミアって手紙じゃあんまり自分のこと書かないからどうなってんのかなーって」
なんだか、一人暮らしの娘を心配する母親みたいだな。
「ハワード様はどのように過ごされてたんですか?」
「俺? 俺は普通だよ」
「普通に毎日友達百人つくっている感じですか?」
「そんなには作ってないって。あ、ショウとソウタは元気?」
「元気ですよ。私も夏になって会ってはいないんですけど」
「やっぱ休みになるとなかなか会えないもんなあ。……ユーフェミアとショウってまだ仲悪いのか?」
「あー……、いえ、心配されてるほどではないと思いますよ」
以前のような殺すか殺されるかみたいな雰囲気はないし。
積極的に会話することはないけど一緒にいることを嫌悪するほどではない、みたいな。
「そっか、良かった」
ハワードは安心したように笑う。
本当にお母さんみたいなやつ。
食堂につき、ハワードは食堂に控えていた執事的な人に飲み物を頼む。執事的な人は、
「少々お待ちください」
といって、奥からティーポットと、氷の入ったグラスを持ってきてくれた。
ここの食堂には魔術師がいるのか。
この暑さだと氷の魔術は大変重宝される。
「お持ち致しましょうか?」
「いや、俺たちで持っていく。ありがとう」
ハワードが執事的な人から二つを受け取って、私たちは再びユーフェミア様の待つ屋外訓練場へと向かった。
「あの、私が持ちます。そのために遣わされたのですから」
「いいって。騎士学校で女の子に荷物持たせて手ぶらなんて状態見られたら俺が顰蹙買ってしまうよ」
もしかしたら案内はついでで、本当は荷物を持たせないために来てくれてたのかも。
「私は使用人なのですからそのようなお気遣いは不要でしたのに」
「うん。使用人ならね。でもミラはユーフェミアの親友だから」
「そ、うですか! そうですよね!」
わっはー。親友ですって。
私はご満悦ですよ。
人の中をニコニコ顔で歩いていく。
素敵なお召し物をまとった人たちとすれ違いながら、「他校だからって気を抜いてはダメよ」と私まで飾りられられた理由がちょっと分かった。少なくともこの服を着るだけの財力を持った家の関係者ですと周知させることはできるってこと。
それを踏まえて考えるに、私に飲み物持ってくるよう言い放ったあの少年はかなりの家柄なんでしょうね。
ケッ。
屋外訓練場まで戻ると、その少年が吹っ飛ばされていた。
「貴様ー! 客人を小間使いのように扱うとは何事だー!」
少年は見事なまでに宙を飛んで、倒れこむ。
でもそれだけじゃ終わらない。
少年を吹っ飛ばした人は少年の元へ行き、倒れた少年の胸ぐらをつかんで頬を何度もたたきだした。
「目を覚まさんか! この程度で根を上げるなど貴様それでも男か!」
まさに死体蹴り。
少年はすでに虫の息である。
「ハ、ハワード様、あれは……」
確かに彼にはムッと来たけれども、あそこまでされると恐怖を感じる。手が震える。
「……」
ハワードもあまりかかわりたくなさそうに眼をそらした。
でもがっつり当事者なのでそうもいかない。
少年を折檻していた人はこちらに気づいて、少年をぽいと放り投げこちらへやってくる。
「お客人。それとハワードも。我が愚弟が失礼をした。ご容赦願いたい」
深々と頭を下げる。
その人は、その女の人はとても力強い目をしていた。
長い髪を一つに結んだ凛々しい顔立ちの女性。年は多分十七、八くらい。ハワードたちと同じ騎士用の制服を着ているけど、出るとこ出ているせいで逆に女性らしさを強調している。
「か、顔を上げてください。お気持ちは十分伝わりました」
これ以上はむしろ恐怖の対象です。
女の人は顔を上げる。
「御客人、お名前は?」
「ミラ・ヴェスタと申します」
「ミラ殿か。私の名前はシンディ。ミラ殿には重ね重ねお詫び申し上げる。ハワードにも迷惑をかけたな」
シンディと名乗った女の人はハワードにも頭を下げた。
ハワードの知り合いか。……いや、同じ学校ならハワードの知り合いじゃないほうがおかしいか。ハワードのことだからこの学校全員と友達なんだろうし。
「気になさらないでください。もともと私の婚約者のための飲み物を持ってきただけですから」
「何? ハワードの婚約者殿?」
「はい。あそこに」
ハワードの指さした方には相変わらず人を侍らせているユーフェミア様が。
シンディさんは、ほう、と感心したように声を漏らす。
「あれがハワードの自慢の婚約者か。いろんな人に婚約者を紹介して回っていると噂だぞ。あの状況下でひるむことなく堂々としたたたずまい、仕えるにふさわしい御仁だな」
かなり都合の良い解釈をしてもらった。
何物にも屈しない女王然としている間にユーフェミア様を回収しよう。じゃないと近づくものすべてを滅ぼす破壊王が顔をのぞかせる。
「では、私たちはこれで」
ハワードも同じ考えらしく、頭を下げた。
「うむ。──ああ、ついでに、我が末弟にも戻るよう言ってくれ。あのバカはハワードの婚約者を見るなりそっちに行ってしまってな」
おお、この人の弟二人目もユーフェミア様に惹かれてしまったか。
罪な人、ユーフェミア様。
シンディさんの言葉を聞いてハワードは少し驚いた顔をする。
「珍しいですね、来ているんですか?」
「ああ。この後の余興に出場させる」
「あ、なるほど。そうですか。わかりました、伝えておきます」
「頼んだぞ」
シンディさんは颯爽と去っていく。ハワードはその背を見ながら、
「だってさ、ミラ」
と言った。
「?」
何?
私が末弟くんに用件を伝えろってこと?
見知らぬ相手にそれは無理だろ。と、思っていたら、見知った人を発見した。
ユーフェミア様のそばに立ち大きめの団扇でユーフェミア様を扇ぐその人に、私とハワードが声をかける。
「久しぶり」
「お久しぶりです」
久しぶりに会った意外な人物は振り返り、笑った。
「ミラにハワードじゃん。久しぶり」
その人はレイス君だった。
同級生の誕生会で会わなかったような人と騎士学校の催しで会うとは思ってもみなかった。
なぜここにいるのか訊こうとしたけど、それより先にハワードがレイス君に話しかける。
「シンディさんから、レイスに戻ってくるよう言付かったぞ」
「げぇっ」
レイス君は心底嫌そうな表情をした後、持っていた団扇をハワードに渡した。ハワードは飲み物をこぼさないよう慎重に受け取り、そのまま別の人に渡す。
「ハア、面倒くさっ。まあ、伝言ありがと。俺、もう行くよ」
レイス君は軽く手を振り、重たい足取りでこの場を去って行く。
「俺らも行こうか、ユーフェミア。面白い催したくさんあるよ」
「そうね」
ユーフェミア様は立ち上がり、自然な動作でハワードの腕に自分の腕を絡ませた。私はすかさずハワードから飲み物を預かる。
ユーフェミア様を囲んでいた男子たちから不満と残念の声があがる。
「ユーフェミア様……」
一応お礼くらいは、とユーフェミア様の袖を引っ張った。
ユーフェミア様はフンと鼻を鳴らし、男たちに言う。
「みんな、ご苦労だったわね。おかげで快適にすごせたわよ。───あ、ありがと」
ユーフェミア様が照れたようにそっぽを向き、男たちから歓声が上がった。
ありがとうと言わないユーフェミア様を視線で急かして言わせたかいがあったというものです。
どおよ、ユーフェミア様の実力。
ツンツンした態度から一転して素直になる様は、反則級にかわいいでしょう。
ユーフェミア様をもてなしていた男性陣も満足したようだし、三人でその場を離れた。
歩きながら、ハワードに聞きたいことを訊いてみる。
「結局、レイス様と先ほどの女性はご姉弟だったのですか?」
「そうだよ。で、吹っ飛ばされてたのがレイスの双子の兄」
「双子!」
思わず大きな声を出してしまった。
いや、双子がまったくいないってわけでもないんだけどさ。でもこんな身近に、実は双子でしたっていう人がいると驚く。
「ご姉兄が騎士学校なのに、彼は魔術師学校なのね」
「レイスが言うには、魔術のほうが楽しいからだって。でもレイスの家は騎士の家系だからシンディさん、……レイスのお姉さんはレイスを騎士にさせたがってる」
「へえ。騎士の家系で魔術師にだなんて彼、変わってるのね」
ユーフェミア様がレイス君の本質を突く。
そうです。あの人ちょっと変なんです。
「それで? わざわざ騎士学校の催しに来たということはいよいよ騎士になる決心をつけたのかしら?」
「違うよ。───騎士見習いと魔術師見習いが二人一組になって戦う模擬戦があって、シンディさんの相方として呼ばれたんじゃないかな」
「模擬戦」
ユーフェミア様がぴくりと反応する。
「それはあれかしら。今から行っても参加できるのかしら?」
「飛び入りも歓迎とは言ってたけど、……参加したいの?」
「私は魔術師見習い、あなたは騎士見習い。参加しない理由がどこにあるの?」
そこかしこに飛び散ってると思いますよ。なんて、口には出さないけど。
ハワードは困ったように頬をかく。
「参加者は先輩方ばかりだし、俺をあまりあてにしないでくれよ」
困りながらも参加はするらしい。ユーフェミア様は「腕がなるわ」と、口の端を上げる。
では、私は精一杯応援させてもらいます。




